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もう二度と食べられないものをテーマにした本、『つぶれてしまった旨い店』。


15年以上も前のこと。上京3年目の私はDJとレコードのことばかり考えていて、やりたい仕事もなかったので日々クラブに入り浸っていた。渋谷のOrgan Barで出版業界の方たちと知り合い、若さと勢いと生意気な発言しか取り柄がなかった私を面白がっていただいたのが転機。雑誌の編集部に立ち入らせてもらった後に「私もライターになろう」と思い立ち、千駄ヶ谷にある編集プロダクションで働き始めた。

同編集プロダクションの仕事は主に街の情報誌、特にグルメ特集が頻繁だったので、都内の飲食店をとにかく取材しまくった。一日に4~5軒をカメラマンさんと周り、ラーメン特集の場合はラーメンばかりを食べては書き、カレー特集の場合はカレーばかりを食べては書く。「名店」と呼ばれるお店にも多数訪れたことから、私の舌は美味しいものに触れる喜びを知り、どんどん感度を上げていった。

ときどき、撮影用だからと味付けがされていない料理を提供されることもあって、そういう店の記事は食べたつもりで書くが何度も書き直しをさせられたものだ。食べないと書けないし、きちんと食べたら筆は進む。私にとっての書き仕事のはじまりは食であり、カナダに移住した現在も食にまつわる記事を書く機会を度々いただいてる。

そんな折に、食にまつわるエッセイを元同僚の編集者、土屋綾子さんからご依頼いただき、しかも本のテーマを聞いてすぐに「あの店のあの料理しかない」と、美味しかった思い出が頭の中で鮮明に蘇った。

「もう二度と食べられないもの」をテーマにした『つぶれてしまった旨い店』は、7人の著者による食にまつわるエッセイをまとめた本で、「常時腹ぺこの編集者」土屋綾子さんと平松るいさんから成る編集ユニット〈編集室マッチ〉による記念すべき一冊目だ。

西東京の狭くて入り組んだ路地、昭和の香りが残る90年代当時の鳥取県のデパートの屋上、プロしか入れない築地場内、名古屋にある入りにくい店構えの洋食屋……。カナダに移住した私にとって遠い国となった日本の風景描写が強烈で目がくらむ。そんな風景や、その時の心情とともに「二度と食べられない」料理についてが語られている。物理的な距離も相まってフラストレーションが爆発するかと思いきや、各筆者が思い出とともに綴る内容から心地よい疑似食体験にグッドトリップできて、もっと沢山の人たちの「もう食べられない」記憶を覗きたくなってしまった。さらに中村一般さんの挿絵が、筆者たちの記憶の中にある料理の夢を読者が見るためのガイド役を務めてくれている。

私が書いたのは「渋谷区神南のチャーリーハウス」。

2000年代の渋谷を泳いでいた過去の自分、2020年にカナダで暮らす現在の自分、2010年代に別の道を選んで2020年の渋谷を歩いていたかも知れない平行世界の自分。記憶の中にあるチャーリーハウスのラーメンとともに、思い出と妄想、過去と未来と夢の中までを行ったり来たりする書き方に挑戦してみた。

ネットショップでの販売が開始しているので、一緒に「食いてえ」を連発しましょう。

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■タイトル
『つぶれてしまった旨い店』

6/4(木)より下記で販売開始
https://matchbooks.stores.jp/


■販売価格
700円+税
送料:180円(スマートレターでのお送り)

■執筆陣(順不同)
梶谷いこ
稲田俊輔
山下武紘
佐藤 梢
平松るい
土屋綾子

■制作・編集
編集室マッチ(土屋綾子+平松るい)

■挿絵
中村一般

■帯文
伊藤ガビン

■装丁・組版
横田泰斗

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