カーテンを開けた女
こんにちは☺︎
ふと思い出話を書きます。
沢山の作業を前にした現実逃避でもありますが。笑
以前2週間検査入院した時の話です。
私は4人部屋のお部屋に入院しました。
窓の外はオーシャンビューで、よく釣りに行くあたり。ただ、私のベッドは廊下側。顔を洗う時にしか海が見えませんでした。
ぽーっと海を眺めていると、窓側の席のおばさまが、話かけてくれました。
「綺麗よね、あなたも見たいわよね。そうだ!カーテンを開けてもいい?その方がサッパリするもの!」
嬉しいお申し出に、即答でYES。とても気が会い、私とおばさまを仕切るカーテンは、診察の時をのぞいて常時オープン。ご飯もお話しながら食べました。
夜になりました。
私は病院の夜が苦手でした。心霊現象的な意味ではなく、夜は、もう一つの窓側のベッドのおばさまが、うなるのです。
「私は明日死ぬんだー。今日かもしれない。もうだめよ。家に帰れる日なんて来ないんだわ」
かなり大きな声で、私に話しかけてくれた親切なおばさまは、このうなるおばさまの声で起きては、カーテンの中に入り励ましていました。
「大丈夫よ。手術はもう終わって、お医者さんも帰れるって、言ってたじゃない。元気出して!」
親切なおばさまは難病で。うなるおばさまは癌の手術を終えて、それぞれ入院していたようでした。そこそこ長く同室しているようでした。
こんなところにピンピンしている私(実際は検査が必要なくらいには何かがあるわけだけれど)が来て申し訳ない。このベッドを待っている人がいるかもしれない。ごめんなさい。ごめんなさい。
そんな気持ちでいっぱいの夜でした。
朝が来て、また夜が来て、そうして数日たったころ、うなるおばさまが、ご飯を食べる私をみて、いいわねと言いました。
「私はご飯が食べれないから退院出来ないの。このまま死んじゃうのかも。」
私は、食べられない人に、ちょっと無神経かもしれないと思いつつ…
「じゃあこれから毎食私と食べましょう」
と言いました。
「そうよ!カーテンも開けたら気持ちいいわよ!おひさま浴びないから滅入るのよ。それに、ヨーグルトひとなめぐらいなら絶対できるわ!やりましょ!!」
と親切なおばさま。
うなるおばさまは、カーテンを開けることには快諾しつつも、ご飯は食べられる気がしないとしぶしぶ。
そんな時、私と同じ廊下側のベッドのお姉さんが、
「私も加わっていいですか、ずっと寂しかったんです。」
こうして4人部屋の仕切りになっていたカーテンはフルオープン状態になりました。
看護師さんやお医者さんからは、
「こんなに明るい部屋はじめてみた。」
「海が部屋いっぱいにみえる。」
「廊下から海が見えるなんて」
と、驚きの声を集めました。
私たち4人は仲良くなり、お食事の時間じゃなくてもわいわい。そうしているうちに、夜は全員が静かに寝付くようになりました。
もう、うなるおばさまは、うなるおばさまではありません。ご飯も少しずつ食べるようになり、ついにバナナ一本食べた時には全員で手を叩いて喜びました。
「全員のカーテンを開けさせた女」となぜか言われるようになったころ、うなっていたおばさまが、退院出来ることになりました。
「この子が居なかったら、一生病院だったと思うの!」
そう親族の方に紹介して下さった時には、このために病院に来たのかもしれないと思いました。
時を同じくして、最初にカーテンを開けることを提案してくれた親切なおばさまの容態が悪化し、集中治療室に運ばれてしまいました。
誰よりも気丈に明るく振る舞っていたおばさま。「私わかるの。これはあんまり良くないって。付き合ってきた私の身体だもの。」そう言っていた矢先でした。どうか元気で過ごされていますように。
私も2週間がたち、退院となりました。
たかがカーテン。されどカーテン。
病院食。だけど病院食。
この2週間は、かなり私の頭に鮮明に焼き付いています。
実際にカーテンを開けさせた女は親切なおばさまです。でも、私が来る前は同じメンツでも一回もカーテンが開かなかったから、やっぱりあなたが来たからよとお三方。
でもこの3人じゃなきゃ、カーテンは開かなかった気がする。私にとってのカーテンを開けた女は、このお三方。
ただ、私が4人目に加わったことで、ちょっと化学反応が起こっただけ。
私と言う一要素が、カーテンを開ける力になるんだな。不思議な気持ちでした。
私は無神経なほどに自分に正直なタイプ。
だから、たまに嫌われちゃうこともあるし、わかってる。
自分を変えなきゃとか、優しさとは何かと悩む中で、自分を変えなかったからこそカーテンが開いたこの事象は、きっと一生私の中のひと匙の希望として、私を支え続けていくんだろうなと思います。助けられたのは、私の方だなと。
私が居ることで、また、誰かのカーテンがあきますように。
同時に、みんながいることで、私のカーテンも開いていくんだと思います。
その先の景色が、キラッキラのオーシャンビューでありますように。
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