No.17 「夫にゴミ出しすら頼めなかった」   長山洋子(56)

9/20(金) 17:02配信
乳がんを経験してたどり着いた人生の意味「もっとわがままに生きよう」

歌手として40年のキャリアをもつ長山洋子さん。2019年に初期の乳がんが見つかり、 全摘手術を受けました。治療の日々は苦しかったものの、意外なプラスの変化もあったそう。もともと人に甘えたり頼ったりするのが苦手だったのが、病気がきっかけで「いい意味でわがままが言えるようになった」といいます。
(全4回中の2回)

■人に頼れなかった人生が乳がんで変わった

── 51歳で乳がんを経験されました。病気を通じて、ご自身のなかで気づきや変化はありましたか?

長山さん:病気になって初めて人に頼ることを覚えて、人生が大きく変わりました。もともと私は、人に甘えたり、周りに頼ったりするのが苦手で、なんでもひとりでやってしまうところがあったんです。「これを頼んだら申し訳ないかな」とか「負担に思われないだろうか」と、相手がどう感じるかを考えてためらってしまい、それなら自分でやってしまうほうがラクだなと思っていました。つらい気持ちを打ち明けることも苦手で、いろんなことをため込んでしまっていたんですね。長年のそうした積み重ねが、ストレスの原因になっていたと気づき、「もっと自分を大切にしなければ」と、思うようになりました。

── そうだったのですね。ご自分を大切にしようと思われたきっかけは、なんだったのでしょうか。

長山さん:病気を経験し、自分の人生や命というものと向き合ったときに、これまで無理をして頑張りすぎていたなと、すごく感じたんです。もっと肩の力を抜いてラクにやればよかったのに、それができずにもがいて苦しかった。他人からどう思われるかを気にしすぎて、いろいろと抱え込みすぎていたんですね。心と体を健やかに保つには、まずは、私自身の気持ちを優先することが大事。自分をないがしろにしてはいけないんだなと痛感しました。

そう思ったら、他人の視線がまったく気にならなくなったんですよね。「わがままだな、あいつはと思われたっていいや。だって私がそうしたいだもん!」と吹っきれたんです。誰かに何かをお願いするときも、「ここは甘えよう」といちいち気負わず、自然と頼めるようになりました。

■夫にゴミ出しすら頼めなかった過去も

── たとえば、どんな場面でしょう?

長山さん:小さなことで言うと、家庭内での日常的な家事ですね。もともとうちの夫は優しくて、お願いすればなんでもやってくれる人ですが、これまでの習慣から、ゴミ出しのような日常的な家事は自分の役割だとなんとなく思い込んできたんですね。でも、病気をきっかけに全部、夫にやってもらうようにしたんです。

それまでも言えばやってくれるだろうけれど「なんで頼むの?」とか「自分でやればいいのに」と思われるのがイヤで、忙しくて時間がないときでも、慌ただしくすませていました。でも、「お願いね」といざ任せてみたら、相手は意外となんとも思っていないことに気づいて。そうした経験を経て、今ではいろんなことをどんどんお願いできるようになりました。

── 何ごとも考えすぎないことにしたと。

長山さん:とはいえ、なにもかも丸投げしてラクをするというわけではなくて、「今は手が回らないから仕方ない」と納得できる場面でお願いすることが多いですね。それだと、あとから「申し訳なかったかな」と後悔したり、罪悪感を持たずにすみますし。あくまで、自分のできることはやるけれど、抱えすぎないというバランスがとれるようになったという感じですね。

■夫婦ゲンカも激変「今は『謝って!』と(笑)」

── 肩の力が抜けてラクになった感じでしょうか。

長山さん:もう、すっごくラクになりましたね!
自分の気持ちにフタをして我慢をすることをやめたので、
夫婦ゲンカの仕方も変わりました。

── といいますと…?

長山さん:以前までは、「これって相手が間違っているのでは…」と思う場面でも「どちらかが100%悪いなんてことはないのだから、きっと私にも悪いところがあったに違いない」と思って、反省したりしていたんです。
でも、それもやめました。
最近は「いや、これはどう考えても私は悪くないな」と思ったら、
お互いが冷静になった翌日あたりに、
「昨日言ったこと、覚えてる?」と、全部説明して、「だから、謝って!」と(笑)。

── なるほど(笑)。ご自分を過度に責めるのをやめたんですね。

長山さん:そうだと思いますね。モヤモヤを放置しておくと、いろいろ考えだしてしまうので、ひとつずつきちんと解消してから、前に進みたいタイプなんです。

相手と自分の感情は絶対に違うので、ちょっと気持ちが落ち着いてから、話し合いをして解決したい。モヤモヤを自分のなかに溜めこまないようになって、すごく生きやすくなりました。

PROFILE 長山洋子さん
ながやま・ようこ。1968年、東京都生まれ。1984年に『春はSA-RA SA-RA』でアイドル・ポップスシンガーとしてデビュー。86年にユーロビートの代表曲『ヴィーナス』をカバーし、大ヒット。88年、映画『恋子の毎日』に主演し、女優としても活躍。93年に25歳で演歌歌手に転身し、以後、演歌界で活躍。2009年にアメリカ人実業家と結婚し、翌年に長女を出産。

取材・文/西尾英子 写真提供/長山洋子

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