ゴドーRTA

「ゴドーを待ちながら」が上演されている劇場(箱)を手に持って見つめている黒いコートにこうもり傘の男(2)。ベンチに座っている。
客席から聞こえてくる声(1)。

1 あの、ゴドーさん。行かないんですか
2 え?はは、いや行けないでしょう、どうやって行くんですこんな、小さな箱の中に
1 ははは、そうですか
2 あなたは、あなたはどうするんです
1 ...いやあ別に、行かなくたっていいのかもしれません。行かなくたって、何か問題がある訳では無いのかもしれませんから
2 失礼、あなたは?
1 私ですか?ええと、ゴドーと申します
2 ...遠ーくにいらっしゃるんですね
1 ええ。いやあ、あなたがその箱の中へ行けないように私もそちらへは行けませんから
2 もしあなたが... いや、いやいやいや
1 なにか?
2 いやあ、仮説です。仮説ですが、あなたがそちらにいて、私がここに居る。するとこの箱の中の彼らは?
1 さあそれはどうでしょう。彼ら次第と言うべきか。とにかく私にもあなたにもとやかく言うことも何をすることも出来ない
2 (不満げに)なるほど
1 こういうのはラチがあかないのが相場と決まってるでしょう
2 相場ですか
1 ええ
2 ...それじゃ例えば、例えばそのラチをあかせるとするならば
1 ...ははは

ハンマーか何かを手に取り

2 どうでしょう?
1 いいですね、ニーチェ。思い切りいってください
2 いえどうせ、神は死にませんよ

思い切り箱を叩く。
打撃音と共に暗転。

2 でしょう?
1 おおお〜、はっはっは
2 ははは、人が悪い

鈴が鳴る。少年が入ってきて、入口の明かりをつける。観客に気づくと押し殺すような叫びと共に一目散に逃げ去っていく。この空間には劇場もハンマーもなく、ゴドーもいない。ベンチだけがとり残されている。

終。

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