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2023年のわたし

 毎年のように、一年の締めくくりの記事を書いているので、今年も、大晦日のうちに、年末のあいさつがてらに。

 2023年は、生成AIの爆発的進歩の年でした。
 それは技術ニュースであって個人の話ではないと思われるでしょうが、実はおおいにありまして。3月に、大規模言語モデル(LLM)のLLaMAがmeta社から流出したあたりで、自分の想像していた未来像が完全に役に立たなくなったわけです。
 「未来がわからん」といったら商売あがったりになる仕事なので、SF作家にはわりとたいへんな一年でした。

LLMの能力よりも、莫大な予算がかかっていたはずのモデルが突然流出して、そこからオープンの流れが始まったことが、一番、SF的な現実

でした。
 「AIの時代が前年末に始まりました。翌年に3ヶ月も経たないうちに
速攻で流出して、それを起点にいきなりオープンが一般的になりました」とか、SFなら、日本では嬉々として書きそうなかたをひとりしか思いつかない流れです。「SF作家には考えつきそうにない現実」ではなかったので、野尻先生がいてくださってよかったです。

 未来が本当にわからなくなって、どうしたかというと、その後、必死で、大規模言語モデルとその影響を土台にして、もう一度未来ビジョンを組み直したのでした。
 だいたい、「まあこんな感じ」という、おぼろげなものを組み立てられたのは秋で、それまでは方向を定めるのがたいへんでした。

 来年は、個人的には、

  1. 原理からガバナンスの時代への移行

  2. LLMからLxMへの拡張。

  3. 記号設置と、現実世界の価値の獲得の両方を狙った、LLMを利用した自動運転車とドローンを含むロボットへの実装の一般化。

 あたりがくるのではないかなと思っています。

 1.原理からガバナンスへの移行は、一番確実にありそうだと思っているところです。
 AI化した社会がいかにあるべきかが、それが正しいかどうかから、実際的な運用の話に移行してゆくということですね。
 すでにEUとアメリカが、今年のサミットでのヒロシマAIプロセス以後に、AIガバナンスのおおまかなかたちを出してきています。与党内でも危機感があるようなので、日本も順当に行けば1月からの通常国会、遅くとも秋から召集される臨時国会では、出るでしょう。となると、日本社会で注視するべきAIガバナンスのおおまかなかたちが、来年に揃うことになります。
 一番厳しいEUですら、AI研究とAIベンチャーの起業はかなり目こぼしされていたり、進めることを前提にどう交通整理するかの話になっているので、現実的に使いかたをどうするかの話が来年からは相当増えるはずです。

 これから、他の社会ルールと同じく、シーソーのように、規制と推進で行ったり来たりしながらガバナンスの中身を争う時代が始まるということです。
 つまるところ、今の原理的な○○側、××側という陣取りから、各トピックに対して是々非々であることが当たり前になってゆくということだと思います。
 ただ、「一度動かして問題がデータとしてあがるのを見て、規制を的確に行うようつとめる」という順序になることは容易に予想できるので、最低でも数年間は、一時的に、推進する力が優勢になる時期がくると思います。(*)

(*)いわゆる効果的利他主義[EA]にもとずいて規制を考えるにも、データが必要なわけで。AIの社会のデータは、たぶん「これの類似を考えればよい」というものがすくないため、最初は一度、動かさないと適切な規制のためのデータをとることも厳しいと思います。

2.LLMからLxMへの拡張と、
3.記号接地と、現実世界にある価値の獲得の両方を狙って、LLMを制御に利用した(自動運転車とドローンを含む)ロボットへの実装が一般化する。

 は、わりとありそうな技術予測ですね。
 みんな書いてそうですし、深く突っ込まなくていいでしょう。

 2023年というと、個人的には、AIの爆発的進歩と状況変化のために、ちまちまやってきた未来予測をぜんぶ作り直しになったことが最大のトピックなので、すこし長めにスペースをとりました。
 10年どころか3年先もまるでわからなくなったという、まさに異常事態でした。 

 自分の仕事の話をしますと、今年は、いろんなことが後ろ倒しになってしまった一年でした。
 お待ちいただいている皆様には、本当に申し訳ありません!

 まず、5月に早川書房さんから刊行されたアンソロジー『AIとSF』に、「準備がいつまで経っても終わらない件」という短編を寄稿させていただきました。

 舞台が2025年の大阪関西万博の前夜なので、(近い時期なので現実をすこしでも盛り込もうと)3月のLLaMAの流出の頃まで原稿を書いていて、流出のニュースを見たとき、さすがに頭の中で叫びながら盛大にスプーンを投げたことを覚えています。

この短編については、noteにあとがき的なテキストを置いています。

https://note.com/satoshi_hase/n/nf5e6271dd333

 4月には、メフィストリーダーズクラブにショートストーリー『スリーピング』を掲載いただきました。

 この作品は、「嘘をついたのは、初めてだった」という、共通書き出しから始まる、(自分以外は)豪華作家陣のショートストーリーズで、11月に1冊の本としてまとまって刊行されています。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000375070

 5月には、5/22発売の小説現代6月号に、短編「月がきれい」を掲載いただきました。
 実は、一般小説誌に作品を掲載いただいたのは、はじめてでした。

https://www.fujisan.co.jp/product/1281679652/b/2392074/

 8月には第61回日本SF大会埼玉大会で、拙著『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』が、第54回星雲賞日本長編部門をいただきました。
 ありがとうございます!

https://www.sf-fan.gr.jp/awards/2023result.html

 実は、受賞といえば、『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』は、今年1月に第5回飯田賞をいただいているのでした。ありがとうございます。

https://x.com/hose_s/status/1616066583314718722?s=20

 そして、『SFが読みたい! 2023年度版』ベストSF2022国内篇2位をいただきました。
 星雲賞もですが、投票いただいた皆様、ありがとうございました! 

https://www.hayakawabooks.com/n/n7437d66304ad

 あとは、10月には、世界SF大会成都2023にご招待いただいたりしていました。

 とても楽しく、そして、中国と中国SFを見ることができたのは、本当によい経験でした。
 ご招待いただいた皆様、現地でお世話になった皆様、ありがとうございます。

 そして、ここからは反省会になります。

 さすがにもう完成だろうと思っていた早川書房さんのSF短編集が、出ませんでした。 
 本当にすみません!
 なんか、短編がどんどん長編になってゆくという、好調なんだか不調なんだかわからない状態で、収集がつかなくなっています。

 というのも、2022年の『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』も、この短編集に入れる予定の中編だったのです。
 これが、書いているうちに膨らんで長編になったため短編集には入らなくなり、昨年に長編が刊行されたものの、短編集は今年完成に予定順延になっていました。

 夏頃から、この『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』のかわりに短編集に入れていただく短編を書いていました。これに、もう一本、完全新作の中編をくわえて、短編集ができる予定でした。

 ここで、小説が伸びる症状です。
 この”かわりの短編”が、膨らんで中編になりました。
 編集者さんに見ていただいたところ、「さすがに短くしましょう」ということで、現状、ペンディングになっています。
 この短編と新作中編は、つながりのある同じ世界の話にしようと思っていました。なので、「短編の切り方は、新作中編の様子を見ながら考えさせてください」という話になったのです。

 そして、今は、必要にせまられて新作中編のほうを書いています。
 が、現状で、これが明らかに長編になる長さにまで膨らんでいます。

 つまり、短編集を書いていたはずなのに、長編が2本できて(2本目はどうなるか執筆途中のうえ未提出なのでわかりません)、短編集のほうはいつまで経っても完成していないというのが、ここ2年くらいの長谷です。

 オオカミ少年の感じもありますが、2024年こそ、なんとかする予定です。
 というのも、短編集に収録いただく予定の「準備がいつまで経っても終わらない件」が、2025年が舞台なんですよ。

 これ以上遅れると、SF小説なのに、舞台が、刊行年から見てすでに過去だという、冷や汗ものの状況が待っているので。
 たとえば、復刊でもないのに、2026年刊行の短編集で、2025年舞台のSFが載っているのは、さすがにまずいですよね。
 ……いや、気にしすぎかな。

 というわけで、今年もお世話になりました。
 来年もよろしくお願いします!

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