声劇「タピオカ」

「タピオカ」

◎登場人物
 医者
 患者

◎作品時間約四分


患者「あの・・・先生、ハッキリ言ってください!」

医者「うーん」

患者「先生はこうおっしゃいました。僕の心臓に影がある、と。その時は健康診断のつもりでしたが、先生にそう言われ、再検査を受けました。そして、その日から僕は覚悟を決め生きてきました。人生でやり残したことは無いか、生きているうちにしたいことは無いか。例えば、食べたことの無いものを食べるとか」

医者「タピオカですね」

患者「いや、タピオカくらい食べたことありますよ。そうじゃなくて、こう・・・フォアグラとか・・・」

医者「いや、タピオカです」

患者「フォアグラはタピオカじゃないですよ。なんだ、と聞かれれば詳しくは知らないですが」

医者「ですから、タピオカですって」

患者「え?医学的に言えばフォアグラもタピオカってことですか?実は蝶々と蛾に違いはない、みたいな」

医者「いえ、そんな雑学的な話ではなく。あなたの心臓にある影がタピオカなんです。タピオカが詰まっています」

患者「・・・は?」

医者「これは見事なタピオカですね。どちらかと言うともっちりしているタイプのヤツです」

患者「いやいやいや、待ってください。僕まだタピオカの所にいるんで。そんな食感の所に行かないでください」

医者「タピオカの所ってなんですか。ここは病院ですよ」

患者「いや、そうじゃなくて。・・・って、ええ!?本当にタピオカなんですか?」

医者「うーん、本当にキャッサバ芋から作られた本物のタピオカかどうかは、ちょっと。詳しく調べてみないことには」

患者「そうじゃなくて!」

医者「コンビニとかで売っているタピオカはこんにゃくゼリーで代用したりしてますもんね」

患者「ちがうちがう!本当に僕の心臓にタピオカが詰まってるんですか?」

医者「それはもう、しっかりと。私の医師人生を懸けてもいい。完全にタピオカです」

患者「こんな不可思議なことに懸けないでください。って言うか懸かってるのは僕の心臓です。・・・え、僕はどうしたらいいんですか?」

医者「とりあえず、ミルクティーを飲むというのはどうでしょうか?甘めの」

患者「待って。なんでそんなタピオカに寄せた方法なの?なんで美味しくしようとしてるの?」

医者「今のところ、悪性タピオカかどうか分からないので。取り除いていいものかどうか・・・」

患者「何?悪性タピオカって。むしろ心臓に詰まってるのに良性なことってありますか?取り除いてくださいよ!」

医者「あのね、キャッサバさん」

患者「違うわ!体内でタピオカ作ってないわ!」

医者「これは失礼。いいですか?医療の現場において、素人判断というものが最も危険なんです。命を預かり、扱っているんですよ?」

患者「めちゃくちゃ名言風に言ってますけど、あなた、さっきミルクティー飲めって言ってましたからね!」

医者「そうですね、すみません。口からでは心臓のタピオカまで届きませんからね。輸血用のミルクティーを用意します」

患者「待って」

医者「輸血用のミルクティーをM型で」

患者「血液型みたいに言ってるけどM型ってMサイズだろうが!素人判断でも間違いって分かるわ!ふざけないでくださいよ!」

医者「ふざけているのはあなたでしょう?心臓にタピオカなんか詰めて」

患者「ちょっとしたイタズラみたいに言うな!鼻にタピオカ詰めて取れなくなったんですよー、とは違うんですよ!」

医者「タピオカは丸いのに、あなたはトゲトゲしていますね」

患者「上手くねーよ!いや、ほんとにこれ大丈夫なんですか?どうなるんですか、僕」

医者「心臓の方は問題なく動いているので大丈夫だとは思います」

患者「本当ですか?」

医者「ええ。ですが・・・」

患者「え、何かあるんですか?」

医者「膵臓が・・・」

患者「膵臓にもタピオカが!?」

医者「いえ、膵臓には、パンケーキです。生クリームたっぷりの」

患者「なんでインスタ映えするものばっかりなんだよ!」


終幕

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