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PSPE TOUR 2023 「ugokubaku」宮城・Darwin公演 ライブレポート

初めてライブレポートを書く。そもそも、ライブレポートなんていう大層なタイトルをつけてしまったが、正直「感想文」という表現の方が実際に近いと思う。兎にも角にも、今回のライブには、心をぐっとつかまれるようなものがあって、今のこの気持ちを忘れたくない!と思い、文章に残すことにした。

私がパスピエのファンになったのは、大学生のころで、今からもう10年近くも前のことになる。この時の話だけで、noteで大作が書けるくらいのボリュームがあるのだが、それは今度の機会に回すとして、以来、毎年というわけには残念ながらいかなかったが、節目節目でライブには顔を出していた。

最近はコロナ禍でもあり、私自身、何度か転職を繰り返して、最終的に山形で就職したこともあって、ライブからは遠ざかってしまっていた。しかし、新しい生活様式の下でのライブも定着し、しかも、おとなり宮城県でライブを開催してくれるということで、この機会を逃す手はないと思い、数年ぶりにライブに参戦することに決めた。

一週間前ぐらいから「ukabubaku」を改めて聴き込んだが、もうパスピエって、なんでこんなに素晴らしい曲ばかりなんだろうか……。どの曲を聴いても心の奥底を刺激してくるような、パスピエらしさもあり、それでいて新鮮でもあり、そんなようなことを考えながら眠りについた前夜は、すでにこみ上げてくるものがあった(早すぎる)。

当日は、妻も仙台で用事があるということだったので、車で一緒に1時間ぐらいかけて向かい、12時間1800円の駐車場、PARCO5階のおしゃれなレストラン、おっきいロフト、近くの換気しすぎているカフェを経て会場へ。気温3℃で雪の舞う中、商店街のすみっこに並んで、1本600円のコーラを買ってフロアの中央ぐらいに位置どった。いよいよだ。




携帯の16:59の表示を確認してから電源を落とすと、17時ぴったりに出囃子が鳴り始め、ほとんど待つことなくメンバーが姿を見せる。三澤さん、ナリハネさん、なっちゃん、つーさん、そしてサポートのサトケンさん……。マナーの良いパスピエファンのみなさんから暖かい拍手が鳴り始め、鳴り続け、鳴りやまない。来たんだ。パスピエのライブに。普段より2段階度の強いコンタクトレンズのおかげで、表情の機微まではっきり視えた。


4×4(1曲目)


目の前に海原が広がってくるような最初のサウンド、開放感、爽快感、そんなことを感じて、5秒後にはもう泣いていた。なんでだ。やっぱり生音は最高だ。パスピエの音楽を生で聴いているんだ。自分の大好きなバンドが、今、目の前にあって、そして時間の芸術を作り上げている……。泣いたっていいじゃないか。

「ukabubaku」の中でライブでトップに演奏するとしたらどの曲なんだろうと考えていて、いざ演奏されてみると、この「4×4」が1曲目だったのは納得というか、自分は音楽評論家でも何でもないから、詳しい理屈とかは分からないけど、見事に最初のサウンドで泣かされてしまったということは、少なくとも私には見事にブッ刺さった。

パスピエ 4×4 (Official Lyric Video)


浮遊層(5曲目)


「パスピエの曲で一番好きな曲は?」と聞かれることがたまにあって、聞かれなくても、誰かに曲を薦めるときに、「どの曲が自分は一番好きなんだろう?」と自問することもある。答えはいつも簡単には出なくて、どの曲も好きだし、どの曲も語れるほどの良さがある。もちろん、自分にしっくりくる「お気に入りの曲」はできてくるけれど、それも新しい曲を聴くたびにどんどんと移り変わっていく。

「ukabubaku」の中で一番気に入った曲を挙げるとしたら、さんざん悩んだ挙句にこの曲を挙げたいと思う。パスピエの楽曲は、豊富な言葉遊びが楽しいが、本作は最たるような「富裕層」との掛詞になっている。タイトル通り浮遊感漂うメロディーは、「あの青と青と青」を思い出すようで、同時に、性質の違う浮遊感、広がりとも思えてくるから不思議だ。

Aメロのあと、ごく短いBメロを挟んでサビに移行していく楽曲構成も個人的には大好物で、1曲1曲に、私のような素人でも、ふっと気づけるような工夫がたくさん施されているのが面白い。パスピエ初心者の妻に聞くと、この曲は「中級者向け」らしい。布教の参考にしよう。

もう一つだけ付け加えるとしたら、推しの、つーさん大活躍だったのがこの楽曲である。ファンの間では「顔でベースを弾いている」とも評されるほど表現力豊かなつーさんだが、表情、所作、立ち居振る舞い、ベースをかき鳴らす姿がめちゃめちゃカッコいいんだ……

パスピエ 浮遊層 (Official Lyric Video)


とおりゃんせ(6曲目)


スローテンポなキーボードの音から、どの曲が始まるのだろうと身構えていたところ、なっちゃんの口から出てきたのは、聞き慣れた「炎天下、炎天下、」のフレーズ。しっとりとした曲調でアレンジされた、パスピエの代表曲のひとつ、「とおりゃんせ」だ。サビを歌い上げた後は、楽曲は普段のテンポへと戻っていく。

とおりゃんせは、私がパスピエを知るきっかけになった曲で、確か、TBSラジオの「爆笑問題カーボーイ」で流れたのではなかったかと思う。当時、特にこれといって好きなアーティストがいなかった大学生の私には衝撃の出会いで、そのあとすぐに近所のTSUTAYAに駆け込んで、アルバム「ONOMIMONO」を借りたことを覚えている。

自分にとって思い入れのある曲を、素晴らしいアレンジで聴けたことに、記事を執筆しながら、改めて幸せを噛みしめている。

パスピエ - とおりゃんせ


ニュータウン(9曲目)


ああ、パスピエのファンでい続けられるのは、こういう素晴らしい曲を書いてくれるからなんだ、演奏してくれるからなんだ……。そう強く感じるような1曲で、ナリハネさんのバックグラウンドにクラシック音楽が存在することを否応なしに感じさせられる1曲でもある。大好きな曲のうちの1つ。

私は小学1年生からピアノをはじめ、中高6年間吹奏楽部でフルートを吹いていて、とはいえ全くクラシックには造詣が深くなく、それでも、私の背後にも間違いなく通奏低音的にクラシックが流れていて、だからこそ私の琴線に触れているのかもしれない。

もしパスピエのコアなファンの方と語り合う機会があるのなら、私は、自分の推しの曲として、この「ニュータウン」や「気象予報士の憂鬱」を挙げると思う。冒頭のアルペジオ(って言いますか?)からサビでの転調(してますよね?)まで、ナリハネさんの操る楽曲の世界が、私をつかんで離さないし、幼少期から音楽に触れていたとは思えない私の知識不足が、楽曲の理解を妨げているのではないかという不安も私をつかんで離さない。

何よりこの曲は仙台公演が初卸とのこと。そんな記念すべき公演に立ち会えたことが、何よりの喜びである。生きていてよかった。

ニュータウン


かたはれ時に(12曲目)


テクい、テクすぎる。何?何?何拍子?思ったより一拍多くない?拍子変わった?っていうかテンポも変わった?……難しいのにすげー楽しい。ライブでもほとんどの人が拍を取ることを諦めているのが密かに面白かったり。そんな曲をライブでやってくれるパスピエが好きなんだ。

改めてこんなことを言う必要はないかもしれないけれど、パスピエの大きな魅力の一つが、この音楽性の高さで、それでいて、多彩な言葉遊び、なっちゃんの圧倒的芸術センス、これだけでもてんこ盛りなのに、それぞれの演奏技術も素晴らしいときている。そりゃこれだけハマるわけよ。

パスピエ - かはたれ時に (Official Music Video)


もののけだもの(13曲目)


「ukabubaku」では最後のトラックに収録されている本曲。初めて聞いた時には歌詞のスピードのあまりの速さに「ライブでやるとしたら、テンポ落としてやるのかな?」などと失礼な心配をしてしまったが、まったくの杞憂だった。自分が恥ずかしい。

キャッチーなメロディーは、どこか可愛らしくコロコロと転がっていくようで、その中に「もののけ」という言葉からも連想されるような、ちょっとした妖しさみたいなものが顔を出す。行きの車の中で、夫婦ノリノリで聴いていて、妻も気に入ってくれたように見えた。

書きながらふと思ったのは、13曲目に持ってきた、というのも、もしかすると意図があるのだろうか。

パスピエ もののけだもの (Official Lyric Video)


四月のカーテン(アンコール2曲目)


「4」で始まり、「四」で終わる。回文の要素を巧みに取り入れるパスピエのことだから、このセットリストも狙っていないはずがない。

パスピエの楽曲は、言葉遊びや語感を楽しむものが多く、歌詞が難解な場合も多いが、「四月のカーテン」のように、私たちの心情に寄り添ってくれるような歌詞には、はっとさせられる。「最終電車」の可愛らしい心情描写には思わず微笑んでしまうし、「あかつき」の最後のメロディーの解決の部分には何度背中を押されたか分からない。

「カーテン」は、生と死の境界のようなものを私は連想するが、歌詞を見ていっても、自分の歩みがこのままただ死へ向かっていくだけなのではないかという漠然とした不安を書いているあたり、「カーテン」というモチーフを用いたのは、「生」や「死」を意識させる狙いもあったのではないかと、想像を膨らませてみたりする。

パスピエの大好きなところの一つとして、決して私たちを見捨てない、というのがあって、楽曲が暗いまま終わることがなく、私たちを励ましてくれる。その励ましも、直接的なものではないし、大げさな希望を見せることはない。ただ、「それでも世界は続いていくから、一緒に歩いていこうよ」と、そんな優しいメッセージを発しているように思えてならない。

「四月のカーテン」でも、最後は、「また朝は来るし、そこに普段と変わらない街(日常)があるから、カーテンを開けよう」と、そう結んでいる。ライブの最後に相応しい、優しい、優しい、終わり方だったと思う。

四月のカーテン




それほど多くパスピエのライブに参加したわけではないが、今回のステージは、いつにもましてトークの分量が多く、それがなんとも嬉しかった。ナリハネさんがこんなにテンション高くしゃべってくれたことも楽しかった。「しゃべりたい」と思えるような空間を、自分も一緒に作れているんだと思うと、それが誇りに思えた。

一番印象的だったのが、みなさん本当に楽しそうに歌って、演奏してくださったこと。こちらまで自然と笑顔になった。なっちゃんは「たくさんありがとうを伝えたい」と言ってくれたが、まったくもってこちらのセリフで、こちらこそ、たくさんのありがとうを伝えたい。本当にありがとう!

こんなに素晴らしいステージを5000円で聴けたことがあまりに申し訳なく感じて、帰りにキーホルダーを買った。今思えば、Tシャツとかもっと大きい買い物をすべきだったと思う。


買い物を終えた妻と合流して、もう一度ダーウィンまで戻って、同じビルの2階に入っていたバーミヤンで夕食をとってから帰路につくことになった。

帰りの車で、もう一度「ukabubaku」を一からかける。家に着くまでに1周とちょっとかかった。車を駐めたとき、ちょうど「四月のカーテン」のサビが終わった。


セットリスト

1.4×4
2.始まりはいつも
3.ヨアケマエ
4.メタ
5.浮遊層
6.とおりゃんせ(アレンジ)
7.人間合格
8.名前のない鳥
9.ニュータウン
10.スピカ
11.PLAYER
12.かたはれ時に
13.もののけだもの
14.マッカメッカ
15.ミュージック
16.獏
17.ハイパーリアリスト
18.永すぎた春
19.発色
en1.チャイナタウン
en2.四月のカーテン

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