希望の人

 2011年12月発行の同人誌『What Is Idol? vol.6』(発行:No Knowledge Product)に寄稿した文章が出てきたので、載せてみます。
「HOPE OF 2012」というお題でした。


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 安本彩花は不思議な人だ。のんびりゆるゆるしたMCや、エビ中のキャッチコピー「キングオブ学芸会」を象徴するようなステージングは初見の人を一度で惹きつける。風雲急を告げてるらしいアイドル戦国時代で、台風の目のなかに在るかに思える穏やかさ。
 音楽主任の前山田氏は「素人感を全く失わない」「居そうで居ない等身大の中学1年生」と評する。ステージの上でアイドルでいながら同じペースを保ってゆく、そんなことが本当に可能なのだろうか? 『鏡の国のアリス』の台詞「その場にとどまるには全力で走り続けなければならない」を引かなくても、アイドルが「等身大」で「不変」であることの困難はもう幾たびも論じられたはずだ。
 前山田はそれも織り込むように、新曲のタイトルを「もっと走れっ!!」と、そしてカップリング曲を「永遠に中学生」とした。ぐんぐんと人気も成長も加速すること、けれどもエビ中がエビ中で変わらないままあること、ファンが1年ずっと感じていた矛盾を、安本彩花というひとりの奇跡は解決する。彼女にマイクが渡されるたびに、焦がれる想いは光に当たるようにゆるやかに融けてゆく。
 変わってしまうこと。変わらないこと。この忘れられない1年、私たちは何度もそのことを考えた。希望を語ることも、そしてアイドルを想うこともたぶん同じ回路だ。毎日がめくるめくあたらしさと楽しさで埋まるなら、それがずっと、ずっと終わらずに続いてゆくなら。まるで光のような、不変と速度をあわせ持った奇跡に近いことを私たちは望みねがう。
 6/26の生誕祭で、安本はももクロ佐々木彩夏のソロ曲を(名前繋がりで)カバーした。歌詞は一部変更が加わる。原曲、早着替えしながら「変わるわよー」と歌う部分を、安本はくるっとだけ回って「変わらないわよ」とはにかむ。幾たびの議論をたったひと言で薙いでしまう、不思議で目の離せない人。希望の人。

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