友達に好きだと言われてキレた話

自分の気持ちを残しておく用です。

小学校の時からの幼なじみ。1年生になる前に引っ越してきて、近所だった。家族ぐるみで仲が良かった。朝一緒に登校したり、帰りは一緒に下校したり。互いの親が都合の悪い日に家に遊びに行ったりきたり。とても仲がよかったが、友達以上でも以下でもなかった。
4年生の途中で彼の両親が離婚して、父について行くと東京に引っ越してった。(あとから聞いたら神奈川だった)
そこから一切連絡をとっていなかった。と言っても、小学生の頃はスマホなんて持ってないし精々連絡網くらいの手段しか無かったし。卒業アルバムにも載っていないし、思い出すことはそんなになかった。彼の母は離婚と同時に今私が住んでいるところから車で30分くらいかかる隣町に引っ越してしまっていた。

連絡が来たのは社会人1年目の夏。7月だったのはおぼえてる。共通の友人のInstagramのDMで私のLINEを聞いたらしい。普通、「元気?」とかメッセージが来ると思うんだけど、彼は電話を寄越してきた。友達に追加していないので1回目の着信を私が取ることはなかった。仕事が終わってから不在着信を見た私は知らない人からのLINE電話に怯えた。トプ画を見ても知らない人の後ろ姿が映っているだけだし、彼の名前を漢字もそこそこ有り触れたものだったから。しかも、電話の後に「俺だよ!」的なメッセージを送ってくれる訳でもないし。普通にとっても怖かったので、誰ですか、と送ったらもう1回電話をかけたようで。友達に追加してないので着信を取れません、という2回目になるメッセージを見て、そこでようやく「あ、そうかも」と思って友達に追加して、私から電話をかけた。ワンコール目で出た彼は悪びれもせず、緊張した装いなど一切なく、「久しぶり!」と上機嫌そうに言った。未だに誰だかわからなかった私は、もう1回、今度は言葉で「誰ですか」と聞いた気がする。
来週そっちに帰るから久しぶりに会おう。という内容を残して電話は終わった。実に10年ぶり以上?になる再会に少なからず高揚した。仕事が忙しくなる直前くらいだったから、ドピークにぶつかって行けない、とかにならなくてよかったと思った。

久しぶりに会った彼は見違えるほど格好よくなっていた。でも身長はあんまり伸びていなかった。格好いいよりは可愛いが似合うように思えた。身につけているアクセサリーがヤンキーチックでびっくりした。頻繁に顔を合わせていたかのように自然に話せた。その時はお互いに恋人がいた。
母の傍にいてやりたい、と言った彼はすっかり大人になっていた。それに比べて私は、まだまだ甘えたの子供のように思えた。

それから、私達は定期的に会うようになった。定期的、と言っても年に両手で足りる程度だ。春夏秋冬で1度ずつ。プラスアルファ。互いの気持ちが最上級に不安定になった時。そんな感じ。

女友達とはできない遊びができるのが楽しくて、私にとってとても幸福な時間を貰っていた。釣りに行ったり、登山に行ったり、カブトムシを採りに行ったり、夜中に突然星を見に行ったり。そういうイマドキの女の子は付き合ってくれなさそうなことに付き合ってくれた。私たちの間に文字で連絡を取るという概念は存在しなく、いつも電話1本だった。それが彼にとっても私にとっても最善だった。他の友達とは何より楽さが段違いだった。

私も彼もいつだって恋人がいたけれど、この関係を恋人に伝えることは一度としてなかった。言うとめんどくさい。世の中では男女の友情は成立しない派の方が多いように思えるし、実際私も「彼氏が夜中に突然友達と称する女と流星群を見に行った」とか知ってしまったら発狂して刺し殺すと思う。誰の為にも言わない方が良いのは自明であった。それが私達をちょっとだけ楽しくさせてくれる背徳感になっていた、訳ではなく。互いにあけすけにできたらいいのになと話すことがしばしばあった。私と彼は考えが似ていて、それこそ家族のような気持ちで接する時も多かった。言わなくてもわかるよね?が、互いに通ずる相手だった。私も彼も恋人のことは大切だったし、私と彼の間に好きだとか恋だとか愛だとかは生まれないと思っていた。あっても、家族としてのやつ。甘かったり酸っぱかったり苦かったりしないやつ。炭酸みたいにしゅわしゅわしない、水道水みたいな関係。

彼が地元に帰ってきて3年くらい経った。4年くらい彼氏や彼氏っぽい男が途切れなかった私は、年末も年末、その年最後の日に当時付き合っていた男にフラれてから、男に懲りていた。しばらくはいい。その話を久しぶりに会った時にすれば、実は俺も1年くらい前から彼女いないよと言われて、お互い笑った。寂しいやつらだね、なんて言って。いつもカラオケでハッピーソングしか歌わない彼と、いつもカラオケで失恋ソングしか歌わない私。恋人がいたっていなくたって、私達は変わらなかった。ただ、会う回数が格段に増えた。年に両手で足りるほどだったのに、ひと月で両手で足りるほどになった。ふた月になると両手では足りなくなっていった。私から誘いの電話をすることはあんまりなく、8:2くらいの割合で彼からだった。寂しいものは寂しかったし、断る理由もなかったので私達はよく遊んだ。休日が被ることがほとんどないので大抵夜に、今まで通りのことをした。

2月?だったと思う。もしかしたら3月頭だったかもしれない。仕事が終わってさあ帰りましょう、という時間。正確に言うと定時を数分だけ過ぎた頃に彼から電話が来た。まだ会社にいたけれど、周りには誰もいなかったので電話を取った。電話の向こうからは聞いたことないくらい固い声が聞こえて、とてつもなく悪いことでもあったのかと緊張したし、いつも迎えに来てもらってばかりだから今日は私が迎えに行こう、と思っていた。
「あのさ、今、彼氏いないんだよね?」
「えっ?うん。なに?」
「1年くらい、前、から」
聞きたくなくて、耳にぴったりつけていた電話を少しだけ離した。声は聞こえる程度の距離に電話がある。ロッカーへ向かっていた足を戻して会社の椅子に座る。それだけは聞きたくない。彼だけはそんなことない。そう思いたくて、その先を聞くのが怖かった。
「好き、なんだけど…付き合わない?」
なんでそんなことを電話で言うのかわからない。何を言われているのかもわからない。私の心にあるのはどうしようもない怒りだった。

それから、結構ひどいことを言ったと思う。あなただけはそんなことを言うと思わなかった。なんでそういうこと言うの。私達は友達だから良かったのに。そんなようなことを繰り返した。キレ散らかして、ついでに泣いた。直ぐに私の異変に気づいた彼は私の二言目を言う時くらいには謝り倒してきていたけれど、全部無視した。言いたいことだけ言って電話を切って、明日のシフトを確認してアラームをセットしてマナーモードにし、泣きながら家まで帰った。その日はそれ以降iPhoneに触れることは無かった。
朝、いつも通りアラームの数分前に起きて癖で画面を見る。色んな通知に混じった彼からの初めての電話以外のメッセージ。ついでに不在着信も数件。こんな形で初めてのメッセージとか、と悲しくなった。謝罪の言葉に既読をつけもせず仕事に行った。私はその時、未だ怒ったままだった。

初めて、誰かに彼のことを相談した。めちゃくちゃ仲の良い同期に、なんで今まで黙ってたのかめちゃくちゃ突っ込まれた。その他にも2人ほど相談したけれど、私が悪いと一刀両断されてしまった。早く仲直りしなさいの言葉に、素直にうんとは言えなかった。

好きだという気持ちを、特別に愛しく想ってしまう気持ちを知ってしまった。もう元には戻れないんだ。その事が本当に悲しくて、考える度に涙が出た。彼のことは好きだ。でもそれは、恋じゃない。自論でしかないけれど、告白を受け取っても受け取らなくても元には戻れないことは明白だった。付き合ってしまえばいつかは終わりが来るだろうし、断ってこの関係がなくなってしまうの無理だ。夜中にまだ固まってない雪山に飛び込んで大笑いしたり、連れない魚を待ち続けながらどうでもいい話をしたり、突然深夜1時に電話して流星群を見に連れて行ってもらったり。そういうことができなくなるということだった。正確に言えば、できることにはできるのだろう。でもそれは、今まで通りじゃない。恋人としてになるのかもしれないし、気持ちを見ないふりしてになるのかもしれない。そんなの嫌だった。私達はあくまで対等で、なんの遜色もない友達でいたかった。今思えば、酷い我儘だ。それでも、本当に嫌だった。

3ヶ月ほどの空白を開けて仲直りをすることにした。上記の気持ちを伝えれば、彼は笑って謝った。今まで通りに戻ろうと言われて頷いた。今まで通りになれないことなんて、お互いが1番わかっていたのに。それから私達は少しの気不味さを抱えながら友人をしている。私から連絡することはなくなり、10:0の割合になってしまった。私なりの表現だったし、気遣いでもあった。彼は恋人、友人、というワードを避けてくれている。馬鹿な私がたまに言ってしまうくらいで、その話題は自然とタブーになっていった。はやくどちらかに恋人ができることを心から願っている自分がいることが、今でも悲しい。私達はもう、ただの、フラットな、取り留めない、友人ではない。歪んでしまった形は元に戻りそうにないし、たぶんお互い戻す気もない。少しずつ離れていくのが安易に想像つく。それは嫌だった。でも付き合いたくない。我ながらどうしようもないなと思う。

映画に誘ったのは私からだった。半年以上ぶりに自分から電話をかけた。ひとりで見に行くのは些か心細かった。二つ返事でイエスをくれた彼と必要最低限の会話だけをして電話を切った。約束の日に案の定寝坊した私を見越して、彼は笑って許してくれた。知ってるよ、休みの日に起きれないこと。と笑っていた。私の車を運転する彼の横顔は普通に格好いい。そもそも顔が良い。片道2時間かかる映画館まで、いろんな話をした。

「もう大丈夫だから。あの時はごめん」
「私もごめん、無責任だった」
「好きじゃないは嘘だけど、どうこうなろうとは思ってない。誘ってくれて嬉しかった。今まで通りでいいよ。俺もそうする」
「…それができないからあんなに怒ったんだよ」
「そうだよね。ごめんね。間違えたね」
「正解なんてないんじゃない。…一緒にいるの、ちゃんと楽しいよ」
「今まで通り?同じ楽しさ?」
「多少は気不味い。あと申し訳なさもある。でもいつまでもそうしててもしょうがないし、言われてしまった時点で、そう思われた時点で今まで通りは無理なの知ってるから、いいよ、もう」
「……つまり、?」
「なんにも変わらなく接するから、なんにも変わらなく接してね。お互い恋人ができたら……う〜〜〜ん、やめたくないなこの関係は」
「結婚したらやめよう」「それはそう」「それまではさ、年に4回でいいから会おうよ」
「うん、私は釣りに行く友人がいないと困る」
「俺だって夜中にラーメン付き合ってくれる友達いないと困る」「そこ私かよ」「他の女はいいよって言わないよ」

そんな感じ。それ以上でも以下でもないことをお互い忘れないようにしてる。依存はしたくないと思いながら、年に数回は必要としてる。いつか誰かと結婚して幸せになる私のために、取っておきたかった出来事。素敵な友人がいること。いつかに薄れてしまう前に。終わり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?