恋リア研究メモ1:不在
『オオカミくんには騙されない♡』をはじめ恋愛リアリティーショーについて考えるうえで、しばらくいくつかのキーワードについてのメモ書きを載せていきます。まず「不在」について。
『オオカミくん』シーズン4からは、全メンバーが共同作業で1つのアート作品を作るという課題が課され、そのための作業スペースが秘密基地のように設けられる。メンバーは最初個々のマグカップを持ち寄り、その後「基地」でのシーンの前には、今そこにいるメンバーの「マグカップだけ」が映される演出がしばしば挟まる。これはちょうど平田オリザが『演劇入門』で示したような、まず人物の出入り表だけでプロットを作り、今そこに誰がいるかいないかで自ずとその場で発生しうる会話が立ち現れる、という理論を彷彿とさせる。
「基地」には原則、どの時間に誰が来てもよいことになっている。つまりは在不在を、メンバー個々が自身でコントロールできる代わりに、そこに誰が在しているかは来るまでは分からない。
シーズン4からはまた「太陽LINE」「月LINE」というシステムが導入された。「太陽LINE」は、あるメンバーが別のメンバーを指定し、デートに誘う。ただし誰が誰を指定したかおよびその内容はメンバー全員に伝えられる、そのため、そのデートには他の誰でも参加できる。「月LINE」は同様にメンバーをデートに誘えるが、誰が「月LINE」を使ったかだけがメンバー全員に伝えられ、相手および内容は伝えられない。そのため、そのデートは必然的に二人だけになる。「太陽LINE」「月LINE」それぞれ1人につき1回しか使用できない。
「太陽LINE」は一見、使用者にとってゲームを有利に進める手札の一つに思えるけれど、実は縛りにもなっていないか。「太陽LINE」の送信者および受信者は、その現場に不在できない(受信者についてはもしかしたら拒否もできるのかもしれないけれど、現状そのような行動はされていない)。「基地」が、自身の在不在を誰でもコントロールできる場所だとすれば、「太陽LINE」で指定された場所は、送信者と受信者を除いて自身の在不在を誰でもコントロールできる場所になる。有利なのはその使用タイミングの指定および使用意思の表明だけで、その他の部分ではリスクとなっていないか。
恋リアにおける中間告白や最終告白のパターンは、それぞれの作品によって微妙に異なる。『オオカミくん』においては、最終告白は告白場所に男子がオオカミの被り物をして待ち、そこに女子が向かい告白をする。一方中間告白のうちの一つは、女子が全員喫茶店のような所で待ち、そこに男子一人ずつが選んだ相手に向けてLINEを送り呼び出す。
この二つは実際の所イコールではない。前者においては、女子が一人も男子の前に現れないということ、つまりは不在が発生する。後者は呼び出しのため、その場に不在は発生しない。細分化すれば、「選ぶ/選ばれる」と「呼び出す/呼び出される/向かう/向かわれる」の組合せによって、在不在のシステムが決定される。
恋リアのそれぞれのステップにおいて、意思決定とそれが生み出す場面というのは、どのようなシステムを選択することで変わり、それを緻密にすることが恋リアのリアリティや感動の精度を高めることになっている。告白シーンにおいての在不在ひとつをとってみても、おそらくその選択は非常に重要となっていると思われる。
(ここからシーズン5『白雪と~』の最新話について言及しています)
前に書いた記事のように、シーズン5からは「オオカミくん投票」に加えて「落ちないで投票」が新たに行われた。「オオカミくん投票」で落ちることになった男子も、「落ちないで投票」の得票が「オオカミくん投票」を上回れば脱落を免れることができる。
2/24放送回で、この「落ちないで投票」システムの詳細が発表された。脱落を免れることは確かだが、「オオカミくん投票」1位の男子はいったん脱落は決まり、その後の回には登場できない。最終告白の前日に「落ちないで投票」の結果および復活が叶うかどうかがメンバーに発表され、復活となった場合のみ、その2日間だけ脱落者は番組に復活できる。
これはけっこうびっくりする(前の記事では予想していなかった)ルール追加で、また「不在」自体の意味を有効に使ったシステムだ。脱落前においてその男子に思いを寄せていた女子は、脱落期間中不在の男子を思うのか、今いる男子と仲を深めることになるのか決心することになる。復活を信じるのか、不在が不利となるのかそれともある種信念となって有利となるのか。ティーン向け恋リアでは「一途」というのも重要なキーワードなのだけれど、新ルールはそこも問うている。
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