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いつもより少し長い本日の孤独のコーナー

先日、仕事で上司に嫌なことを言われた。
腹が立って腹が立って腹が立ってよっぽど帰ろうかと思ったが、この苛立ちやそもそもの発端が、自分の傲慢さや誇大した自尊心に起因しているのかもしれないので、その後は終業後にスロットを打つことだけを考えて、ただひたすら時間が過ぎるのを待った。

俺が好んで打つゴーゴージャグラーという台は、ボーナス確定時にGOGO!と書かれたパネルが「ぼぅわん」と光るだけの単純明快な機種だ。とにかく頭が燃え、血管という血管が破裂せんばかりの怒りに身を任せ、打つべし!打つべし!打つべし!

俺の財布から9000円がなくなったころ、程なくして1回目の「ぼぅわん」がやってきた。



俺が初めてスロットを打ったのは高校を卒業して、予備校に入ってからだった。予備校の喫煙所で知り合った仲間に連れられ、駅前の大型店に入った。それまでパチンコやスロットに興味もなかったが、ひとつの当たりに皆で一喜一憂するのはなんだか大型ビジョンでのスポーツ観戦のようで楽しかった。例に洩れず、ビギナーズラックというものがあったが、当時は漫画やCDを買う金を確保するのが1番だったので、のめり込むことはなかった。


俺は前述の予備校で、好きな人ができた。
まずは認知されようと、その子が出没するスポットに足繁く通い、偶然を装って同じ場に何度も居合わせた。こうやって文章にすると立派なストーキングボーイだが、なぜか運良くその子に認知され、たくさん話をして、どんどん親密になっていった。その子には彼氏がいたが、別れたりまたすぐ付き合ったりを繰り返していた。俺にもチャンスがあればいいなと、たくさんアプローチをして、より深い仲になっていった。


これはもう両想いに違いない。そのうち彼氏ともちゃんと別れて俺と付き合ってくれるはずだ…!と根拠のない自信を遺憾無く発揮していた頃に事件は起きた。


その彼氏は、勢いで撮った俺とその子のツーショットプリクラを発見し、怒り狂っているらしい。なんてこった。まぁ、なんとかなるだろうとたかを括っていたが、なんともならなかった。

その彼氏は、車高の低い白のエスティマに乗って俺の通う予備校まで殴り込みに来たのだ。

「お前、クリスだよな?」

(クリスというのは、予備校での俺のあだ名だった。発端となったプリクラにもしっかりとクリスと書いてあった)

「…え?あっ…えっと…あっ…」

と、初めて遭遇する所謂ヤンキーという属性の人間にテンパっていると、彼女はすかさず止めにはいった。
今にも殴りかかる勢いでこちらに迫るヤンキー。完全に目がイっちゃってる。他人の腕や歯を何本も折ったことのある人間の顔をしている。俺にはわかる。こんな顔のやつGTOにたくさん出てきてた。(ヤンキーや暴走的な俺のイメージはGTOで止まっていた。)


南無三!ここで俺も大学生になることなく志半ばで石狩川に流されるかと思われたが、彼女の熱い説得でヤンキーはその子を助手席に乗せて引き上げていった。車高の低い白のエスティマから出たけたたましいエンジン音の残響と、ケツからでた灰色の煙だけが予備校の玄関に残った。


初めてヤンキーと対峙した俺は、手足が震え、脇から背中にかけてかいたことのない種類の汗をかいていた。しばらく一人で予備校の入り口に立ちすくんだ後、何を思ったか俺はあの時みんなで入った駅前の大型パチンコ店へと向かっていた。おそらく一人ではいられなかったのと、ヤケクソな思いがあったんだろう。


台の横にある機械に1000円を無心で突っ込み、レバーを回す。するとすぐに、GOGO!と描かれたパネルが光り、大当たりが3連チャンした。こういう時に神様は味方してくれるもんだ。

こうして俺は、悲しい時や一人になりたくない時、パチンコ屋へと逃げ込むようになる。あの時のGOGO!というパネルの光が、俺の孤独の原体験となり、頭にこびり付いて離れないのだ。



そして、俺は2021年の今、8月にコツコツと貯めた金を9月の5日間で全て溶かした。もう口座には振り込み予定の家賃しか残っていない。

こうして俺はまた、孤独になったのだ。




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写真は、予備校当時の佐藤ミツルレッドです。


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