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妊活タラレバ娘【後編】

診察室に入り、まずは生理が来たこと(1周期めのクロミッドの成果が出なかったこと)を伝えた。

先生は基礎体温グラフを確認し、すぐに、わたしたちが聞きたかったことを話し始めた。夫と一緒に診察室に来たことで、察してくれたんだと思う。

「なかなか結果が出なくてご主人もヤキモキしているかもしれませんが、粛々と段階を追っていくことが、結局はいちばんの近道なんです。タイミング法5回、結果が出なければクロミッドの服用を5回。さらに結果が出なければ、人工授精5回。人工授精は妊娠率がそれほど高くないので、場合によっては5回行わないこともあります。それで妊娠しなければ、体外受精に進みます」と、いつもの柔らかな、かつ迷いのない口調で話す先生。
「治療というのは、検査で悪い部分を見つけて、それを治すということだけれど、不妊治療にかんしては、それが当てはまらないんです」とも言っていた。原因を突き止めてそれを治療したところで、妊娠に直結するとは限らないらしい。

さらには、不妊検査や治療の歴史(変遷)、海外の最新の論文では妊娠の条件を「排卵があり、精子に問題がなく、卵管に問題がないこと」の3点のみに定義しているという話(つまりこの3つ以外のことから、妊娠の優位性や不妊の原因などを特定することはできないという話)、なのでこの3点に問題がなければ、それ以上の原因を追求するよりも、結果を出すためのアクションに時間を使うほうが合理的なのだ、という話もしてくれた。

「淡々と、淡々と進めるんです。考えようによっては、クロミッドの服用だって5周期しかチャンスがないのですから」

先生はそうしめくくった。
ぐうの音も出ないというか、完全なる論破というか。

「ピックアップ障害だったらどうしよう」とか、「クロミッドは3回くらいにして不妊治療のスピードを上げれば、早く結果が出るかも」とか、雑談レベルでも甘えるすきがない。というか、甘える気になれない。
そう、この先生には無駄が一切ないんだった。タラレバは妊活にとって建設性がないから端折ります当然です、という前提。この先生の、そういうところに救われてきたんだった。わたしにとってのタラちゃんレバちゃん(東村アキコ先生「東京タラレバ娘」参照)は、この先生だったのか。

そして「クロミッドだって、5回しかチャンスがない」ということばに、わたしはけっこう説得された。5回もある、じゃなくて、5回しかないのか。
夫も先生の話を聞いて、なるほどそういうことなのかと清々しそうだった。

妊活中のメンタルのフォローは大切な課題だと、つくづく思う。
不妊治療の方針やクリニックの特色はさまざまだろうけど、わたしの場合は、優しさと合理性が特徴の、このクリニック(この先生)でよかった。

結局またそのオチかよという感じだが、わたしの妊活はこの先生ありきだということを、ことあるごとにさんざん実感している。
妊娠しないうちは基本的に、周期ごとに同じような気持ちの変化が繰り返されていくため、ときにはそれに耐える力が必要になってくる。

2周期めのクロミッドが終わり、今周期も山場だけど、山場感にのまれずに淡々と進めようと思う。

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