![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/26612467/rectangle_large_type_2_ff3b40b67bdf15f09dee64e536421ec6.jpeg?width=800)
Photo by
neji1983
雨虫
群がる羽虫がやかましく
胸もとを飛び交い喉のほうへ
上ってくるので目が覚めた
雨を知らせる虫の名を
わたしに教えたのはあなただ
夜の壁に走る光の筋は
もがいた絶望の
引っ掻き傷に相当する
酒も飲まないのに吐き気がする
ここはさっきまでいた場所だ
いてはならないほうの世界だ
わたしはこっち側へ
いつでもどこまでも行ける
忘れようとしたあの少女が
湿った指でわたしの手を引く
その向こうは黒ぐろと
なにもないのに彼女は笑って
標識の先の深淵を指さす
覗いた小ぶりな歯は
真珠の粒と同じに美しい
わたしはあなたと
行く勇気がないよ
か細い声で彼女に言うと
少女は笑うのをやめ
乱暴に手は解かれた
いいよ勝手にすれば
うなだれたまま深淵に
消えた彼女をずっと見ていた
群がる羽虫がやかましく
まだ胸もとを飛び交っている
雨を知らせる虫の名を
何れ 愛してみせると
サポートありがとうございます。励みになります。いただいた金額は、すべて音楽活動費にいたします。たのしんでいただけますように。