昨日見た夢

私と彼は死にたがっていた。 この世界の人々は死ぬ時に美しく散るらしい。人の死を見たことがない私たちは「人の死」こそ至高の美しさを持っていると想像していた。人の死を見たい。けど他人の死に興味は無い。そんな私たちはどちらかの死を何となく待ち望んでいた。18歳までに死ねなかったら心中しようと約束した。時代錯誤も甚だしい。
「きっと人の死を望むのは私たちくらいじゃない?」と言うと「人の死ってそんな悪いものだと俺は思わないけどな。」と笑った。「俺のじいちゃんが死んだ時、『あぁやっとじいちゃんは自由になれなんだな』って思ったんだよ。人は知らないものを怖がる。当たり前だけど生きている人は死んだことがない。だから死を怖がる。でも俺なんかで読んだんだよ。人が1番幸福を感じるのは死の瞬間だって。」こんなことを言っていたけど私は彼が本を読んでいるところを見たことがなかった。私が本を読んでいる隣で彼は寝るか、音楽を聴くか、どこからがやってきた猫の相手をしていた。
 その日は穏やかにやってきた。いつものように彼は寝ていて私は本を読んでいた。彼がほんの少し咳をしたら赤いものが視界に入った。彼の血だった。咳は止まらず血は口からだけではなく目からもでてきた。こんな悲惨な状況でも私も彼も焦らなかった。「ようやく死を見れる」「死を体験出来る」という気持ちでいっぱいだった。そこに会話はなかった。このおかしく普通では無い環境を2人とも受け入れていた。そしてその瞬間はいきなりやってきた。彼はほんの少し声を上げ、目から生気が消え、彼の心臓が止まる。同時に彼の体の線は曖昧になり、金木犀の香りが漂う。庭では桜が散っていた。彼の体はたくさんの金木犀の花になり、あまりの美しさに、そして彼がいなくなってしまったことに泣いた。

そして現実の私も涙を流していた。涙の冷たさで目を覚ました。そして彼からLINEが来て何故かまた泣いてしまった。


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