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ママ戦争は赤ちゃんを人質にしている

エイミー・トゥーター医師は産婦人科医。1979年ハーバードカレッジ卒業後ボストン大学医学大学院にすすみ1984年卒業。ボストンのベス・イスラエル病院(現ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカルセンター)で研修医を務める。ハーバード大学医学部認定の臨床修練指導医である。4人の子の子育てのため第一線を退いたあとは出版とブログを中心に自然出産と自宅出産の問題を追及している。

エイミー先生のブログ

http://www.skepticalob.com/

この記事の元記事は

http://www.skepticalob.com/2015/09/babies-hostages-in-the-mommy-wars.html

ママ戦争は赤ちゃんを人質にしている

ママ戦争は赤ちゃんを人質にしている

ママ戦争は死に至る戦いだ。

いや、死ぬのは戦っている戦争参加者自身ではない。参加者の「子どもを育てる自信」が戦死してしまうのだ。

え?待って。母親戦争は子どもをよりよくしてあげるための戦争だと思って

甘い!子どもたちはママ戦争に無関係ではない。それは間違いない。だが不幸にも、子どもたちの役割は人質なのだ。

ママ戦争の争点は一つで、一つだけだ。「誰が一番良い母親か?」

ママ戦争で繰り広げられる戦いの苛烈さを見ると、ママノーベル賞(世界的な名声と賞賛と多額の賞金がついてくる)のような現実的な報償がかかっているのかと考えたくなってしまう。争われているのは、もっとずっと小さいが、参加者にとっては一歩も譲れない重要なしろものだ。ママ友の輪の中でだれが「一番良いママ」という称号を手に入れるのかということだ。

待って、何?一番良い母親とは健康で幸せな子どもを育ててる母親のことだと思ってたって?

甘い!子どもの様子から判断しようとすれば勝ち残る人数が多すぎて、戦いにならなくなってしまうのだ。

そもそも、この赤ちゃんが他のどの赤ちゃんより幸せだと見極めるのは難しい。ほとんどの赤ちゃんは愛されていれば幸せで健康なものなのだ。じゃあ、子どもがもっと大きくなってから誰が一番良い母親かを決めたらどうだろう?どんなに熱心に、自然出産、母乳、スキンシップ育児で育てれば、良い成績を修めて、環境に適応した安定した子どもになると奨める人でも、「最高の子育て」をすれば必ず「最高の子ども」になる訳ではないのはわかっている。だから母親を判定する基準は、コントロールできない成果ではなく、コントロールできる過程でなくてはならないのだ。

自然出産支持者によれば、薬を使わない経膣出産で産まれた子どもは最高に健康で一番幸せで最高に優秀になるという。だが高校の教室のティーンを見てみよう。どの子の母親が硬膜外麻酔を使って、どの子の母親が帝王切開したかわかるだろうか?無理だろう。

母乳運動家によれば母乳で育てば最高に健康で一番幸せで最高レベルを達成するという。だがアイビーリーグの大学院の教室を見てみよう。どの人の母親が母乳育児でどのくらい長く続けていたかわかるだろうか?無理だろう。

専業子育ての支持者によれば、スキンシップ育児(だっことおんぶ、大きくなるまで母乳、川の字で寝る)で育てば最高に健康で一番幸せで最高レベルを達成するという。だがノーベル賞受賞者を見て、どの人の母親がスキンシップ育児をしたかわかるだろうか?無理だろう。

これが現実なので、ママ戦争の戦士たちが成果など無視しているのもなんの不思議もないことではないだろうか。

とはいえ、子どもたちはママ戦争と無関係ではない。子どもたちも関係している。だが子どもたちの役割は人質であり、母親たちが「働きかけ」を施す小道具で、どんな「働きかけ」が彼らにとって最良なのかは考慮されていない。

そういうわけで、女性たちは「良い母親」になるために赤ちゃんには何の影響もない硬膜外麻酔を拒否して苦痛に耐え、必要な帝王切開を避けて赤ちゃんの命を危険にさらす。

そういうわけで女性たちは「良い母親」になろうとして、赤ちゃんが空腹で泣きわめいても、脱水で入院して点滴するようになるろうとも、ミルクに頼らない。

そういうわけで女性たちは精神的に疲れ果てても、健全な結婚生活と夫との親密な関係をリスクに晒しても「良い母親」になるために、愛着育児を続けようとする。産後うつやうまくいかない結婚生活が子どもに害を与えることなど考えもしない。

実のところ、「誰が一番良い母親か」などというのは全く間違った問いかけなのだ。

子どもにとっては自分の母親が唯一の母親なので、他の母親と較べたりはしない。母親同士の競争は子どもにとっては無意味だ。子どもにとって大切なのは自分の母親が自分の要求を満たしてくれることだ。子育ての秘密を言うなら、うまくいく子育ては外向きではなく、内向きだと言うことだ。子育ての秘密のコツは自分と他の母親を比較しないことだ。そして、私は自分の子どもに必要なものを与えるのにベストを尽くしているかしらと自分に問いかけることだ。

自分自身の必要も無視しなくていい。陣痛が耐えがたければ痛み止めを使おう。身体的精神的問題で母乳育児が出来ない薬を飲む必要があるならミルクにしよう。もし夫も自分も添い寝せずに二人で眠りたればそうしよう。実のところ、良いと言われていることを残らずやっても、それだけでこどもが「健康で幸せ」になるわけではない。

悲しい事実は、多くのママブロガーや母親向け掲示板運営者や医療従事者がママ戦争屋だということだ。彼らは一部の女性たちにひどい努力をするようにけしかけ、それを使って他の女性たちの子育ての自信を潰そうとする。利益を得ることが出来るからだ。ひょっとすると彼ら自身も母親で他の母親の自信を潰すことでしか自己評価を上げることが出来ないのかも知れない。ひょっとすると「私たち」vs.「彼ら」という心理を作りだすことで参加者を良い気分にさせ、自分のブログ(時にはブログによる収入)の人気を上げようとしているのかもしれない。だが子どもたちはこんなことは何の関係もない。あるいは彼らのビジネスモデル全体が(ドゥーラや母乳コンサルタント)女性たちに自分たちのサービスを使えばより優位な子育てが保証されると信じ込ませることで成り立っているからかも知れない。

私たちが育てている子どもたちの世代には、特権意識を持っていて、失望や過ちを許容できず、親離れも大人としての責任を果たすこともできない子どもが多いと広く認知されている。これは、私たちが子どもたちの心が求めるものを大切にする育て方よりも、子どもたちをママ戦争の人質にして、母親たちが自分たちの子育ての優位性を実演させようと働きかけてきたことに、一部にしろ原因があるのだろうか?まだ断言するのは早いが、考えて見る価値はある。

もし私たちが自分たちが言っているように子どものことを気にかけているなら、子育てを個人にあわせたものにするようにもっともっと時間をかけるべきだろう。良い母になるための誰にでも会うⅠサイズの型紙作り(自然出産、母乳、スキンシップ育児)に時間をかけるのはやめた方が良い。自分たちが自分の子どもに最良と信じる選択をコピーできなかったからと言ってけなすのに時間を割くのではなく、自分の子どものために最も良い選択をした女性を支えるのにもっともっと時間を割くべきである。

一つはっきりさせておこう。私はしばしば、薬を使わない(自然派)出産、母乳育児、スキンシップ育児を嫌っていると非難される。この三つを自分で経験していなかったら、そもそも嫌うことなど出来るだろうか?

私が嫌っているのは、、私が子どもを育てたやり方でみんなが子育てをしなくてはならないと根拠もなく主張することだ。私たちは子どもたちをママ戦争の人質にするのはやめて休戦宣言をしなくてはならない。

30年近くの子育て経験と医師としての30年以上の経験から何か学んだことがあるとすれば、子育てにははいくつもの正しいやり方があるということだろう。私は子どものことを心から気にかけ、それを子どもにも伝えているのが良い母親だと信じている。良い母親になるのに不可欠なのは自然出産や母乳育児やスキンシップ育児ではない。不可欠なのは…

愛なのだ

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