見出し画像

令和千本桜(前編)

2021年10月明治座公演
『令和千本桜 ~義経と弁慶/コロッケものまねオンステージ2021』
感想です。
感想を書いてみたら長すぎるので第一部と第二部に分けます(^_^;)

第一部「令和千本桜~義経と弁慶~」

正直なところ、最初にこの舞台のお知らせを聞いた時は、少し、いや結構、いやかなり不安でした。
あの物まねのコロッケさんと共演?しかも舞台???と。

第一部は真面目なお芝居です!と言われても全く想像はつかないし、令和版と言うだけあって、お衣装含めビジュアルも結構攻めてましたし。
多くの人が知っているストーリーだからこそ、逆に難しそうだなとも。

けれど実際に幕が開いたら、最初の不安など吹き飛んでしまうような素晴らしい舞台を観ることが出来ました。

【第一場:京都・五条大橋】

言わずと知れた牛若丸(遮那王/義経)と弁慶の出会いの場面。
太刀集めをしていた弁慶を牛若丸が討ち負かして家来にするのですが、ひらりひらりと舞うように戦う牛若丸の美しさよ…。
今回フライングに初挑戦した七海さんでしたが、全く"吊られている"ように見えない体幹の強さが素晴らしいですね。
しかもそのまま歌うって相当大変だと思うのですが、さらっとこなしてしまうように見えるのがさすがです。出だしから魅せていただきました。
私も牛若丸様に喉元に刀突きつけられて「どうした、何とする」って言われt…何でもないです。

【第二場:平泉・衣川】

個性豊かな義経の四天王(と世話係の喜三太)が一人ずつ名乗りながら、軽妙に状況を説明する一幕。
伊豆で流人となっていた源頼朝が令旨を受けて挙兵したことにより、義経一行の運命も大きく動き始めます。
このシーンが平和で希望に満ちているからこそ、後々の悲劇がより一層際立つのだなと思いながら観ていました。
観劇2回目からはもうここから泣いてましたよ私は(早い)。

【第三場:駿河・黄瀬川の陣】

黄瀬川に陣を構えた頼朝の元に義経が駆け付け、兄弟初対面となります。
義経が頼朝に忠誠を誓い、兄弟で力を合わせて平家追討を決意する場面です。
そして誓いを交わし合う兄弟を尻目に、苦々しい顔をしている鎌倉方の武将達。必ずしも全員に歓迎されたわけではないのだと不穏な空気も漂います。

この対面後の殺陣が小気味良く、清々しかったです。
義経が助太刀に入った次郎にニッと笑いかけ、悠々と歌い上げてから再びの殺陣に臨む姿は正に新しい英雄と言った風体でした。

【第四場:京都・堀川の館~鎌倉・大蔵御所】

戦で大勝利を挙げ、堀川の館で祝宴を開く義経一行。
その後も源氏は義経の活躍により勝ち戦を重ね、ついに平家を撃ち滅ぼしました。
しかし鎌倉方は義経の人気と活躍に危機感を抱き、北条政子や家臣達の度重なる讒言もあって、とうとう頼朝が義経討伐を命じます。

第四場冒頭の和やかなサービスタイム「キュンです」コーナー。
(御家来衆と義経が客席に向かって片手の親指と人差し指を交差させてハートマークを作り、「キュンです」と決めポーズをしてくれます)
私は劇場・配信と合わせて4パターンを見ることが出来ました。
①ノーマル
②……キュンです(間をためて)
③恥ずかしいな…
④もう一度全員でやりたいんじゃ
殿の「キュンです」の後に柱に抱きついて悶える次郎が可愛かったです。
わかる、わかるよ次郎。私も悶えたよ。

閑話休題。
第四場では自分達の情勢を

"鎌倉あたりの雲が暗くなるのでは"
"鎌倉から冷たい風が吹いてきた"

と天候になぞらえて表現するのが好きでした。
(次の吉野山でも、今にも雪が降りそうな凍えるような寒さと言われていましたね。)

頼朝の命で奥州の藤原秀衡を討てと言われたらどうする?と弁慶に問われた義経が、一度目は「出来ぬ!」と即答し、二度目は苦しげに「……出来ぬ」と答えるのも純粋で義に厚い義経の人柄を表していますよね。
ところで私、義経様が自分のことを「九郎」と呼ぶのが大好きです。

【第五場:吉野山】

義経一行は山伏に扮して奥州・平泉へと落ち延びます。
しかしその道中、女人禁制の吉野山を通ることもあり、静御前は一行と別れ都に戻ることとなったのでした。

義経と静御前の今生の別れは涙なしには見られません。
義経の「そなたと別れようと思う気持ちは更々無い」の言い方が、初日から段々と変わっていって、千秋楽が近づくにつれ優しくなるのが更に切なく。
悲しみを堪えつつ笑顔で自分の鏡を「九郎と思って持つがいい」と静御前に手渡した後に、離しがたそうに震える手と、もう一度静御前の手を取ろうとしてグッと堪える仕草が、台詞がなくとも心情を表していて涙が止まりませんでした。
(あの手鏡ミニサイズでも良いからグッズ化してくれないかしら…円盤の特典でも良いのよ…?)

【第六場:安宅・富樫の館】

安宅の関で義経一行は大きな危機を迎えます。
関守の富樫泰家に正体を疑われ、足止めされてしまうのです。絶体絶命かと思われましたが、弁慶の機転によって何とか関所を通過する一行。
しかし実は富樫は義経一行と気付いた上で、弁慶の忠義心に心を打たれ関所を通過させたのでした。

歌舞伎の演目として有名なこの場面。
ただこの劇中では勧進帳がめちゃくちゃ長かったり、読み上げる時にしれっと「バレテナイバレテナイ」とか「あっという間に」と挟み込んでくるから油断ならない…笑

ただ富樫が義経を呼び止めて、弁慶が義経を打擲するところからは一気に真面目なお芝居モードに。
全てを察した富樫と弁慶が無言で見つめ合ってから別れ、残された富樫が義経の後ろ姿に深く頭を下げる場面では大きな拍手が起こりました。
そんなわけで最後はビシッと締めていましたが、だいぶコロッケさん色が強い勧進帳でしたので笑、ここで歌舞伎版のリンクも貼っておきます。

NHKによる子ども向けだけどわかりやすい演目紹介。

こちらもわかりやすい歌舞伎演目案内。

【第七場:鎌倉・鶴岡八幡宮】

吉野山から都に戻る途中で捕らえられた静御前は、鶴岡八幡宮で舞を披露することになります。
ここで義経を恋い慕う歌を詠み舞ったことから頼朝の逆鱗に触れますが、政子のとりなしにより命を救われるのでした。
静御前は義経の子を身篭っていて男の子を産みましたが、頼朝の「女の子ならば生かしておくが男の子なら殺す」という言葉通りに、その子は海に沈められてしまうのでした。

舞台自体の時間が短く、主要な場面以外はどうしてもダイジェストのような扱いで展開が急に感じてしまうのが残念なところ。

和樂web編集部さんの記事が簡潔でわかりやすかったので、リンクを貼っておきます。
「幸せな恋が一転悲劇へ。義経に愛された静御前のその後が寂しすぎる…」
 https://intojapanwaraku.com/culture/83413/

政子が静御前に同情して庇ったのはグッジョブだけど、そもそもこうなった元凶は政子の意見も大きかったよな…まあそれはそれ、これはこれなんだろうけど…と毎回モニョってました。

【第八場:平泉・持仏堂】

藤原秀衡の死により義経一行の状況は更に悪化し、満開の桜が散るようにその最期を迎えることとなりました。
一人、また一人と家来は倒れていき、最後に残ったのは弁慶と義経。
二人は出会いから今日までの軌跡を懐かしみながら、死後の世界での再会を約束してそれぞれの生涯を終えるのでした。

第八場の冒頭で御家来衆が一人一人義経と言葉を交わすのが、お互いの絆と信頼を見るようで胸が熱くなりました。
義経が家来を呼ぶ声がどこまでも温かく優しくて、こんな風に呼んでもらえるのなら、どこまでだって着いて行くと思わせてくれる主君でしたね。

御家来衆は殺陣による最期の見せ場があるのですが、これが本当につらくて。配信では号泣、劇場では嗚咽を堪えるのに必死でした。
一人ずつ順に欠けていくなんて…しかも死に様も結構容赦なくて悲しすぎる…あの家族のような温かい関係性の一行が好きだったので、見ているこちらも身を切られるような思いでした。

義経の最期はただただ切なく、美しく。
死を目前にして微笑む穏やかな表情と、自刃の瞬間に白い首筋に赤い照明が映えて鮮烈さが際立つ様が、まるで一枚の絵のようでした。

弁慶の最期も最初は客席に背中を向けた状態で、矢が突き刺さった姿で向き直る時の「決して義経様の元には通すまい」という鬼気迫る表情が印象的でした。死してなお立ちふさがる忠義心に泣いてしまう…。

力尽きた弁慶を囲んで、先立った面々が優しく微笑んでいるのでもうダメでした。ハンカチじゃなくてタオルが必要なくらい泣きました。
すわいつ郎さんのブログに書かれていたのですが、このシーンは当初は弁慶と義経の二人だけだったところを、コロッケさんの提案で6人のシーンに変更したのですね。本当に素晴らしい変更だったと思います。

そして何と言っても第八場の最後、義経が桜吹雪を見上げながら晴れやかな笑みを浮かべ、目線を転じて御家来衆一人一人に優しく微笑みかける表情。
この表情を見れただけで観劇の甲斐があったと心底思いました。

登場人物ごとの感想

【金売り吉次:武岡淳一さん】
コミカルな語り口からしっかり聞かせる台詞まで、終始安心して見ていられた重要な案内役。この方がいなかったら観客は怒涛の展開に置いて行かれてしまったのではないでしょうか。

【鎌倉方】
北条政子:上脇結友さん
梶原景時:吉永秀平さん
時間がないのは重々承知の上で、鎌倉方の掘り下げをもっとして欲しかった…2時間半くらいの尺で再演して欲しいです。
何か鎌倉の人たち、皆ずっと怒っててしんどい(頭の悪い感想)と思ってしまったのが唯一残念でした。
劇中では憎まれ役扱いだからある意味正解なのかもしれないけど…私もっと人間ドラマが見たいです…。

【源頼朝】
Wキャストで幸い両方劇場で観ることが出来ましたが、全然印象が違うお二人でした。
上田堪大さん:お顔の系統が七海さんに似ていて(伝われ)、何と言う美形兄弟…冷酷で現実的な印象でした。
義経に情はあれど、討つのも仕方がないと思っていそうな頼朝様。
川原一馬さん:感情の起伏が義経様と兄弟っぽいなという印象でした。
義経様を討つのも現実的な判断ではあるけれど、怒りが根底にあると言うか。
あとお歌めちゃくちゃ上手くないですか?!良いテノールだわ…と毎回聞き惚れていました。

【富樫泰家:高木トモユキさん】
厳しい憎まれ役と思いきや、実は情に厚い富樫。
立ち去る義経の後ろ姿に、絞り出すように「義経様…」と呟いて頭を下げる場面、余韻を含め大好きでした。

【伊勢三郎:高橋健介さん】
御家来衆の中ではムードメーカーの末っ子という印象。
声高く最後までしっかり名乗る伊勢三郎の死に様が、意地と矜持を忘れず見事でした。
千秋楽のカテコトークが面白くて、頭の回転が速い方なんだろうなーと。でもメイちゃんの物真似は…似てなかった…笑

【駿河次郎:青木陣さん】
弁慶に続く御家来衆の頼れるお兄ちゃん的ポジション?
常に全体に気を配っているのがわかって、安心感のある方と言う印象。
身のこなしが軽くて、殺陣の時も群を抜いて動きが素晴らしかったです。
跳ねる時の高さと滞空時間が長い!低めの重心は役作りでしょうか。

【片岡八郎:日向野祥さん】
本当に声が良い!(もちろん顔も良い)そして立ち姿がすっとしていてすごく絵になる方と言う印象。
千秋楽配信のアーカイブを見返していたら、第八場の最後で八郎の頬を涙が一筋流れる様子が良く見えたのですが、それがとても美しかったです。

【喜三太:すわいつ郎さん】
シリアスになりがちな雰囲気を和ませてくれる、愛されるいじられ役でしたね。
個人的に一番死が堪えたのは喜三太でした。彼は本来世話係で戦闘要員ではなかったのに、最後は自分に誇りを持って戦うのがいじらしくて大好きなキャラクターでした。

【静御前:矢島舞美さん】
私、世界で一番かっこいい男性が宝塚の男役なら、世界で一番美しい女性は歌舞伎の女形と思っているのですが(もちろん価値観は人それぞれなので異論は認めます)
そんなわけで女性が演じる静御前を見るのは初めてでしたが、歌舞伎版とはまた違った初々しく可憐な静御前が新鮮でした。
そして吉野山での別れのシーン、鶴岡八幡宮での舞のシーンでは号泣。
吉野山では泣き叫んだ静御前が、鶴岡八幡宮では涙を堪えながら歌い舞うのが印象的でした(あのお衣装で舞うの大変そうですね)。

【弁慶:コロッケさん】
所々コロッケさんが顔を出しつつも笑、どっしりとした風格と、義経様に対する愛情が口調や眼差しからにじみ出る素敵な弁慶でした。
コロッケさんの演技って予想がつかなかったのですが、良い意味で予想を裏切られました。
弁慶が大きく構えているからこそ、この舞台が成立したのだなあと強く感じました。

【源義経:七海ひろきさん】
先に言っておきます。私は七海さんのファンなので以下長いです。

七海さんの義経様、めっちゃくちゃ当たり役ですよね…!
あの儚げな美青年っぷり!真っすぐで一途な性格!時折見せる子どものような一面と思わず支えていきたくなる眩く危うい純粋さ!しかしいざ戦に出れば勇ましく大胆で、それでいて静御前や家来に対する思いやりを忘れない!溢れ出る優しさと愛情!それら全てが遺憾なく発揮されていてもう完璧じゃないですか!!!(ここまでひと息で)

初挑戦のフライングも本当に綺麗でしたし、舞うような軽やかな殺陣も日に日に完成度が上がっていって、いったいどのくらいの努力の結果なのだろうと、そんな意味でも目頭が熱くなりました。
劇場では臨場感と息遣いを堪能し、配信では表情をじっくりと堪能し…特に殺陣の時の目線では神経が研ぎ澄まされているのがよくわかって鳥肌が立ちました。

そう、七海さんの目と言えば、とにかく全体を通して七海さんの瞳の演技が素晴らしいのですよ…!
台詞のない目と表情だけの演技なのに、しっかり伝わる感情。時にキラキラと希望に輝き、時に暗く翳り、愛情と悲しみをたたえ言葉よりも雄弁に語る目は一度見たら虜になってしまいます。

素晴らしい義経様をみせてくださって本当にありがとうございました。
2週間という限られた期間でしたが、殿の半生を見守る事が出来て幸せでした。
殿を褒め称える言葉ならいくらでも紡ぐことが出来ますが、この辺りで筆を置きたいと思います。

全体の感想

誰もがストーリーを知っているのに毎回新鮮に感動出来るのは、キャストの皆さまの熱演と、素晴らしい裏方の皆さまと、明治座の舞台機構の全てが揃ったからこそですよね。
先ほども書きましたが、本当に素晴らしい舞台でしたので2時間半くらいのボリュームで再演して欲しいです!
そして是非とも今回の舞台を円盤で(出来ればBlu-rayで)発売して欲しいです…明治座様お願いします…!

案の定ものすごく長くなってしまったので、二部の感想は後編で。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?