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アイアム・山門文治【note創作大賞エッセイ部門】



00:ヒーロー

太宰治は防空壕のなかで、子どもたちにちょっと不思議な小噺を聞かせたという。
ぼくの大好きなエピソードだ。

上空には、自分たちを爆撃するために上空に旋回するB29は、想像するよりもずっと大きく見えたという。轟音を発する鉄の塊がこれからすることは、はるか下に生きる具体的な生命を奪うために、爆弾を投下することだった。爆撃を守るにはあまりにも心細い要塞。それに中は暗く蒸し暑い。
防空壕の中にいる子どもたちは、恐怖でいっぱいだったはずだ。いや、大人だって怖かっただろう。
父親としての太宰は、小噺をすることで子どもたちを楽しませた。

次の瞬間には命が途絶えてしまうかもしれない、そんな瞬間にも物語をつくることをやめなかったのだ。
かっこいい……

小学生のぼくにとって、太宰治がはじめて知ったヒーローだった。

01:物語は
砕かれる

物語が大好きな子どもだった。
よく図書室にこもって冒険をしていた。

『デルトラ・クエスト』『ハリー・ポッター』
『走れメロス』『大造じいさんとガン』
『杜子春』『ニングルの森』『三国志』

活字がいざなう冒険に四六時中、没頭していた。
子どもの驚異的な集中力は、ぜんぶぜんぶフィクションへ注ぎ込まれた。
物語をつくる人になりたいという夢を抱くまでにそんなに時間はかからなかったように思う。

空想の世界に耽っていることが多かった。
ほとんどは、空疎な妄想だった。ぼくには、8個年が離れた姉がいるのだが、その姉が昔遊んでいた何十体もの動物のぬいぐるみがあった。動物たちにそれぞれ配役を与えて、王国を築いたり、恋愛したり、戦ったり、ストーリーを付与して楽しむ遊びを覚えた。この遊びは長くは続かなかった。なぜなら、これを女みたいになるとよく思わなかった父親が、ぼくに人形たちをすべて棄てるように命じたからだ。
ゴミ袋を突き出して、全部のぬいぐるみを廃棄するように言われた。ぼくには拒む選択肢はなかったので、彼ら一体いったいに、こころの中で別れを告げながらゴミ袋に入れていった。魂に卸し金で削るような思いだった。無自覚だったが、ぼくは涙を流していたらしい。父親の前で泣くことは得策ではない。泣いていることを面白く思わなかった父親はぼくのこめかみめがけて足蹴りした。こういう時の父親は追い打ちをかけないと気が済まないのだ。より深く相手のこころを抉る言葉でないと気がすまないのである。電撃のような痛みが、こめかみに突きささり、うずくまった。

おそらくこれが、ぼくの最初の記憶であり、最初の挫折だった。

5年生のクラスになると毎日、日記を書くことが義務づけられていた。生活日記という名前だったと思う。担任の先生は面白い先生で、日記が学級新聞に掲載されると「やったねの木の実」というごほうびがもらえる。これがどうしても欲しくてぼくは、面白い文章を書いてやろうと考えた。
内容はこうだ。
宝くじで1億円当たったという冒頭から始まり、そのお金の使い道や欲しいものなどを書き、最後は「という夢をみた」というオチにした。
学習塾を経営する父親は、たまに気まぐれにぼくの学校の生活日記を見てやると言った。
ぼくはそれを拒んだが、拒まれることを面白く思わない父親はぼくのランドセルから生活日記を取り出して、例の宝くじの日記を読み「くだらない」と吐き捨てた。
「お前、こんなくだらないことを書いてるのか。宿題なんだから、ちゃんと書けよ。だいたい1億程度じゃ一生遊ぶこともできないからな」
ぼくはじぶんの消しゴムでそのエピソードを消して、今日あった出来事を事実通りに書き直した。国語的な誤り注意しながら文章を書いた。書けない漢字が出るたびに、掃除機の柄の部分で引っ叩かれた。「なんでこんな漢字もわからないんだ。障害でもあるんじゃないのか」

幼い少年の夢は、父の厳格な現実をみるまなざしによって砕かれた。

02:高校を
中退する

中学生になっても、やっぱり物語にどっぷりハマった。
でも、それはどちらかというと、物語を通してだれかとつながることの楽しさを覚えたと言った方が正しかったかもしれない。
物語を好きなもの同士で、そのことについて語っている時間はたのしかった。

『DEATH NOTE』『バトル・ロワイアル』『幽☆遊☆白書』
『コードギアス』『人間失格』『青の時代』『家庭教師ヒットマンREBORN!』
『池袋ウエストゲートパーク』『GTO』『羊を巡る冒険』

物語の幅は、漫画やアニメ、映画など多様なジャンルを区別することなく接種し続けた。

『ねじまき鳥クロニクル』『半島を出よ』『美徳のよろめき』『愛のむきだし』『GANTZ』『HUNTER×HUNTER』『砂の女』『痴人の愛』『ドグラ・マグラ』『ぼくは勉強ができない』『すべて真夜中の恋人たち』『太陽の季節』『火の鳥』『ライ麦畑でつかまえて』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『四畳半神話大系』『化物語』『魔法少女まどか☆マギカ』

背伸びもしながら、多くの物語を吸収した。
するとみるみる成績は下がっていった。

16歳にはもう絶望的なまでの成績の遅れを観測し、17歳になったら取り返しがつかないところまできていた。
現実逃避して、学校にすら通わなくなった。
高校も通わなくなった。

社会から引っ込むようになった。この頃になると物語をみてもなんとも思わなくなっていた。
代わりに、死ぬことばかり考えるようになった。毎日毎日死ぬことばかり考えた。父親は「頼むから死んでくれ」と言った。すべてがどうでもよくなった。自殺の方法をたくさん調べた。どうしたら痛くないのか。どうしたら楽に死ねるのか。
除痛の先のそれだけが救いだった。いろんな場所へいった。深夜の狭山丘陵で首をくくることも考えた。国分寺駅のホームから、あるいは、吉祥寺の8階建ての立体駐車場から飛び降りることも考えた。母親が「生きていればそれでいいから」と言いながら泣いていた。なにも感じなかった。なんとも思わなかった。
ぬけがらみたいに日々を過ごした。夏が冬になって、冬が夏になっていた。人生から四季がなくなった。喜怒哀楽もなくなった。ただただ、まっしろな空洞がそこにあるだけだった。

これは、あの時、
じぶんの手でぬいぐるみたちをゴミ袋にいれた報いなんだと思う。

03:孤独な象の話相手

ライアル・ワトソンという植物学者の『エレファントム』という本のなかでこんな話がある。
南アフリカの象の群れを追っていた研究チームの話だ。
20頭ほどの群れで生活していた象の群れは、人間たちの狩猟によって、次々に命を落としていった。そして、とうとう最後の1頭になった孤独な象。
かれは、海にむかって低周波を発していた。誰と話しているのだろう。
その周波数の先には、同じヘルツ帯で遠くにいるシロナガスクジラいた。交互に交信しあい、まるで会話をしているようだったという。
種を超えた友情の可能性を感じさせる神秘的なエピソードである。

群れがいない象の気持ちがなんだか痛いほどわかる。
当時、ぼくにもシロナガスクジラのような話し相手がいた。それは、読書をとおして語りかけてくれる友人たちだった。

物語には没頭できなかったが、知識には没頭できた。からっぽな器には知識がよく詰まる。気になるタイトルを片っ端から読んだ。
こころの本棚に何千冊もの本が積み上がっていく。

世界にはまだまだ知らないことがある。
大学に行きたくなった。

04:文学部

ぼくは、京都のとある大学の文学部に入学した。

24歳で大学1回生になっていたので、まわりと見比べてもとても、1回生には見えないだろう。
ぼくもいまさら6個下とキャピキャピ遊ぶこともできなかったので、すごく浮いた存在だったと思う。
なんせ大学を卒業控えた4回生との方が、年齢も近いのだ。なんなら彼らよりも年上だ。4回生もぼくに敬語を使ってきたりして、それを見て1年生もタメ語をやめて敬語になるという展開など、だいぶ時空を歪ませてきた。

ところで、こういうポジションは、エラソーにしたら絶対だめだ。
年上風を拭き回して、「おう、奢ったる」みたいな兄貴を始めてもあまりいいことはない。それよりもエラソー感をすっかり脱臭し、年上ではあるんだけど、なんかそうは思えない人という絶妙なポジションを確立する方がずっといい。
もし、大学に入る年齢がマイノリティ年齢になった人は、この立ち回りが一番だということを教えておく。
(しかし、これを実現するためには、年下からタメ口きかれることや酔っ払った年下から、お前呼ばわりされてへっちゃらに笑っていられるメンタリティが必要だ。ぼくはもともとそのへんは全く苦痛ではなかった。だって、もともと中卒ニートだし。)

ぼくは、大人数が得意な性格ではないので、どちらかというもの静かな人とかかわる方が多かった。そんな彼らとは、一対一でかかわることことが多かった。
ふたりで会うのだ。男だろうが女だろうが、ふたりで遊ぶことが増えていった。すると、いつまでも公のキャラクターの仮面をつけることに、に疲れてき始める。「キャラクターのわたし」とは別の「そいつ」が顔を出すのだ。
キャラクターを剥がして、リラックスした感じになるといろんなことをぶっちゃけ始める。
「じつはあの子嫌いなんだよね…」こんなネガティブな共有に始まり。
そして、ぼくも「わかるー!」なんて燃料を加えてしまう。
向こうもうれしそうな顔になって、悪口大会が始まる。
甘美な共犯関係を紡ぎ出すのが、信頼なのだ。
「ほんとうは、ぼくって……」
「今までだれにも話したことないんだけど……」「文治くんに言うのが初めて」
こんなことを話されるようになった。
ぼくのところに、秘密が集まってくる。
なかなかえぐい話もあったし、そのせいでぼくも引っ張られて鬱っぽくなったこともあれば、これを誰かに話してしまえば誰かが捕まってしまうような、とんでもないものまでふくめてたくさんの秘密が集まった。

だれにも話したことをじぶんにだけ打ち明けてもらうというのは、
とても気持ちがいいものだ。

神聖な気持ちといけないことが同居しているなにかがある。

こういう秘密の暴露を加速させたのが、散歩とドライブと登山だった。
対話を加速させる装置はだいたい景色が変わるところから始まる。

とにかく、こんな感じでぼくは、一対一で話して、対話の面白さを知った。文学部での学びは、ほぼ
100人以上の人とこうやって話し、さまざまな秘密を共有した。

6年分の孤独を取り戻すように、ひっきりなしに対話を繰り返した。
積み上げた文献をリアルで答え合わせをするように。

05:マウント
とマッチング

「電博落ちちゃったぼくなんか。誰とも遭わす顔なかったんです」

「弟が死んじゃったんですよね」

「産近甲龍にまともな就職先なんかありませんよ」

「異世界転生しか楽しみがない」

「その時、奥さんは出産で里帰りしてたみたいなんですよ」

「イケメンにはクズしかいません」

「うちの経営陣、全員ホモソできついやんか」

「昔、お兄ちゃんが動物とか殺しちゃう人で。でも、頭良かったから洛星から京府医入ってん」

「わたし、男運が悪くてさ……」

「同志社のアメフト部の人と宅飲みってことになって、そのまんま犯されちゃったんよね」

「京大入っておいて、中途半端な存在で死ぬほうが怖ない?」

「切開してないんで、正確には整形じゃないです。ほんとはしたかったですけど」

「妊娠したからブロッたった」

「バレたのは、俺の4回目の浮気や。ミサは鍛えられた。なんも言ってこんくなったわ」

「女性には生理があるから管理職任せられへんわ」

「もう信じられるの金しかなくない?」

「十三で待ち合わせして、出会い系で知り合ったおじさんとヤッてお金もらってんだ」

「将来のこと話し合ったら、結婚に対する価値観が合わないから別れたんですよね。これ以上一緒にいる必要ないかなって」

「レンさんは結婚相手で、トラノスケはセフレで、オカノくんは彼氏って感じなんですよねぇ」

「ついつい奢っちゃうんですよね。儲かってるみたいに見栄はりたくて。借金してまで」

「昔、レイプされたことがあって。それ以来男性不信みたいになっちゃって」

「今さら年収500万には戻れないよね〜」

「じぶんでも分かってるんです。じぶんを傷つけるのがわかってる人を好きになってます」

「大阪経済大は耐え、大産大はアウトー」

「バカと話すと疲れるわ」

「その彼がゴム付けない人で……」

「親が関関同立以上じゃなきゃ学費出してくんないんすよ」

「大学辞めたぼくには、なにもない……」

「関関同立に行く意味あんの?」

「双極やっちゃったみたいです」

「中星一番の『オネステ』読んだら女なんか楽勝っすよ」

「外面はいいんだけど、犬とか投げる人で。しかも顔は傷つけないように器用に」

「ドラッグやりすぎちゃってさぁ。もうお金稼ぐことしか、楽しめないんだよねぇ」

「女に経理をやらせるなら絶対セックスしとかなあかん」

「京セラ入れたけど、漠然と老後までの人生ぜんぶが見えちゃったみたいな……」

「女の子と反射的に目ぇ逸らしちゃうんです……なんかエロいことで頭いっぱいのじぶんの内面見透かされてるみたいで」

「うちの会社の役員が同志社のアメフト部と同じことしたんですよ。酒で泥酔させてレイプってやつです」

「別れた途端に、脅迫文とか送ってくるようになっちゃって……引っ越したんです」

「幼馴染が事故に遭って、昨日連絡があって」

「役員が関学ですからね。関学贔屓ありますよ」

「毎日、同じことの繰り返しで苦しい。人生がループしている感覚なんだよね」

「わざとイヤなこと言ったりしたり、愛の強度っていうの?確かめたくなるんだよね。こんな酷いことしてもまだ好きなんだ、へぇみたいな」

「お姉ちゃんが好きになる人が毎回、本当にヤバい人で……わたしお姉ちゃん彼氏とヤッちゃったんよね」

「睡眠薬やりすぎて勃たへんくなって、バイアグラ飲んでんねん」

「初対面の人を信用できるわけないじゃん」

「女支配すんのが好きやねん」

「あー整形したい」

「1000万稼げなきゃ俺はだめになる」

「飛田新地くらいしか人生に楽しみないっすね……」

「あんなん衣笠モンキーパークやろ」

「ぼくね。マンションの階段で一人で泣いてるんだよね」

「おバカな大学の人といっしょに働くのイヤ。足引っ張られるから」

「毎日何百万って入ってきてマジサイコーって感じ……老人騙してなにがわりぃの?」

「福知山の方言ってなんか変よなー」

「パチンコくらいしか楽しいことないっすねー」

「今日、客にリスカ跡見せられてん。きっつう、それで仲良なれる思うなよ」

「わたし在日のヒト生理的に受け付けないんだよね」

「世の中の98%はバカだよ」

「ぼく、仕事ができないから。創業メンバーなのにね……」

「彼氏が京大なんだけど、ワタシのこと好きすぎるんよ。こいつ大丈夫てなるとどうでもよくなっちゃわん?」

「(大森)靖子ちゃんだけがわたしを理解してくれるんです」

「5回くらい会ったら、急に冷たくなって、既婚者ってバラされてん」

「マネージャーに写真ぜんぶ並べて、これとこれとこれがブスって言われて……」

「あいつの今の彼氏、大学中退らしいんよ。俺は、オラクル内定出てるのにな、絶対あいつは後悔することになるからな」

「阪大入って関関同立の男と結婚でけへんわ」

「正直、私文が小論文教えてるの終わってるよね。あの塾」

「中学入試で親に無理やり勉強させられてたなぁ……おかげで今があるんやけど、あれ苦しかったなぁ」

「バケツに愛を注ぐような恋でした」

「昔、男の子こわかったけど、大人になるにつれてこわい男消えていった」

「お兄ちゃんが東大卒の弁護士ってあれ、ホントは嘘なんだよね」

「心斎橋のホストハマっちゃってたんですよねぇ〜」

「どうしても大好きな子がキャバクラやめてくれんくて……」

「人生なんてほぼゲームみたいなもんやろ」

「院試終わるまでは別れる気はなくて、受かった瞬間きれいさっぱりフってやろうと思ってん」

「将軍塚きらい。マッチングアプリで初めて会った人に車の中で口でさせられて……」

「消えたい……」

「鬱になっちゃった」

「お前のかわりなんかいくらでもいるっていわれたんです」

「マッチングアプリで知り合った人好きになったら負けだよ」

「旦那に不倫されて……」

「働くのは好きだし、まわりから頼られもするけど、子育てに参加できない感じがあって苦しい」

「女の子だったら、パパは誰にでもいると思うよ〜パパみたいな人は絶対いる」

「同志社くらいにしとけばよかった。浪人してまで国立入って男にビビられ。しょうもないわ」

「指、3本しかないやんか?……これが原因でいじめられたなぁ。京都人のいじめは陰湿やねん」

「もう死んじゃおっかって思ったんよね」

「水子供養には行くよ……」

「生じゃないと興奮できない」

「だからブロックしたんだよね。もういらないやんか」

06:みんな、
傷だらけだった

ぼくは、たくさんの人の人生にお邪魔した。
すると、わかったことがある。
誰もが何らかの形で傷つき、苦しんでいるということだった。
おかしな行動にも、そのおかしさには理由があって、
みんながそれぞれの人生をもがいていた。

ふだんはたくさん笑ってるあの人にも、
想像を絶する過去がある。

小さな身体にいっぱいの絶望を引き受けて、
悔しくて、自分を痛めつけたり、誰かにやり返している。

みんなが傷つき、みんながじぶんを嫌いになっている。
じぶんを嫌いだから、人を嫌うこともあたりまえになって。

女も男も、
等しく傷ついているし傷つけあってる。そうやって、じぶんがされてイヤだったことをだれかにしてしまう。

そしてさらに、深く傷つく。
そんなじぶんでもなんとか保ちたいから、年収とか学歴とか会社名とか
誰かのものさし持ち出して、空虚なぽっかり穴を埋めていく。

人生が数字に置き換わっていく。数字を積み上げる数字になっていく。

それでも足りないから、欲望はどんどん邪悪になっていく。肥大化していく。
非人間的になっていく。他人はじぶんの欲望を満たす道具になっていく。

利用し合って、傷つけ合って、
比べて勝手に傷ついて。

もう誰とも関わらず孤独を貫くとか誓ったりして、
でもさみしいからマッチングアプリに登録して。

また、傷つく。

07:数字じゃなくて言葉を
積み上げる

物語つくりたいって立ち上がって、
ぺしゃんこにされた。

それから、しばらく物語がまったく頭に入ってこなくなった。
だから、代わりに知識で頭を満たした。じぶんでじぶんを教育した。

そして、たくさんの人と膝を突き合わせて肩を並べて対話した。
ひょっとしてぼくの人生に与えられた役割ってこれを言葉にしていくことなんじゃない

替えがきかないたったひとつの人生を、
具体的に、詳細に、対話を重ねて、言葉に変えて積み上げていく。

ぼくがこの世に生まれた理由わかった気がする。
30年の人生。もうすぐ31になる。
あんなに悩んでこんな性格になったのも、ぜんぶこの日のためだったんだ。
人生に無駄なことなんてなにひとつなかった。
今、言葉を積み上げるために、ぼくは生まれてきた。

生きたい。
生きてもっと、多くの人に届く言葉を紡ぎたい。
みんなが、生きたくなる言葉を。

08:それでも生きたくなる
言葉を探してくるから

みんながちょっとでも励まされる言葉を探してくるから、
だから作家を名乗らせてくれないか?

売れてない。ぜんぜん有名じゃない。
本も一冊も出してない。

でも、だれかのこころを動かす言葉を吐きたいんだ。
壁への卵投げにぼくも加わりたい。

歴史に名前なんか残せなくてもいい。
三文文士と笑われてもいい。
かっこ悪くても、くだらなくても、才能なんかなくても。

傷だらけになってるみんなに届ける言葉と向き合いたい。

6年も遅れて大学入った。この時点で多くの人はぼくの元から離れていく。
でも、たまにそこに残ってくれる人がいる。そして、リラックスしながら、人生を語ってくれた。
たくさん聞いて、たくさん頷いて、特に意見は言わないけれど、おおくの時間を対話に費やしてくれた。

だから、ぼくはいろんな人の言葉がミックスされた容れ物なのだ。言葉の容れ物。そんな関わり方で、彼らにぼくは生かされてきた。

へんてこなぼくを受け入れてくれてありがとう。
今度は、受け取った言葉をぼくが積み上げる番だね。

09:アイアム・
山門文治

三文文士という言葉がある。
三文文士とは、三流作家とか安っぽい物書きを揶揄する時に使う。

ぼくなんかが作家を目指したって、三文文士にしかなれないだろうなぁと思った。

でも、たくさん本を読んだし、たくさんの人と対話した。
だったら、三文文士にしかなれないかもしれないけど、チャレンジしてみようかな。
せめて、三文文士に人生と魂を吹き込もう。

名前に山がつく人には優しい人が多い。
山田邦明さん、山田玲司さん、山里亮太さん。

門は学門(誤字なのに当時気づかなかったw)。
学問によってじぶんを再教育したことで、だいぶ強くなった。
これまで習った教育なんか放棄して、じぶんで選んでじぶんを好き勝手に教育できる機会を持てると、本当に救われる。

文は文学部の文。
ぼくが卒業した学部。
法学部に入ったら弁護士になりたいように、
文学部に入ったら作家になりたいものだ。

ぼくの一番最初にヒーローだと思った作家は、もちろん太宰治だ。

アイアム・山門文治。



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