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笑ってばっかりの国


東京では梅雨らしい天気が
続いています。

雨を飲む、という唄をつくってから
苦手な雨がすこし
好きになったような気がしています。


昨年の夏、宮城に連れて行って
いただいたことがありました。

あたたかい笑顔と
いっぱいのごちそうと
燃えつづける情熱を
分けていただいた旅でした。

そのときのおはなしを。




「笑ってばっかりの国」

昔々あるところに、
笑ってばっかりの国がありました。

そこはお米のおいしい国で、
この時期にはうつくしい
緑の絨毯がひろがっています。

刈り入れをする秋が来ると、
みんなはひときわ
大きな声で笑うのでした。

【豊穣祭】


ある日、笑ってばっかりの国に、
とんがり帽子の
魔法使いがやってきました。

魔法使いはみんなの笑顔を、
魔法を使ってぜんぶ
梅雨の雨雲に隠してしまいました。

隠れてしまった笑顔を
みんなで必死に探しましたが、
どこにも見つかりません。

【かくれんぼ】


笑顔を忘れると、
ひとびとはだんだん、
お互いに話をしなくなりました。

笑わないでおしゃべりをするのは、
とても難しかったのです。


笑ってばっかりの国は、
今は強くて
さびしい国になりました。

【dragon】


これではいけないと、
魔法使いに見つからないよう
真夜中に集まって、
みんなでごちそうを準備して、
踊り明かすことにしました。

おいしいものを食べて
音楽を聴いたら、
笑顔を思い出せるかもしれません。

おや。

ごちそうの湯気に誘われて、
とんがり帽子がこっちを覗いています。

【真夜中】


ごはんは一緒に
食べたほうが楽しいと、
誰かが魔法使いに言いました。

魔法使いはきまり悪そうに
扉を開けました。

表情は変えませんでしたが、
嬉しい気持ちを隠しきれず、
空の雨雲が、
ぱっと七色に染まりました。

【七色】


魔法使いは泣きながら
みんなとごはんを食べました。

ぼくは笑ったことがないから、
みんなが羨ましくて悔しかったと、
小さな声で言いました。

色とりどりに染まった雨雲は、
やがてゆっくりと溶けて、
優しい雨になって降ってきました。

【玉響】



笑ってばっかりの国に、
元通りに笑顔が戻りました。

魔法使いはみんなに謝って、
緑の絨毯を抜け、
船に乗って
自分の国に帰ります。

おなかがすいたら戻っておいでと、
笑ってばっかりの国のひとが言いました。
魔法使いは振り返り、
ありがとうと返事をして、
顔いっぱいに笑いました。

【海里】



20190629
宮城 まりちゃん家
pf.伊藤詩織
per.maruyaMAX


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