見出し画像

ビビりな私が英語が通じないイタリアの村で「推し活」する話

高校生の時から約十数年、私は一人の「推し」を追いかけ、旅を続けている。

何年もかけてイタリアのトスカーナの田舎の村や、ミラノ、フィレンツェ、フランスのロワール地方などを巡り、「推し」の足跡を辿って、追っかけをしてきた。
 
が、彼が生きた痕跡はイギリス、ロシア、ポーランドなど世界中に散らばっていて、まだまだ追いかけ切れていない。
 
私の「推し」はレオナルド・ダ・ヴィンチ

画像1

私は子どもの頃から美術が好きで、レオナルドの作品ももちろん大好きだ。
 
それが映画『ダヴィンチ・コード』の公開によって、絵だけじゃ足りない、彼のすべてを探求したい!と思い、彼の作品やゆかりの地を巡る、長い長い「聖地巡礼」が始まった。

英語が通じない場所での、思いがけないHELP


やはり「推し」の生まれた場所は外せない。

高校生の時からいつか絶対にレオナルドの故郷、イタリアのヴィンチ村の生家を訪れたいと公言し続け、「死ぬまでにしたい100のこと」にもバッチリ書いていた。

2018年の2月、ついにチャンスが訪れた。

私は2015年からベトナムのハノイで海外駐在員として働いており、旧正月のお休みを利用してミラノ〜フィレンツェを電車で巡ろうと決意した。

電車やバスなど公共交通機関を使う旅は大好き。

移りゆく景色を楽しめる、という点はもちろんだが、目的地まで正しい手段を考えて選択するというプロセスが、何となく旅慣れた感じがしてかっこいいかなと思う。

ヴィンチ村はイタリア中部トスカーナ州に位置し、フィレンツェからは電車とバスを乗り継いでいく。

電車やバスの旅が好き、と言いながらも、間違って全然違うところに行ってしまったらどうしようと、実は毎回相当ビビりながら乗車をしている。

大学2年生の時にイギリスでホームステイをしていた時、帰りのバスを間違えて持っている地図にも載っていない場所へ行ってしまったことがある。

当時スマホも普及していなく、途方に暮れてたところ近所の人に助けてもらい、ホストファミリーに迎えにきてもらう経験をしてから、海外のバスは特に苦手。

ヴィンチ村へ赴く当日、フィレンツェの玄関口、サンタ・マリア・ノヴェッラ駅には、朝早くから前日に買った国鉄のチケットを握りしめて、自分が乗る電車はどのホームから出発するのか表示されるのを緊張しながら掲示板を見つめる私の姿があった。

ようやくホームに滑り込んできた電車に安堵しつつ、まだこの電車が自分が乗るべき電車なのか不安で、ホームにいる駅員さんにチケットを見せてこの電車で間違いないかを確認して乗車した。

乗ってしまったらもう乗り換えはないので一安心。ちゃんと次の駅のアナウンスもしてくれる。
イタリア人の学生達に紛れて、フィレンツェの街並みから美しい田舎へ変わる風景を楽しんだ。

目的地のエンポリ駅で降車後、次はバスに乗るべく案内所で「ヴィンチ村に行きたい」と告げてバス停を教えてもらいバスの到着を待った。

海外のバスは日本のバスのように停留所名をコールしてくれない。

私は毎回必ず乗車時に運転手さんに降りたい場所を伝えて、降りる時になったら教えてほしいとお願いして乗車していた。

しかし今回は運転手さんの反応が薄い。

若干不安になりながら、地図アプリを起動させバスに揺られた。

ディズニー映画に出てきそうな山や森の中通ってるけど、ちゃんとヴィンチ村に向かってる、よしよし。

人通りも増えてきて、そろそろかなぁと周りを見渡しつつ、停車ボタンを押すか迷ってると、後ろから突然、

「ここで降りなさい」

と英語で声をかけられた。

びっくりして振り返ると後ろに座るアジア系の女性が「あなたが行きたいって言っていたところはここよ」と教えてくれたのだ。

どうやら運転手さんは英語がわかっていなかったらしい。
でも私がおそらく必死の形相で「ヴィンチ村に行きたい。降りるところを教えてほしい」と話しているのを聞いていてくれたのだ。

世界中から観光客が訪れるイタリアでも、英語が通じないことがあるのか!

何度も何度もお礼を言って、ようやく憧れの人の生まれ故郷、ヴィンチ村に降り立った。

推し活に優しい世界・トスカーナ


我が推し・レオナルドの家はヴィンチ村からさらに徒歩で30分ほどのアンキアーノという場所にある。

観光案内所でレオナルドの生家に行きたいと伝えると、地図を渡され、行くには歩くかタクシーと教えてもらった。
念のためタクシーはすぐに捕まるのか聞いたところ、首を横に振られてしまった。

歩くのは好きだ。
ただ私は壊滅的に地図が読めない。

日本で仕事している時も地図を見ているのに駅から出たらどっちに行けばいいのかわからず立ち往生したり、仕事先から帰る時に景色が左右反転したことによって迷うこともしばしば。

そんな自分がよくぞ海外一人旅に出て、毎度無事に帰ってこれてるなと思う。

でも海外の方が地図上の目印は見つけやすいと思う。ヨーロッパの場合、まずは教会を起点にすれば大体方角は掴める

ヴィンチ村の教会をスタート地点にし、いざアンキアーノへ。

フィレンツェから1時間ちょっとでこんな静かな場所に変わるんだなぁと景色を眺めながら、オリーブ畑を進む。

画像3

「私、レオナルドが子供の時に見てた景色眺めてるのかな、この道を歩いてフィレンツェを目指したのかな、ここスケッチしたのかな」

そう考えると、ドキドキが止まらなかった。

地図通り来てるし、時々木に矢印が括り付けられてるから正解の道を来ているはずだが、生来のびびりなのでドキドキしながら歩を進める。

前からおそらく地元のおじいさんが来て、「ボンジョルノ!」と挨拶してくれた。

海外に来たら絶対に挨拶は元気にしようと決めているので、私も「ボンジョルノ!!」と返した。

するとイタリア語でおそらく「レオナルドの家はあっちだよ。」と教えてくれた。

私は地図を指差して「合ってる!?」と思わず日本語で聞いてしまった。笑顔で「Si, Si!」と答えてくれたからもう信じるしかない。

さらに歩を進めると、急にオリーブ畑の道がひらけて、車も通れる大きな道に出た。

そしてついに、「CASA NATALE DI LEONARDO(レオナルドの生家)」の表札が現れた。

レオナルドの生家

来てしまった!私ついにここまで来てしまった!!高校生の時からずっと来たかった憧れの場所!

思わず「やったぁ!!」と声が出た。

ただ張り切って早く来すぎたのか、開館まで10分以上もあった。

しばらく周りをうろうろしたり、写真を撮ったりしていたら、中から二人女性が出てきて「寒いから入りなさい」と開館前にインフォメーションセンターの中に入れてくれた。

日本人であること、今29歳で高校生の時からこの場所に来たかった、やっと夢が叶ったと英語で話したら心底嬉しそうだった。

まだ開館前でお客さんもいないし、せっかく来たんだから家の前で写真を撮ってあげる!と記念撮影までしてくれた。

アンキアーノでの1枚

これでもまだ開館時間前だったが、特別に家の中に入れてくれた。

「万能の天才が生まれたところってこんなに小さい家なんだ…」

狭いなぁ、冬寒そうだなぁと思いつつ、自分が憧れに憧れた、500年前を生きた偉人が本当にいた場所に、自分が立っていることに何とも言えない興奮を味わいながら、たったふた部屋しかない小さな生家の中を何周もした。

家の外に出るとトスカーナの森の風景が広がる。

空気遠近法

遠くの景色になるにつれて、青みがかり、輪郭がぼやけ霞んでいく、まさにレオナルドの作品内で空気遠近法で描かれる自然そのままで、ここが彼の原点なんだとじわじわと感動が身体中に広がった。

楽しもう、イタリア人スピリット


元来た道を通ってヴィンチ村の中心に戻り、博物館や、レオナルドが洗礼を受けた教会を見学して回った。

帰りのバスのチケットを先に買っておこうと思いたち、コンビニのような売店で聞いたら、ここでも英語が通じない。

まさに身振り手振り、バス、チケットという単語だけを連呼。
バラエティ番組のようだった。

そのうち居合わせた他の地元のお客さん達も私が何を言わんとしているのかを、イタリア語であーでもない、こーでもないと推察して店内がカオスになった。

そのおかげで乗ろうと思っていたバスに乗り遅れ、さらに1時間待つことになった。

小さい喫茶店に入って、紅茶とマーマーレードのパイを頼んだ。
たくさん歩いた上に、言葉が通じない緊張感から解放された身に染み渡った。

お会計の時にお店の人に「旅はどう?」と聞かれた。

「最高!!」

笑顔でそう答えて帰りのバスに飛び乗った。

優しさに満ちた世界へ

画像7

私の旅は、たくさんの人に助けてもらってばかりの旅だ。

ひとり旅に出ると、人の小さな親切がものすごく有難く感じるのだ。

ヴィンチ村の英語が通じない売店でも、何だかんだみんな私を助けてくれようとしているんだと思うと、何言ってるか全然わからなくても、たとえバスに乗り遅れたとしてもとても嬉しかった。

行く先々でたくさんの人に助けてもらったから、自分も困った人がいたら同じことをしようと思える。

「旅」を通して、私は「人の優しさの本質」を身をもって学んできた。

2022年1月現在、自由に旅をするにはまだ厳しい世界だ。
未知のウイルスのおさまらない流行の拡大は、世界の分断と対立を、人々の孤独感を深めていった。

ひとりじゃない、必ず手を差し伸べてくれる人がいる

長い冬を乗り越えた先に、「旅」を通してまた人の心に春のような優しさと温かさがもたらされることを、私は心から願っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?