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時計

私が一番見ている時計は、トイレの中にある。
七年前リフォームをしたときに、小さい葉の模様の壁紙に合わせて百均で購入した、木目調のまあるい時計。
壁紙を傷つけないような、釘打ちのホルダーに吊り下げられた直径十センチほどの針の時計。
座った時、一番目に付く場所をなんとなく選んだときは、邪魔にならず目立たずにと決めたはずなのに、トイレの中でいつもぼおっと見ていることに気が付いた。
この頃は時計もデジタル使用なものが多く、針が動いていくのが珍しくもあるのかもしれないが、かすかな音を立てて確実に動いている針を今日もまた見ていることに気が付いた。

そういえば、私、いつも君を見てたね。
今までなんで気が付かなかったかな。
でも、なんともいい場所にいるじゃない。
ほんの少しだけ本当の時間より針を進めてるの知ってる?
みんなには言ってないけどさ。
――――そうしないと、遅刻するから。
君を少し進めるだけで、遅刻が少なくなるかなって思ったからやってみた――――そのとおりだったから笑っちゃう。
チクタクチクタク。
夜中にトイレに起きた時も、君を見るだけで何時かわかるから、実は何気に助かってる。
君を見てやっと時間が頭の中に入るって感じ、わかってくれるかな?
チクタクチクタク。
返事はないのにおしゃべりだよね、君は。
でも、気にならないし、むしろ安心感倍増って感じ。
今になって、君をここにお迎えした自分を自画自賛するね。

寝ぼけ眼の私の思考は彼を見ながら空転していく。

一日の中で、私と一番目が合う時計はトイレの壁に居る。
なんかシュールな字面だな。
私以外の家族は、彼と会話することがあるのかな?
そんなことを思ったりして時間が過ぎる。

場所が場所だから、彼に少し申し訳ない気持ちが湧いてきた。
けれど、もうそこに彼がいないことが想像できない。
掃除、これまで以上に頑張るから、許してくださいませ。
なーんて、努力目標の表明なんかをしてみる。
でも、今の本当の気持ちを込めて。
いつもありがとう。
そして、これからもよろしく。









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