ヴィンテージにおけるアーキタイプ論

武漢さんの「デルバー史」を受けて、
「そもそもヴィンテージほどに自由なフォーマットにおいて、墓荒らしやURパイロマンサーといったアーキタイプで分けて考える意味があるのか?」
という言ってしまえばマクロな視点からの物事の見方を補足するのが今回の主旨。
専門家ないし研究家とすら呼ぶべきである武漢さんに対して反論したいわけではない。

具体的には武漢さんの記事における

3.1.デッキの位置付け
これまで、XeroxはUR Delverからデルバーを抜いた後継デッキである、という前提のもと論を進めてきたが、上記Satsuki氏の記事によれば、これはむしろジェスカイ・メンターの後継だという

というところに、より補足を入れたいということである。

分類分けとコンセプト分け

私は、使うカード
・意志の力
・Mishra's Workshop
・Bazaar of Baghdad
・逆説的な結果or暗黒の儀式orボーラスの城塞
によるコンセプト分け(①)をした後、
・アグロ
・ミッドレンジ
・コントロール
・コンボ(ほぼ存在しない)
の4つにデッキが分類(②)された結果が、ヴィンテージにおけるアーキタイプと呼ばれるものだと考えている。
そして私たちは大方の場合①はよく見ていても②を見ていなかったり、その逆をしていたりすることが多い。

例えば、URデルバーはアグロ(クロパ)デッキである。
が、構成をほぼ同様にしたURパイロマンサーはミッドレンジ寄りのデッキだと考えている。
つまり、URデルバーとURパイロマンサーはデッキ構造の思想からして異なるわけだが、ヴィンテージという環境やゲーム展開を全く知らない人がこの2つのリストを見るときっとこういう感想を持つのだと思う。
「ほとんど同じリストだね」と。

これが①のコンセプト分けの結果である。
つまり何が言いたいのかというと、URデルバーもURパイロマンサーも、①の区分で言うならば(私の言葉では)「青系フェア」なのだ。

②の視点からURデルバーとURパイロマンサーというデッキ構造をミクロな視点で見ると武漢さんの記事にもあるように、「受けながら戦えるか否か」がカード選択からキーポイントとして存在する。
が、①の視点、つまりコンセプト分けからマクロな視点で見ると、今回の例では「受けきらずとも戦えるアグロ」「受けながら戦うミッドレンジ」「受けきって戦うコントロール」という3パターンから、青系フェアというデッキを見ていることが分かる。

ジェスカイメンター→URパイロマンサー?

当時のメタゲームではジェスカイメンターの後継がURパイロマンサーに移ったかのように書いた。確かに私はそう意図してそのように書いた。
が、本質は違う。

①の視点から「受けきって戦う」より「受けながら戦える」デッキを求めた青系フェアは、ジェスカイメンターよりも墓荒らしやURパイロマンサーのほうが適役だったため、「デッキを新しく作って」「乗り換えた」のである。
そして、その配分からしてマクロな視点からは、ジェスカイメンターのプレイヤーの乗り換え先はURパイロマンサーしかなかったはずなのだ。

死儀礼のシャーマンによる色マナの安定化のために自力で墓地にいける点と相手の土地を割って速度を落とす動きが噛み合う不毛の大地の存在や、相手にカウンターを使わせない除去としての突然の衰微、そしてクロック以外に用途のないタルモゴイフなどから、墓荒らしの構築思想はジェスカイメンターの構築理念、思想とは異なる。
色マナの安定化を基本土地で行い、相手にカウンターを使わせながら通す除去としての剣を鍬にや紅蓮破を運用し、瞬唱の魔道士のようなブロッカーやドローによる除去を用意してから攻撃に転じるような運用上の理由から墓荒らしというミッドレンジ戦略とジェスカイメンターにおける同じ役割のカードは明確に異なるのだ。

つまり、私は

・青系フェア
 →アグロ(URデルバー※生存権無し)
 →ミッドレンジ(墓荒らし)
 →コントロール(ジェスカイメンター)

という環境がメタゲームの展開による変化やアゾリウスの造反者、ラヴィニアの登場などによって、

・青系フェア
 →アグロ(URデルバー※生存権無し)
 →ミッドレンジ
  →攻め重視(墓荒らし※継続)
  →受け重視(URパイロマンサー※新規)
 →コントロール(ジェスカイメンター※死滅→URパイロマンサーへ移行)

と変化したように見えていたのである。

MUD一つ取っても、過去スタックス、ラベジャーショップ、カーショップ、そして現在のゴロススタックスのいずれもくくりはMUDであったが、我々はその中身を全くの別物として扱っているはずなのだ。

デッキリストと構築の思想や戦略を読み取る

我々はリストから構築思想や戦略を読み取る際、1枚1枚のカードを丁寧に見たりしていない。
〇〇という戦略(②の4分類)を実現させるための××(カード名)である、とリストから読み取っている。
そうしてリストを眺めると、例えば戦慄衆の秘儀術師と瞬唱の魔道士は似たことを行うカードでありながら、戦略上の特性が全く異なることが読み取れるし、ジェスカイメンターにおいて僧院の導師だけでなく若き紅蓮術士まで採用されているのが何故なのかが読み取れるのだ。

3.2.ヴィンテージ環境の変化
では、XeroxをDelverの後継と捉えたとき、デルバー解雇をどう説明できるだろうか。
~~中略~~
以上のような理由から、デルバーが外されていったのではないかと考える。

この項で武漢さんはミクロな視点からデルバーが果たして本当に採用できなかったのかということを分析している。

が、私はそもそも「アグロ」という戦略が成り立ちにくいメタゲームになってしまっただけなのだと考えている。

最後に武漢さんの仰るバーン(URカウンターバーン)がなぜ成立しているかについて、私がDiscord上でなぜデルバーがいなくなったのか?という問いに対して返信した内容を転載して以前からの環境変化をおさらいしながら、記事を締めることとする。

※以下Discordにおける私の武漢さんへの返信
デルバーが入る余地がなかったのはなぜか?ということですが、まず前提の認識に相違あればご指摘ください。
①Xeroxとは私の文章内で言うURパイロマンサーを指している
②ラヴニカのギルド以降のメタゲームを指している

武漢さんの仰る「全ての除去が当たってしまう」点については疑いようもありません。
「アドバンテージを取る能力がない」という点についてはタルモゴイフの存在からそれ自体が問題ではないと考えます。
つまりこの点に関してはタルモゴイフとの比較になります。そうして見た場合はタルモゴイフのほうに優位性がありました。
それは「対サバイバル・ラベジャーショップ性能の差」からくるものです。

また、追加・整理する要素としては以下が挙げられます。
・範囲の狭いカウンターに過ぎない精神的つまづきに疑似的な除去の役割を与えてしまう(=相手の有効牌の増加)
※精神的つまづきが制限されて、デルバーの生存確率が上がった。
・ヴィンテージにおいてクロックパーミッションをクリーチャー1体で成立させることが非常に困難である
※真の名の宿敵と大歓楽の幻霊という複数のクリーチャーを採用することで成立させた
※要因①
 →最も重要な役割対象であるフェアデッキというカテゴリーの中で、墓荒らしが増加していた(衰微という打ち消せない除去の環境の枚数の増加)
※真の名の宿敵という墓荒らしをメタった選択
 →逆説的な結果(灯争大戦後はナーセットも含む)対策のための紅蓮破の枚数が増加(合計3→4への移行期間)している時期であった(デルバーへの除去枚数の増加)
 →対同型であるURパイロマンサー自体が稲妻を4枚採用しており、デルバーを出す理由がなかった(ジェスカイメンターは稲妻+剣を鍬にの合計が平均3枚)
※URパイロマンサーは消滅し、ティムールグロウへとその思想を引き継いだ
 =デルバーは1マナと手札1枚の無駄使いになりがちだった=クロックパーミッションとして致命的な構造的欠陥
※メインの除去が衰微ならテンポ差から咎める動きが可能
※要因②
 →クロックパーミッションを成立させるレガシーにおける目くらましや不毛の大地のような相手の速度を落とす手段がヴィンテージには存在しない
※新たに否定の力を獲得。メインから無のロッドを採用していくことで序盤の概念は薄いものの中盤の概念を強く表している。
 →ヴィンテージにはレガシーにおける序盤の概念が薄い(Moxによるゲームスピード差)
 →3点というクロックがコンボを抑制するだけの打点として機能していない(=ヴィンテージのコンボの速度がはやい)
 =横展開軸のクロックパーミッションなら成立しうる=若き紅蓮術士の採用
=全ての除去が当たってしまう上に、その除去の枚数自体が増加していた
 →同時期に3点クロックを採用するのであれば、対コンボ・フェアを見られるヴェンディリオン三人衆や、衰微に当たらない真の名の宿敵のほうが効果的であった
 →結果的に同じマナを支払うのであれば覆いを割く者、ナーセットで良いという結論に至った
・青いデッキの根幹であるドローが覆いを割く者、ナーセットによって抑圧されていた(アクション数を稼ぎづらい=速度の低下)
※覆いを割く者、ナーセットが制限されたことによって対策のガードを下げることが可能になり、また、ナーセットを雇用する必要が薄くなった
 →ナーセットを処理するためのカードを入れる
 →さらなる速度の低下
 →デルバーが構築否定している
 =デルバーを外す
ここまで来た段階で戦慄衆の秘儀術師との比較になります。
戦慄衆の秘儀術師で上記の懸念点を解消しにいったのがURパイロマンサー後期だと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?