今期オオカミくんメモ3

 今期オオカミくんでは前述のように、個々が主役となる映像作品を撮ることが課題となっていたけれど、いくつかトリックアート的な手法を使っているものがあった。遠近法の錯覚などで巨人や小人になったりみたいな。考えてみると今期以前にも、オオカミくんシリーズではデートでトリックアート美術館に行ったり、例の影絵のシーンのように、トリックアート的なものに触れたり表現したりする場面が出てくることが多い。
 リアリティショーというもの自体が、そこに事実としてそのできごとが起こったかどうかというよりも、その編集された画面内に映ったものとしてただ提示する、ある種「遠近法の錯覚」のようなものであることを否定しない、むしろその造りについて視聴者と共犯的である、という状況にすでになっている。「トリックアート」がたびたびモチーフとして現れるオオカミくんシリーズも、このような恋リアの状況に自覚的であることは疑いない。

 週刊誌やネットに晒される「スキャンダル」は、例えば深夜に二人で買い物をしていたり、朝方に相手の自宅から出てきたり、といった写真なり取材の提示である。しかしこれらから個人の心情や関係性を推測するというのもある種トリックアート的な見立てだ。並んで歩く(ように見える)ことも、「一晩中ゲームしていました」という言葉も、一つの画角であって、心情や関係そのものではない。
 他人でなくて、自身の感情や関係を内から見る視点であれば、と考えるとやはり急に心もとなさに陥ってしまう。「錯覚」という語がいちばん結びつきやすいのが恋愛だからだ。恋愛リアリティショーは、だから「恋愛そのもの」「他者の心情や関係の推測」「リアリティショーというシステム」という、三重に錯覚を生起しやすい構造の上にそもそもある、ということにも「オオカミくん」はおそらく自覚的で、だからこそ簡単に扱いづらい。

 「本当の恋」「真実の愛」というワードは、ひとつにはこういったトリックアートではない(「金目当て」とか「妥協」みたいな、「愛」とはとらえられない角度が無い)、どの画角から見ても円である真球のようなものを想定する。一方で、そもそもそのような理想の球なんて現実には存在しない、という諦めに立脚した上で、それがリアリティショー的な単一の画角で切断されることで、つまりはトリックアートでちょうど錯覚が成立するスポットに立つことではじめて、美しい円であるように鑑賞することができる、という意味にもなる。


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 佐々木敦『未知との遭遇』を読んでいたのですが、「最強の運命論」という話が出てきた。

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480842985/

 それは愛の告白だとしましょう。相手の返事がイエスかノーかは、想いを伝えてみないとわからない。けれども、相手が応えてくれた場合も、拒絶された場合も、いずれにしろそれは「決まっていた」のです。結果が自分にとって好ましかった場合も、そうではなかった場合も、それは要するに「運命」だった。しかしそれが「決まっていた」ことは後になってからしかわからない。つまり「偶然」によって「運命」は、あなたの「意志」から遮断されており、だがその「意志」も「運命」に包含されているのだとしたら、あなたはあなたが愛する人に、想いを伝えますか? それともそうしませんか?
(中略)
 「最強の運命論」が持っている意味とは、このように、決まっているからこそ自ら選べる、という、逆説的な、だが能動的な「意志」という不思議な力を導き出してくることだと思います。

 「台本が無い」とされる恋愛リアリティショーは、例えば告白に対して相手がOKするかどうかはその時点まで決まっていない、分からない、そこが初めから話の筋としての結果が決まっているフィクション作品と違う、とされている。オオカミくんシリーズが特異なのは、その中においてはじめから「恋をしない」と決まっている、つまりは「運命」そのものである「オオカミくん」という存在が投入されていることでもある。

 配られたカードを開いたとき、それはジョーカーだった。開くまではそのことは分からないけれど、配られた時点でそれはジョーカーだと決定している。開いた瞬間に結果が変わるのではない。その状況で、カードを開くのだろうか? だとしたらそれは何を意味するのだろうか?
 簡単に結論の出る話ではないけれど、なぜこの古典的な議論を改めてするかというともちろん、今期オオカミくんにおいてあるメンバーが「複数のカードの全てがジョーカーだった」という結果に直面することが描かれたからだ。上記の引用は以前にも書いた、恋リアの勝利条件が結果ではなく「意志形成と表出の達成」へとシフトしている、という話ともつながるように思える。

 もうひとつのポイントは、「オオカミくん」はカードではなくて、参加メンバーの一人でもあるということだ。


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