昭島市の「昭和の森ゴルフコース」界隈の再開発計画を巡って

2022年2月10日、東京都昭島市の「昭和の森ゴルフコース」の再開発を巡り、同コースの土地を買収した日本GLP株式会社が、近隣住民向けに計画概要の説明会をKOTORIホール(昭島市民会館)で開いた。

みぞれが降る中でも多くの人が参加し、関心の高さがうかがえた。説明会の進行は日本GLPの担当者が、スクリーンに映し出された計画概要を読み上げたのちに質疑応答という流れだった。

昭島市民だけでなく他地域でもさまざまな噂が飛び交い、昭島市議会でも一般質問がなされていたこの事案は、昭島駅周辺の生活環境や自然環境、地域コミュニティーの変化など、あらゆる問題が絡む案件である。話は不気味に水面下で進んでいたようで、22年1月に住民説明会の告知のチラシが近隣住民のポストに投函されると、住民の不安と不満は日増しに高まっていた。

計画概要を述べる前に今回は、このゴルフ場取引がどのように行われたのかを整理しておきたい。東洋経済オンラインの『「ゴルフ場」用地が高値で売れまくる意外な理由』の説明が詳しい。

それによると、「昭和の森ゴルフコース」は「2020年3月にアメリカの投資ファンド・ベインキャピタルがTOB(株式公開買い付け)を行った昭和飛行機工業の不動産子会社が保有していた」。しかし「2021年2月に売却された」。信託受益権を取得したのは「昭島特定目的会社」。この会社は「日本GLPが組成したファンド」であり「ゴルフ場を物流用地として転用するもよう」だと指摘している。

「昭和の森ゴルフコース」を手放した昭和飛行機工業を巡っても近年、親会社が目まぐるしく変化している。まず昭和飛行機工業は、2014年に三井造船が実施した株式公開買い付け(TOB)の結果、三井造船の子会社となる。その後、三井造船は2018年に三井E&Sホールディングスという持ち株会社へ社名を変更する。

そして2020年1月23日、昭和飛行機工業は、同社に対してベインキャピタルがTOBを実施することを発表親会社の三井E&Sホールディングスは同日、グループで保有する65.5%の株式をベインキャピタルに売却すると発表したのだ。

こうしてベインキャピタルは、「昭和の森ゴルフコース」を運営する昭和飛行機工業を取得。その後、2020年10月1日付で商業施設事業、賃貸施設事業、ホテル・スポーツ事業を専門に行う「昭和飛行機都市開発株式会社」を設立する。昭和飛行機工業からサービス事業を切り離して分社化したのだ。

昭和飛行機都市開発は、商業施設事業として「モリタウン」「モリパーク アウトドアヴィレッジ」、ホテル・スポーツ事業として「フォレスト・イン 昭和館」「昭島ステーションホテル 東京」「昭和の森ゴルフコース」「昭和の森ゴルフドライビングレンジ」「昭和の森テニスセンター」などを運営している。

こうした中、東洋経済の記事にあるように、2021年2月に「昭和の森ゴルフコース」が売却された。同誌は、「昭和飛行機工業にTOBを行ったベインキャピタルの広報担当者は、『TOBの公表時点においては、昭和の森ゴルフコースを売却する予定はなかった』と説明する。TOB価格の算定根拠に昭和飛行機工業が保有する不動産の含み益が加味されていたかについてはコメントを控えた。一方、TOB時点で物流用地としての売却を念頭に置いていた可能性はある」と報じている。

つまり、ベインキャピタルがTOBをして、三井E&Sホールディングスから昭和飛行機工業を買収する目的は、最初からゴルフコースを物流用地として”転売”することを狙っていたとの見方ができる。そうすると昭和飛行機工業のサービス部門を分社化し、直後にゴルフコースを売却した理由も腑に落ちる。

一方で、昭島市に本社を構える老舗メーカーは、2014年の三井造船によるTOBが成立した時点で歯車が狂い始めていたとも言えるかもしれない。そして、地元の老舗企業を巡る買収劇と市民の憩いの”空間”である「昭和の森ゴルフコース」の売却→再開発に関して、地域住民の知りえない”空中戦”が展開されていることが、いっそう住民の不安を掻き立てているのではないだろうか。

このnoteでは市民の憩いの”空間”である「昭和の森」界隈の開発動向、この再開発計画を巡って、企業・行政・住民のガバナンスの在り方を検討していきたいと思っている。

この案件は、企業単体だけで解決できるほど簡単な問題ではなく、あらゆるステークホルダー(住民、最近近辺で家を買った人、これから近隣の新築マンションに引っ越してくる予定の人、小学校、中学校、保育園、地元の商業施設、地下水を使う昭島市の広域住民、昭島市で渋滞を懸念する事業者等々)が関わっているからである。

かつて武蔵村山市で日産自動車工場の跡地を巡る土地取引では、当初宗教法人が取得予定だったが、地域住民を筆頭に反対の声が高まり、最終的に行政や周辺自治体も仲介に入り、別の案をまとめて現在のイオン武蔵村山が開業した経緯がある。これは現代の都市ガバナンス論のお手本と言われている。「昭和の森ゴルフコース」は「第二の日産工場跡地問題」となる可能性があるのではないだろうか。

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