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頭のなかを流れているもの #みんなの2000字

#みんなの2000字  企画。
短歌を2000字分書いてやろうか、と思ったが、あまりにも無謀だった(2000÷31…ちょっと計算する勇気の出ない値だ。)
逡巡したけれど、私らしさという意味で、頭の中の文章をそのまま書きとってみる、に再び挑戦しようと思う。

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私の頭のなかは、いつも文章が流れている。このことは、以前にも書いた。
明確に音声があるわけでも、かといって文字が見えているわけでもないので説明しづらいのだけれど、とにかく文章が頭のなかを、つらつらと流れ続けているのだ。

食事中も、ベッドの中でも、なんなら仕事中でも油断すると文章が流れていて、結構やかましい。

なかでも一番危険なのがただのんびりと一人散歩をしているときだ。
過去も現在も未来も、主観も客観もすべてごちゃごちゃと混ざった思考が、単行本を読んでいるときのようにずっと流れていて、気が付いたら半日近くたっていることがある。
足はくたくた、おなかはぺこぺこ。ただぼんやりとした満足感と、くっきりとした徒労感。危ない趣味だと思う。
こうして日々流れては消えていく文章の数々は、当たり前だけれど私の頭のなかにしかないので、書き留めない限り、そのまま流れて消えてしまう。
さらにやっかいなことに、パソコンに向かって指がつりそうな速さでキーボードをたたいても、ペース的になかなか間に合わない。
だからたいていの場合、もう二度と読み返せなくなってしまう。
でも、昨日の文章も、おとといの文章も、それからもう少し前の文章も、ある意味ひとつながりになっているものだ。しかもとめどなく流れ続けている、新しい文章。
そうなると私はいつも「新作」を読むのに夢中で、読み返せなくなった過去の作品をもったいないと感じたことはない。


でも、読み返したくてたまらなくて、ときどき悔しくなる文章がある。


それは、もっとずっと昔、幼いころの文章だ。
あの頃―きっと夢見がちな子供がたいていそうだったように―私の頭のなかの文章は、今よりはるかに自由だった。
魔女や妖精、天使や悪魔。気配だけは感じるけれど、決して姿の見えない不思議な友達。
日本でも外国でもない、誰も見たことのない世界。
次から次へとやってくる困難を乗り越えながら進んでいく冒険。
自由で広々とした世界を、確かに私は見ていた。
そしてその文章を書き留めよう、なんていう発想をこれっぽっちも持っていなかった。
そのころから文章を書くことそのものは大好きだったから、文房具屋さんで買ってきたノートに、物語を書き留めること自体はしていた。
でも、それはたいてい、だれかに見せることを想定した背伸びした物語ばかりで、頭の中の物語をそのまま書くことはなかった。
実家の自分の部屋に、それらのノートのほんの一部が残っている。なんだか窮屈そうで、まるで道徳の教科書のような教訓めいたすました物語ばかりだ。
子供のくせに教訓めいた寓話を書こうとしていること自体は、それはそれでほほえましいけれど、それでも。
私の頭のなかをあんなに自由に流れていた、わくわくする世界を残していてほしかったな、なんて思うことがある。
もちろん子供だったから、きっと文章の構成も今よりずっと幼くて、起承転結なんてまったくない、きっと「破綻」した物語だっただろうけれど。
あの頃の自分からしても、きっとあまりにも「子供っぽい」物語だったから、誰にも見られないように、自分だけの物語にしていたのだろうけれど。
幼かった自分を間違いなく毎日わくわくさせてくれていた、うきうきする物語の数々。
今読んだら、きっと新鮮に、懐かしく読める。あの頃の自分と同じように、いや、下手するともっと、今の自分を元気付けてくれるはずだから。


―ふと思う。
逆に、今の頭のなかの文章を、あのころの自分に読ませたらどう思うのだろう。
はるかに狭い、半径数メートルのなかで繰り広げられる、現実的な思考の数々。
それでも、おもしろがって読んでくれるだろうか。
大人なんてこんなもんか、と呆れてしまうだろうか。
ひょっとして、「ちっとも上達してない!私の方が、ずっと面白い文章が書けるよ!」なんて、怒り出してしまわないだろうか。

こどもの頃、自分は小説家になると思っていた。なりたかった、のではない。自分はなれる、と確信していた。私にとって自分が小説家になる、ということは、大人になり、年をとり、やがて死んでいくのと同じくらい、自然なことだったのだ。


ところがどうだろう。
今の私は小説家にならないまま、平々凡々な毎日を過ごしている。
その事実だけで、幼かった自分を失望させるには十分な案件ではある。
あの頃の自分にごめん、と謝りつつ。
せめて、あの頃の自分に褒めてもらえるような、面白い話を書けるようになれたらいいな、と思う。


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これで1809字とのこと。だいたいこれを書き留めるのに、32分かかった。これが速いのか遅いのかわからない。
今頭のなかでは、缶の箱に入ったお菓子の詰め合わせがどんなに素敵か、という話が流れている。書き留めていないから、たぶんそのまま消えていく。
(2061字)


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