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【新クトゥルフ神話TRPG】シナリオ作成の疑問にお答えします! 番外編 ~皐月野鷽の場合~

はじめに

 どうも。エビフライは尻尾から食べる派、皐月野鷽です。

 先日発売された『Role&Roll Vol.204』の『アーカム計画』にて、シナリオ作成に関する読者からの質問に回答する記事を書かせていただきました。
 瀬戸エイジさん(@setoage)との共同執筆で、2人で対談しながら回答するという形式を取りました。シナリオ・コンテストに挑戦する際の参考として一読していただければ幸いです。

 さて、そんなシナリオ作成FAQですが、実は紙幅の都合で載せられなかった質問・回答がいくつかありました。今回はそれらを再編して掲載しておきたいと思います。
 なお、こちらは対談形式ではなく、あくまで皐月野鷽個人の回答・考え方であることをご了承ください(一部、対談の内容について触れることはあります)。

 それでは、以下より本文となります。どうぞ、ごゆるりと。

シナリオの書き方/創作、考案について

【Question】
 クトゥルフ神話TRPGらしいシナリオの要素とはどんなものでしょうか?
 昨今、ネット上にはユーザーが作成したシナリオが溢れています。オリジナルのシナリオを作成するのはとても良い事で、作者の数だけ様々なクトゥルフ神話TRPGが生まれました。
 私はシナリオを作成する中で、「これは本当にクトゥルフ神話TRPGと呼べるのだろうか?」と考える事があります。
 もちろん、明確な答えがあるとは思っていません。人によっていろいろなものがあっていいと思います。
 なので、あくまでお二人の解釈する「クトゥルフ神話TRPGという要素」に非常に興味があります。
 お答えいただけたら幸いです。

【Answer】
 ここでは質問者さんの提案に従って、「あくまで皐月野鷽としての考え」を述べさせてもらうことにしますね。

 自分が「クトゥルフ神話TRPGらしさ」を出すために意識しているのは、「ご都合主義的な展開にはしない」ということです。
 せっかく「クトゥルフ神話」という舞台で物語を作るならば、「宇宙的恐怖」の要素を最大限に活用し、絶望的なシチュエーション/容易には覆せないような危機的状況を演出したいものです。
 極端な例ですが、いきなり正義のヒーローが助けに来てくれるとか、神格を撃退できる最強武器が天から降ってくるというような構成にはしたくないですよね。

 一方で「TRPG」という要素も軽視してはいけません。これはクトゥルフ神話を題材にした「ゲーム」であり、成立させるためには共に卓を囲む「プレイヤー」の存在が必要不可欠です。
 ゲームである以上、プレイヤーには何らかの目標を提示し、それを「クリア」する達成感を味わってもらいたいところですよね。探索者が理不尽に蹂躙されるだけでは、ホラー小説やホラー映画の登場人物と変わりありませんから。

 簡単には(ご都合主義的には)解決できないものの、必死に情報を集め、考察し、対策を練り……探索者自身が積極的に行動することができれば、強大な神格にも一泡吹かせることができる。そんなバランスの物語を描きたいと思っています。

 簡潔にまとめると、「人知を超えた強大な敵を前にして、探索者たちが泥臭くあがく姿」という構図こそが、「クトゥルフ神話TRPGらしい要素」であるというのが自分の考えですね。

 ともあれ、クトゥルフ性(音楽性みたいに言うな)は多種多様です。くどいようですが、これもあくまで一意見として受け取っていただき、ご自身が考える「クトゥルフ神話TRPGらしさ」を追求したシナリオを作成していただければ幸いです。

大規模なシナリオについて

【Question】
 初心者用シナリオは公式からの供給が多いので参考にしやすいですが、上級者も満足できる骨太シナリオを作るコツを教えて下さい。

【Answer】
 この質問については、瀬戸さんとの対談時に「上級者」「骨太」の定義によって答え方が変わる、ということで色々と意見を交わしました。
 今回は2人の意見をまとめた以下のような定義で話を進めていきます。質問者さんとの解釈違いがあったらすいません。

「上級者」:新クトゥルフ神話TRPGのプレイ経験が豊富で、積極的に様々な提案ができる人のこと。

「骨太シナリオ」:想定されるプレイ時間が長く、シナリオのテーマ/背景が壮大である。また、プレイの自由度が高い。

 これらの定義に基づいてシナリオ作成のコツを挙げていきましょう。
 ただ、「シナリオの自由度を高める」という観点については、『Role&Roll』本誌の方で類似の回答がありますので、そちらを参照していただければ幸いです。

(1)シナリオに「山場」を複数設ける
 まずは単純にシナリオの「容量」を増やすことが骨太シナリオへの近道のように思えます。
 ただ、闇雲に情報量を増やしても冗長になってしまう可能性が高いです。ひとつの目標を達成するために、同じようなことを何度も繰り返すようでは、プレイヤーにも飽きが来てしまうことでしょう。
 そこで、シナリオ内の要所に「中盤の山場」を追加してみることをオススメします。シナリオ終盤のクライマックス以前に、いわゆる「中ボス戦」のようなものを用意するということですね。

(例)
・シナリオの黒幕(怪物、神格、魔術師など)が探索者たちにカルトの構成員や奉仕種族を差し向けてくる(戦闘)
・重要な情報/物品を持った人物などを敵が誘拐。追跡して奪い返さなければならない(チェイス)
・強大な敵の影響(夢を送られる等、能力や魔術の使用)を受け、探索者自身が奇怪な現象に見舞われる(正気度の喪失)。場合によっては、半狂乱になった探索者が他の探索者に危害を加えるかもしれない(プレイヤーから提案を引き出し、それに応じた技能で対処させる)

 中盤に緊張感のある場面が挿入されると、その前後で探索者(ひいてはプレイヤー)の意識を更新することができます。
 長時間のシナリオともなると、途中で休憩をはさむ、あるいは数日に分けてプレイすることも想定されます。そんな時には各山場が「シナリオの区切り」として機能することもあるでしょう。

 また、このような山場をきっかけにして「新しい情報/展開」への足掛かりを作ることもできます。
 例えば、「倒したカルト構成員の持ち物を調べることで、カルトの集会場の手がかりを得られる」だとか、「探索者の見せられた夢の光景と同じ場所が現実世界にも存在することが判明する」といった展開ですね。
 こうして、情報収集⇒山場⇒情報収集⇒山場……と繰り返すことで、より壮大な物語を形作ることができるはずです。
 この考え方は、後述する「キャンペーンの作り方」にも応用できると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。

(2)「組織」あるいは「第三勢力」を採用する
 探索者と敵対する「黒幕」が単一の存在だと、どうしてもシナリオに幅を持たせるのが難しくなります。その存在に向かって一直線に迫っていく形になりがちですからね。
 そこで検討したいのが「組織」「第三勢力」を用意することです。それぞれ順に説明していきますね。

 まず「組織」ですが、これは分かりやすいところでいうと「特定の神格を崇拝するカルト」などですね。
 他にも「怪物や魔術を悪用する反社会的勢力」だとか、「黒幕に騙され、それと知らずに悪事の手助けをさせられている若者たちの集団」など、様々なケースが考えられます。
 探索者たちにこのような組織を相手取らせることによって、シナリオのボリュームを増やすことができるのです。
 探索者たちはとある事件を調査する中で、組織の関与を知ることでしょう。そうなれば、組織の成り立ち/構成を調べる、構成員とのいざこざ、組織の所有する施設への潜入、幹部との交渉/戦闘、そして遂に組織を束ねる黒幕との邂逅……というように、階層になったストーリー展開を簡単に用意することができるのです。
 単純に敵の規模が大きくなれば、それだけ様々なアプローチを考えることができる、ということですね。

 次に「第三勢力の関与」という形で物語に幅を持たせる方法です。
 これは「黒幕とは別の神格を崇拝するカルト」だとか、「黒幕の持つ技術/物品を奪取しようとする集団(軍、諜報員など)」というような存在が考えられます。もちろん、第三勢力は集団だけではなく、「黒幕に恨みを持つ魔術師」のような個人である可能性もありますね。
 これらの存在は探索者たちにとって脅威となることもあれば、助けとなることもあるでしょう。三つ巴の戦いとなるのか、それとも共通の敵を討つために共闘するのか。すべては探索者の行動次第というわけです。
 敵の組織と比べると扱いが難しいかもしれませんが、第三勢力のような「状況をひっかき回してくる存在」がいると、シナリオの展開に様々なバリエーションが生まれることになります。プレイグループに上級者が多いのであれば、一考の余地があるでしょう。

(3)「動くNPC」を配置する
 「動くNPC」というのは、自分が今さっき考えた造語です(え?)。これは「時間の経過や探索者の動向に応じて自動的に行動する/行動を変えるNPC」という意味です。

(例)
・土曜日の正午ピッタリになると、昼食のために行きつけの店に出かけるNPC
・毎日食事時になると、人目を避けてこっそり地下室へと向かい、そこに匿っている(あるいは監禁している)人物に食事を届けにいくNPC
・探索者がカルトの息のかかった店に聞き込みに来たら、カルトの刺客が探索者を尾行し始める
・探索者に同行していたNPCが、月の出ない夜になると一人で外へ抜け出していく

 上記のような「行動パターン」を持ったNPCがいると、それに対応するために探索者たちも策を講じる必要に迫られます。
 例に挙げた「昼食に出かけるNPC」が、「重要な情報を持っているが頑固で人嫌いな人物」である場合を考えてみましょう。
 真正面から話を聞きに行っても、NPCは決して面会してくれません。そこで探索者たちは、彼の出かける時間/行きつけの店を調べることにしました。
 それらを突き止めた後、偶然を装って昼食の場に同席して探りを入れるのか、それとも家主不在の隙に家屋へ忍び込むのか……探索者たちの選択次第で、物語の展開は大きく変わっていくことでしょう。
 このように、シナリオ側では「NPCの動き」だけを決定しておき、どのように対応するのかは探索者側に柔軟に考えてもらう、というような形式を取ることができるのです。
 当然、キーパーは「NPCの動き」をしっかりと把握しておかなければなりませんし、プレイヤー側も不確定な要素に翻弄されてしまう可能性があります。
 しかし、プレイグループの行動指針次第で、毎回異なる展開を生み出すことができる面白い手法です。シナリオ作成に慣れてきたら、ぜひ一度試してみてください。

キャンペーンについて

【Question】
 キャンペーンシナリオを作成する上でのコツなど教えていただきたいです。

【Answer】
 キャンペーンというのは、複数のシナリオを連続して遊ぶ方式ですね(ルールブック第10章「ゲームをプレイする」参照)。
 これについては、前項の「骨太シナリオ」の作り方が活かせます。「強大な敵組織」も、「縦横無尽に動き回るNPC」も、広大なキャンペーンにこそ相応しい存在だと言えるでしょう。詳しくはそれぞれの項目を参照願います。
 この回答では、前項の「山場を複数設ける」について、キャンペーンシナリオ向けの考え方を解説したいと思います。

 まず、基本的にはキャンペーンであっても「中盤の山場」によってシナリオを管理するのは大切なことです。
 シナリオの随所に配置した「中盤の山場」に加えて、各シナリオの「終盤(クライマックス)」さえも、「キャンペーン最後の壮大なクライマックス」に向けてのひとつの山場として扱えるわけですね。
 ただ、「前話のクライマックスで得られた情報」を、直接的に次の話へと繋げてしまうと、次のシナリオも前回と同じような導入で始まってしまいそうですよね。プレイヤーによっては「ずっと同じ山を登り続けている……」というような印象を抱いてしまうかもしれません。
 キャンペーンはあくまで「それぞれ別のシナリオ」を繋げて遊んでいるわけですから、せっかくなら毎回テイストの異なる冒険を楽しんでほしいところですよね。

 そこで、ひとつのシナリオは「クライマックス」でしっかりと決着をつけるようにしつつ、そこから次のシナリオへと繋がる「緩やかな伏線」を張るようにするとよいでしょう。
 もっとも分かりやすい例は、「探索者たちがこれまでに関わってきた全ての事件の背後に、それを仕組んだ組織/黒幕がいる」というような設定です。各シナリオの中で、その組織/黒幕の存在を匂わせるような情報を配置していけばよいのです。

(例)
・各シナリオで倒した敵が、全員同じようなタトゥーを入れていた
・重要なNPC/犠牲となったNPCの家に、同じイニシャルの人物からの手紙/メールが届いていた
・探索者が複数の事件を調べる中で、これまでの関係者が全員同じ組織(研究所、いわくつきの私設教育機関、詳細不明の秘密結社など)に所属していた時期があることが判明する

 こうすることで、毎回全く異なる冒険を描いたとしても、最終話で相対すべき敵の手がかりを累積させていくことができるのです。
 長いキャンペーンの末、裏で糸を引いていた黒幕の正体を暴き、それを倒すことができれば、プレイヤーたちは強いカタルシスを得られることでしょう。
 必ずしも背景に「ひとつの巨悪」を配置する必要はありませんが、その場合でもしっかりと「シナリオ同士を“それとなく”繋げる要素」は用意しておくことをオススメします。

 他にも、前のシナリオで助けたNPCが味方になり、重要な情報源となってくれるとか、前話の探索者の親族/子孫(あるいは時系列を遡って先祖など)を次の探索者として使用できるなど、キャンペーンならではの「連続性」を活かした要素を盛り込んでおくと、面白い展開を生み出せるはずです。

 最後に、キャンペーンシナリオを作成する時は「幸運を消費する」(ルールブック第5章「ゲーム・システム」参照)の選択ルールを「採用する前提で」バランス調整を行うようにしてください。
 幸運の消費はキャンペーンにこそ適したルールであり、同じ探索者で長く冒険を楽しんでもらうためにもぜひ採用したいルールです。
 また「幸運を消費して意識を保つ」(ルールブック第6章「戦闘」参照)というのも重要なルールで、「せっかくキャンペーンのクライマックスなのに、最初のラウンドにダメージを受けてからずっと気絶してた……ぴえん」となる人を減らすことができます。
 シナリオ作成者がこれらの選択ルールを採用していなかったとしても、第三者がキーパーとしてプレイする際には採用される可能性が高いのです。
 そのため、あらかじめ「幸運は消費されるもの」と思って作成するとよいでしょう。
 キャンペーンが進むにつれて、少しずつ減っていく探索者たちの幸運を眺めながら、「ではグループ幸運ロールをお願いします!!!!」と宣告するのには中々の愉悦を覚えます。ぜひ一度お試しください(?)

難易度、バランスについて

【Question】
 あまりにも理不尽すぎてプレイヤーたちが萎えないためにも、「神話生物に蹂躙されつつもなんとか解決できる」ぐらいの塩梅に抑えるために気をつけるべきことは何でしょうか?

【Answer】
 冒頭の回答のとおり、自分も「強大な敵」と「探索者」とのパワーバランスには常に気を配っていますね。探索者が簡単に潰されてしまっても面白くありませんから(悪の幹部みたいな意見だ)。

 探索者と敵勢力とを真正面から戦闘させるならば、敵側のダメージ・ロールの「平均値」「最大値」を意識することが大切です。
 探索者の平均耐久値は11~12ですから、これを基準に戦闘のバランスを調整するとよいでしょう。
 例えば、「中盤の戦闘≒死なせたくはないが緊張感は欲しい」という場面では、1D6+1D4(平均値:6、最大値:10)程度が妥当そうに見えますね。
 実際には平均よりも耐久値の低い探索者が来る可能性もありますから、もう1歩下がって1D6~1D8程度に設定しておくと安心でしょう。
 別のパターンとして、「終盤の戦闘≒適度に死の恐怖を与えたい」という場面では、1D8+1D6(平均値:8、最大値:14)~3D6(平均値:10.5、最大値:18)程度で調整するのがよいでしょうか。
 状況に合わせた適切なダメージが出せるように、NPC・怪物の武器や能力値(ダメージ・ボーナス≒STRとSIZ)を調整してみましょう。

 神格は能力値がカッチリ決まっているので扱いが難しいと感じるかもしれませんが、シナリオ内で「この神格とは直接対決しない」「この神格は不完全な状態で復活したので、この攻撃方法は使用できない」というような「線引き」をすることで、ゲームのバランスを調整できるでしょう。
 また、探索者に「一度だけその神格(あるいは怪物)からの攻撃を無効にできるマジック・アイテム」や、「一部の特殊な装甲を無視できる武器」といったような装備を与えることで、「探索者側を強化してバランスを取る」という手法も考えられます。
 当然、上記のような装備は「困難な探索の末にやっと手に入るもの」として設定しておくべきでしょう。その辺の戸棚からポロッと出てくるようではバランス崩壊の元です。

 また、ダメージ量に加えて「戦闘技能の技能値」も考慮しておきましょう。
 特に貫通する攻撃については、イクストリーム・ダメージが出ると鬼のような威力になるので要注意です。……まあ、そんな事態が起きて大騒ぎするのも楽しくはあるのですが。
 終盤の敵ならいざ知らず、序盤~中盤の敵は可能な限り技能値を50%未満にしておくとよいでしょう。
 50%未満ならばファンブルする確率も上がるので、キーパーの判断次第ではありますが、敵の重大なミス/同士討ちというような展開も期待できます。
 数字だけ見ると「低い」と感じるかもしれませんが、集団で襲い掛かるタイプの敵ならば、誰かは成功するでしょう。数的有利というルールもありますからね。

 色々と考慮し、場合によってはNPCを用いた「模擬戦闘」なども行ってみて、自分好みのバランスを模索してみてください。

シナリオの盛り上がりについて

【Question】
・盛り上がるポイントを用意する方法
・探索が退屈(つまらない)と言われてしまいました。楽しく探索してもらうにはどのような探索がいいでしょうか?

【Answer】
 シナリオ作成において、もっとも難しいのは「道中の探索パートを考えること」だと言っても過言ではないでしょう。
 物語の背景やインパクトのあるクライマックスシーンは思いついたのに、そこに至るまでの道筋を面白くできない……そんな経験をしたことのある方も多いのではないでしょうか。私もそうです。
 そんな探索パートを楽しくするコツは、「探索が単純作業になってしまわないように調整すること」だと思います。ここでは探索を盛り上げるための2つの手法を紹介しましょう。

 ひとつめは「情報を散らし過ぎない」ということです。
 例として洋館を探索するシナリオの場合を考えてみましょう。
 大前提として、建物内のすべての部屋に等しく情報を配置する……というのは、やめておきましょう。
 すべての部屋が重要スポットとなると、探索者たちもしらみつぶしに探索せざるを得なくなります。こうなると同じような場面が延々と続くことになり、探索は冗長になってしまいます。
 そのため、重要な情報は「露骨に怪しい場所」に配置することをオススメします。
 洋館であれば「主寝室」、「開かずの間」、「地下室」、「屋根裏部屋」などがふさわしいと言えるでしょうか。ベタだと思われるかもしれませんが、目標が分かりやすい方が展開を生みやすいのです。
 上記のような怪しい部屋に入るためには、主人の目をかいくぐったり、鍵を手に入れたりといった手順を踏む必要があるでしょう。また、場合によっては目標箇所の近くの部屋に泊まっている客人(NPC)と交渉し、部屋を代わってもらったり、口裏を合わせてもらったりする必要があるかもしれません。
 このように、漠然と全ての部屋を調べるよりも、よっぽど「動き」のあるシナリオを作ることができるのです。部屋に入るために「探索者側(プレイヤー側)から自由に行動を提案できる」というのもポイントですね。

 これは街中を探索するシナリオにも応用できる考え方で、広い街を当てもなく探索するよりも、重要な施設/人物をいくつか設定し、その周辺を掘り下げてもらうような構成にするとよいでしょう。
 ただ、街を舞台にする際は様々なスポットを設定/訪問することができるというのもメリットのひとつですよね。
 折衷案として、地図上に様々な施設を用意しつつも「どの施設に行っても似たような事情通から話を聞くことができる」だとか、「同じような内容について触れた書籍/新聞記事を発見できる」というように、「複数のスポットで同じ情報を入手できる」造りにしておくのがよいかもしれません。
 間口を広げつつも、最終的には「ひとつの重要な目標」へと繋がる情報を得られるようにしておく、ということですね。

 ふたつめは「毎回違う探索方法を用意する」ことです。
 あまり適切な例ではないかもしれませんが、「部屋の探索に使用する技能が毎回〈目星〉」だったりすると、それこそ同じことの繰り返しになってしまいますよね。
 探索者はそれぞれに個性的な技能を持っているわけですから、可能な限りいろんな方法で調査ができるようにしておきましょう。
 例として「写真家の仕事部屋を調べる」というシチュエーションを考えてみましょう。
 動物についての写真ならば、〈科学(動物学)〉〈自然〉といった観点から明らかになる情報があるかもしれません。
 また、様々な地域のお祭りを写した写真ならば、〈人類学〉〈歴史〉が役立つこともあるでしょう。
 さらに踏み込んで、まだ現像されていないフィルムを調べるために〈芸術/製作(写真術)〉を用いたり、現像してくれる写真店を探して街に繰り出したりすることも考えられます。
 様々な観点から調査ができ、それぞれ異なる情報が得られるとなると、探索にも張り合いが出てくるというものです。
 また、そもそも情報を得るための「手段」自体を探索者(プレイヤー)の発想に委ねる、というのもひとつの手ですね。その手法については『Role&Roll』本誌にて説明していますので、興味があればそちらも参照願います。

神話生物の取り扱いについて

【Question】
・あまり詳細のない邪神をあつかう場合、どこまで創作してもよいのでしょうか?
・神話生物によっては出典が訳されていなかったり、古くて図書館にもなかったりすることがあります。その場合はどのように解釈を膨らませればいいのでしょうか?

【Answer】
 確かに神話生物の中には、設定/能力が簡潔な説明書き程度の内容に留められているものもいますね。
 そのような神話生物について知る一番いい方法は、やはり登場する「原作小説」を読んでみることでしょう。
 原作が和訳されていない場合、少し大変ですが翻訳ソフトを活用して自家翻訳するか、もしくは英語が得意な方に翻訳を依頼してみるなどの方法を検討してみましょう。
 原作が古い書籍ならば、より大規模な図書館や古書店を探してみることになるでしょうか。もしくは、SNS上で所持している方がいないか募ってみるのも手ですね。何かとコアなマニアが多い界隈ですので……(?)

 ここで注意が必要なのは、記述が少ない神話生物だからといって「自分で過度に設定を追加してはいけない」ということです。
 例としてゾス=オムモグを考えてみましょう。この神格は記述が少ないながらも、「自分の姿を刻んだ像から顕現する」という要素が設定されていますね。
 ここを拡大解釈して、「美少女フィギュアの服に描かれたマスコットキャラクター:オムライスもぐもぐ君」が、実はデフォルメされたゾス=オムモグの姿であり、美少女フィギュアを通してかの神が顕現する……というシナリオは、まあアリでしょう。ホントか?
 一方で、「見た目がヒトデっぽいから」という理由だけで、「ヒトデをいっぱい集めるとゾス=オムモグに変形合体する」というような飛躍した設定を盛り込むのは避けた方がよいでしょう。
 これはこれで黒幕の口癖が「ヒトデが足りない……」とかになって面白そうではあるのですが、独自設定を追加してまでゾス=オムモグを使う必要性はなさそうです。
 完全な独自設定を使いたいならば、『新クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム クリーチャー編』に記載された「怪物を創造する」(第1章「恐怖:怪物の使用と創造」参照)の項目を活用し、まったく新しい神話生物を生み出した方がよいでしょう。
 自分のやろうとしていることが「解釈」の範疇なのか、それとも「独自設定」になるのか。線引きが難しいところだとは思いますが、第三者がキーパーをする際に「ルールブックに書いていない設定だから判断に困る……」ということにならない程度に留めた方がよいと思います。

シナリオを書く順番について

【Question】
・シナリオは背景から書きますか? それともやりたい、見せたいシーンから書きますか?
・自分がシナリオを製作する際はプロット等立てず筆が赴くままシナリオの時系列最初の部分から書き出していくのですが、シナリオを製作する時基本どのような順番で製作していますか?

【Answer】
 自分は先に背景をしっかりと決めてから書き始めますね。先にシナリオを書き進めて後から背景を考えると、思わぬところで矛盾してしまうことがあるためです。
 特に登場させる神話生物の役割/立ち位置を明確に定めておかないと、後から「このシナリオ、別にこの神話生物を使う必要性ないんじゃないか……?」という葛藤に苛まれたりするものでして……。

 その他の部分を書く順番は、正直毎回まちまちなのですが、簡潔に並べると以下のような感じでしょうか。

1:背景を固める
2:クライマックス(シナリオ一番の見せ場)を決める
3:結末(その後の着地点)を決める
4:その他の部分のプロット(筋書き)を立てる
5:各プロットの項目を思いついた順番に肉付けしていく
6:足りない項目を足す、あるいは余計な項目を省く
7:上から順に清書していく

 5番は本当に時系列関係なく「思いついたタイミングで」書き込むことが多いです。「あ、ここの探索はこんな要素を盛り込んでみよう」とか、「そうだ、この場面ではこのNPCと遭遇することにしよう」という感じですね。
 バラバラに書いていくと、「この項目と次の項目の間にもう1シーン欲しいな」だとか、「こっちは項目を分ける必要ないな。ひとまとめにしちゃおう」というようなことが見えやすい……ような気がします。なんとなく。
 ともあれ、6番目では上記のように「場面の取捨選択」をして、シナリオの完成度を高めるよう努めています。
 割とフワフワした回答で申し訳ない……。ただ、結局は自分が書き慣れた順番でやるのがベストだと思います。
 皆さんも自分が一番書きやすいと思う方法を模索してみてくださいね。

オススメの神話生物について

【Question】
 これは個人的に聞きたい事ですが新クトゥルフ神話になっておすすめ、あるいは好きな神話生物やクリーチャーはいますか?

【Answer】

 食屍鬼

 理由:強いため


 ……一応説明すると、新クトゥルフでは「数的不利」というものが追加されまして。簡潔に言うと「攻撃回数が多いほど有利になる」というルールですね。
 グールくんはこのルールの化身のような存在なので、新クトゥルフの環境(?)を活かした脅威として活躍が期待できると思います。

 もう一体、個人的な好みとして「ショゴス・ロード」を挙げておきましょう。
 これは元々『クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム』に記載されていた怪物ですが、新クトゥルフではルールブックから掲載されるようになりました。
 人間に化けることができるショゴスなのですが、容姿が特徴的かつ割と簡単に尻尾を出す性質のため、シナリオ上での使い勝手がよさそうです。ぜひ使ってみてください。

 新版の「マレモン」はクリーチャー編に加えて神格編も近日発売予定です。皆さんも好みの神話生物を探してみてくださいね。

おわりに

 ……思ったよりも長くなってしまいましたね?
 少々長文で分かりづらい箇所があったかもしれないので、疑問点等ありましたらリプライ等で質問してもらっても大丈夫です。
 今回の記事が皆さんのシナリオ作成の一助となれば何よりです。
 シナリオ・コンテストも開催中ですので、ぜひ奮ってご応募くださいな!
 それでは、よきTRPGライフを!

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