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あてもなくさまよい歩くということ




岩手県盛岡市・一ノ倉邸での個展「流浪」が幕を閉じた。

10日間にわたり開催していた個展には本当にたくさんの方々にご来場いただき、多くの人の言葉と気持ちを受け取った。
一人一人と交わした言葉が頭を駆け巡り、一つ一つの言葉に想いを馳せることにいっぱいいっぱい。

一度ねむり、
ふう〜と深呼吸をし、
少しだけ落ち着いたところで
個展のこと、それからここ最近の生活や心情の変化について振り返ってみようと思う。





今回の個展のテーマは「流浪(るろう)」
ネットで 流浪 と検索するとそこには「あてもなくさまよい歩くこと」と意味付けられている。


ある時この言葉に引き寄せられ、これって自分のことかも。と予感した。


というのも、ここ1〜2年を振り返ってみると、自分の意思を持たずに周りの環境の流れに乗っている感覚があった。

意識的にそうしていたわけではなかったが、自分の意思を持つということが本来歩けるはずのいくつもの道を閉ざし、目の前の道にしか足を踏み入れることができない、そんなことを感覚的に感じていたように思う。

そんな意識が漠然と自分の中に存在している影響か、生活の中でのあらゆる選択肢を目の前にするとこれまで見えなかった選択肢があらわれはじめ、自然と選ぶことのなかった選択肢へと足を伸ばしていた。

それを 好奇心 と言えばそれまでだが、自分にとり、正しいか正しくないかの2つの選択肢以外の意識を持つということが、ただただ心地良かったのだった。


その選択のひとつに、「仕事」があった。


普段会社勤めをしている私は、今年の春から週5日だった勤務を週3日に減らし、空いた時間には、畑仕事をする、絵を描く、人に会う、外に出る(山・旅・散歩)という時間にあてた。

2022年11月 北海道の旅で立ち寄ったレストラン・アウェーコにて
旅の記録として描かせてもらった風景の絵
2022年11月 知人や友人たちと食卓を囲む
2022年12月 鞍掛登山
今年から畑をはじめてみる。不耕起・無農薬・無肥料。
個展でも展示していたスケッチ
2023年7月 山形〜新潟〜福島〜宮城 5日間の旅で出逢った景色。
水温と気温の差で生じる川霧(かわぎり)という現象。
2023年7月 岩手県遠野市の渓流にて


もちろん収入は減ったが、外側と向き合う時間・内側と向き合う時間。この二つのバランスを変化させることに意味があった。

今まで依存していたものを手放し、これから依存していきたいものを取り入れる。

その先にどんな道があって、どんな人たちがいて、どんな光にたどり着くことができるだろう。

そんな風に、自然発生的に起こる事象を真正面から受け取り、そのつど目の前に現れた茂みや舗装されていない砂利道を歩いていくことが今の私にはちょうど良かった。


なにかを決めるという意識を手放すということ。


その惰性的とも言える感覚で過ごした日々は、私にさまざまな気づきを与えることとなった。
得られたもの、摂取されたもの、それらすべてに価値を感じるようになり、身の回りに存在しうるすべてのものたちに対する意識への変化が生まれた。

また、その変貌がそのつど私の手に乗り、絵として生まれ変わる現象がとても面白かった。

初めて額縁を手作りしてみた。家にあった廃材を組み合わせビスを打ち付ける。


私は自分から生まれる絵を「日記」と捉えている。
最初にイメージがあり、実物に起こし、出来上がったものを見てから自分の状態を知る。
健康診断とも近いかも、と感じることもある。

文字で起こすのが日記だとされるけれど、自分の場合はイメージに起こされている。

そしてそれは、文字には起こすことが困難であると、潜在的に判断したものが浮かび上がるように思う。それがさまざまなかたち・すがたに変容して現れるので、自分でも今の状態を知ることが難しいこともよくあるのだ。

文字で書く日記とは違って少し時差が生じてしまうので、誰かと共に絵を目の前にして考察しながら知ることもあったり、半年後に「こういうことだったのか」と一人でがってんすることも多々。

そんなわけで、自分で作った絵のはずなのに他人のことを知るという感覚に近いので、「この人おもしろい」と自分に対して思ったりもする。


自分はただの日記だと認識しているものが、他の人の心を動かしているということ。
その奇妙な感覚に驚きつつも、自分自身の心と見てくれた人との心が優しくハイタッチしたような気がして、またひとつ柔らかい感情を持ち合わせることができたように思う。

柔らかいもの、あればあるほど良いし、そのせいでもっと傷つくことが増えて欲しいとも願う。
傷つくことと優しくあることは表裏一体であり、強さと弱さもまた、鏡であることを改めて思う。

欲を言えばアンパンマンみたいになりたい。愛と勇気だけが友達ってなかなか言えないし。
(真面目とおふざけが半々というところ)


なにが言いたいかというと、
今回の個展は私の日記を披露する場所でありました。
年に一度会う同級生と語らうみたいな感じで、ここ最近の私はこんな感じ、というのを共有する場。
それをみなさんが楽しんでくれたのでなによりでした。

それに、今回会場を一ノ倉邸にしたことで作品と会場が良い形で溶け込んだと思います。

今年で築116年になるお屋敷・一ノ倉邸はあたたかい時期になると縁側の窓を開放するため、その自然の風を取り入れた展示にしたいなと思ってました。
紐を受け渡し、絵や詩を吊り下げる方法で展示すると、まるで彼ら(作品たち)が息をするように風で揺らめいていて、その姿に惚れ惚れとしてしまうほど素晴らしい展示となりました。

会場が畳ということもあり、座ったり寝っ転がったりして見てくれたり、ゆっくり座ってお話しできたり、まるで私の部屋にみなさんを招いたかのようなアットホームな空間で、リラックスして見てくれていることが伝わって、とっても嬉しかったです。

「また日記が見たいです」
という言葉をくれた人もたくさんいて、また次の日記展の開催も楽しみだな〜なんてわくわくしています。

とにもかくにも、一番はこんなに気にかけてくれる人がいたなんて…という驚きが大きく、抱えきれないほどの感謝の気持ちで満ち溢れております。

また、みなさんにお会いできることがとってもとっても楽しみ〜と心が踊っておりますので、たま〜に私のことを思い出してくれると嬉しいです。

(以下、個展会場の様子です)


さて、ひとまず動悸が落ち着いたところですこしこんなお話しをさせていただきました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

また、個展へお越しいただいた方々、気にかけてくださった方々には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
この度は、本当にありがとうございました。


それではまた、どこかで。

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