2021年春アニメ展望

【追記】『さよなら私のクラマー』をオリジナルアニメだと思い込んで書いているのですが、実際は原作ありみたいです。すみませんでした。引きつけるタイトルの良さ、アニメでサッカーを描こうとする気概、本文にも書いたキャストへの期待があるので注目作なのは変わらないです。


こういうツイートをしました。

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このツイートをするために調べるまで競馬の予想記号もあやふやだったのにこんな書き方をしたのは勿論、ウマ娘にハマってしまったからです。

本題に入る前に書いておくとウマ娘は面白いです。ゲームもアニメも面白いわけですが、コンテンツとしてとても丁寧であることが安心して楽しめる面白さに繋がっていると感じます。

アニメ1期の放送時にウマ娘が受話器を人間の耳の位置でなく頭上の馬の耳に当てていることがちょっとした話題になりましたが、こういう細やかな丁寧さが全体に見られるのがウマ娘というコンテンツです。作品が持つ世界を深く想像し、そこに人々の記憶や経験に訴えかけることで現実世界に通じさせる説得力を付与し、作品に合わせてデフォルメして構成する。この工程の完成度がそのまま作品の面白さに繋がると思っていますが、丁寧でなければこのようなことはできないのです。

というわけで、ウマ娘の宣伝(?)も終わったところで本題、春アニメの展望です。と言っても、あくまで「僕が面白いと感じるかどうか」を予想するものなので、視聴作品を選ぶのに役立つとかそういうことは期待できないかもしれません。


まず本命は『ゾンビランドサガR』。せっかく予想記事を書いているのにアレですけど、2021年春はこの本命が強すぎて予想のし甲斐が無いクールになりそうです。2018年秋に放送された1期は「少女たちの生き様」というテーマを「ゾンビ」という題材で逆説的に強調し、佐賀県という実在の土地を舞台として描くことでテーマの普遍性をさらに強め、そしてハイテンションなギャグやアイドル描写によるデフォルメでエンターテインメントとして迸る勢いの中に高い完成度を両立させた作品でした。昨年までの3年間でこの1期を上回れたと言えそうな作品は『宇宙よりも遠い場所』『風が強く吹いている』『バビロン』くらいですし、春アニメで超えてくる作品が出るとは想像しにくいです。

『ミルキィホームズ』でも『邪神ちゃんドロップキック』でもシュールさが受けた作品が2期で狙いすぎて1期を超えられないといったことがあるので、恐れるべきはそのパターンくらいですが、『ゾンビランドサガ』のシュールはそれが本質ではなく前述のテーマを見せるための演出であり、前面に出しすぎて失敗する心配はほぼ無いと言って良いでしょう。

ここを上回るのは厳しそうですが、対抗は『バック・アロウ』。1月放送開始の作品で、春は2クール目になります。これまたシュールで馬鹿馬鹿しさのあり、合わない人には合わないだろうなと感じさせるエッジの効いた作品です。

この作品の最大の良さは王道のストーリー。シュールな部分が印象に残りやすいですが、「記憶も無く自分が何者か知らない主人公が自分を知りたいと強く望み、禁忌とされる壁の向こうを目指す」という物語の根本は王道の冒険譚そのもので、ここが作品の軸としてしっかりしています。そしてその旅の途中で様々な土地に立ち寄り、そこにいる多様な人々と時に衝突したり時に手を取り合ったりする展開は、思わず「これぞアニメ」と言いたくなるような、小学生の頃毎週ポケモンのアニメを楽しみにしていた頃を彷彿とさせるような楽しさがあります。春からの2クール目に向けて、見たことが無い人や序盤で切ってしまった人には是非とも見てもらいたいです。重厚な世界観をデフォルメするためのハイテンポとシュールが独特なので、やっぱり合わない人には合わないでしょうけど。

3番手評価は『スーパーカブ』。2期、2クール目と来ているので、新作の中ではトップの予想です。

ライトノベルが原作で、タイトルにもあるスーパーカブと出会った少女が成長していく姿を描いた作品、らしいです(基本的に新作は先入観を少なく楽しみたいのであまり調べません。予想記事とか書いてるのに)。

どの作品を3番手とするかは結構悩んだのですが、興味を引く題材の良さ、少女の成長を描くという普遍的な魅力を持ったストーリー、やたらキャラを増やすより3人のメインキャラにフォーカスしてくれそうな事前の印象、そしてウマ娘2期で初の元請けながらハイクオリティに作り上げてくれたスタジオKAIの制作ということで推すことにしました。ちょっと主役のキャストが未知数過ぎて怖いんですけどね。『くまみこ』や『三ツ星カラーズ』で魅力的な声を聴かせてくれた日岡なつみさんは楽しみです。

これらに続く作品として『シャドーハウス』『ダイナゼノン』『フルーツバスケット Final season』『さよなら私のクラマー』の4作品。

『シャドーハウス』は原作の評判が良いのと、冬クールは『ワンダーエッグ・プライオリティ』『約束のネバーランド2期』『ホリミヤ』と3作品を制作しながらいずれもハイクオリティな映像を見せてくれているCloverWorks制作ということで注目しています。結局前2作品は総集編を挟んでいるし、後ろ2作品はそこまで面白くないという部分はありますけど。

『ダイナゼノン』はゾンビランドサガ1期と同じ2018年秋に放送された『グリッドマン』の延長上にある作品といったところでしょうか。個人的には『グリッドマン』のラストがあまり好きではなく、あのラストのために物語を描いていたとすると『ゾンビランドサガ』との差はかなり大きいと感じてしまうのですが、ストーリーへの引き込み方と盛り上げ方という基礎がしっかりしていて、同年のアニメではトップレベルに面白かったのも事実。前作のラストがチラつく以上、以前ほど期待を膨らませて観るイメージは湧かないですが、1話か最終話に前作を超えるインパクトを用意できれば、春アニメで唯一『ゾンビランドサガR』を超えられる作品になるかもしれません。

『フルーツバスケット Final season』は昨年の時点で既に今年の年間ベストバウト候補と期待していた作品。1期も2期も名作の看板に偽りなしの面白さで、3期では完結まで描くのだから疑う要素はありません。2期までと同様に2クールのはずなので春クールの一番にはならないでしょうが、2位や3位になってもおかしくないだけの期待があります。

そしてもうひと作品で『さよなら私のクラマー』。『ゾンビランドサガR』も『バック・アロウ』も原作を持たないオリジナルアニメであり、『ダイナゼノン』も源流を辿れば特撮版『グリッドマン』に行き着くとはいえアニメのために再構成されたほぼオリジナルアニメと言えそうですが、「春の完全新作オリジナル」として最も注目しているのが『さよなら私のクラマー』です。

「形式はコンテンツをある程度規定し、コンテンツは形式を選ぶ」とは舞城王太郎氏が芥川賞に「短編集」という異例の形式でノミネートされた際にその選考を「棄権」した村上龍氏の言葉ですが、短編小説や中編小説と短編集の違い以上に、漫画、小説、アニメといったそれぞれの「形式」の違いは大きいはずです。例えば漫画という「コンテンツ」を最も面白く見せられるのは同じ漫画という「形式」であり、アニメの「形式」でも面白くしたいなら、それに合わせて「コンテンツ」の方を変質させなければいけません。これに成功する作品も多々ありますが、根本的にアニメの「形式」を最大化させうるのは、やはり「コンテンツ」として最初からそのために誂えたもの、すなわちオリジナルアニメなのです。

だから僕はオリジナルアニメの『さよなら私のクラマー』に粗筋もロクに確認しないうちから期待しています。それから黒沢ともよさんを起用していること。単純に彼女は若手声優の中でもトップレベルに演技が上手いからということもありますが、役者としてのバックボーンに恵まれ、舞台での活躍も目立つ彼女はそもそも演技の質が他の大多数と異なっています。ざっくり言えば、若手声優の多数派たる「アイドル声優的な」演技に対して「舞台女優的な」演技。演技そのものにコンテンツ的な魅力を持たせるより、演技によって世界を生み出すことに重きを置くと言いますか。他の若手声優だと諸星すみれさん、宮本侑芽さん、それから新人の相川奏多さんあたりがこのタイプでしょうか。

女の子に可愛い声を出してもらって「アイドル声優的な」演技を頑張らせる方が簡単に受けるのかもしれないですけど、その中で黒沢ともよさんを起用しようとする作品には何と言うか骨太な気概みたいなものを感じて応援したくなります。『あかねさす少女』『荒ぶる季節の乙女どもよ。』……気概がどれだけ面白さに結びつくかはまた別の話ですが。海外で賞を獲得した『アクダマドライブ』は面白かったですね。

『さよなら私のクラマー』について言えば、サッカーアニメということが不安要素でしょうか。『八月のシンデレラナイン』『球詠』といった作品を作画の壁で葬った野球以上に作画が大変そうですし。『電波教師』のサッカーの作画とかほんと酷かったですからね(あれはサッカーに限った話じゃない)。

最後に穴で『灼熱カバディ』。過去にカバディを描いたアニメは『ちおちゃんの通学路』しか思いつかなかったですが、カバディという題材だけでもう面白そうです。何もカバディのネタっぽさからそう言っているばかりでもなく、そもそも何かの「競技」に打ち込む姿を描いた作品は、その知名度や世間的評価に関わらず面白くなります。競技者が持つ熱量は普遍的な魅力を持っているし、それを描こうとするコンテンツの作り手にもまた熱がある。その熱は現実と虚構の間を伝播し、作品世界を心に刻みつけるだけの力があるのです。

『灼熱カバディ』が『風が強く吹いている』や『ウマ娘』のように「競技」の魅力を感情のドラマに重ね合わせる傑作になるか、『いわかける!』のように地味だけど良作となるか、『ライフル・イズ・ビューティフル』や『つうかあ』のように競技やってると面白いんだけどね……になるかは原作未読なのもあって未知数ですが、注目したいと思います。


挙げなかった作品だと、『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』は気になっています。タイトルから想像されるのは『恋は雨上がりのように』で描かれたような年の差の恋愛ですが果たして。どことなく『イエスタデイをうたって』に通じそうと言ったら大袈裟かもしれませんが、そういう静かだけれども深く感情が刺さるアニメになりそうな予感はあります。同時にタイトルから『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』みたいな痒みも感じますけど。

それから『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』も2期が放送されますね。クールのトップ5とかそういう作品ではないですが、1期は振り切ったサービスと意外にストレートな説得力のあるストーリーが面白かったので楽しみです。展開次第では結構上位に食い込むかもしれません。

『スライム倒して300年』も『波よ聞いてくれ』で素晴らしい演技を披露した杉山里穂さんが出演するとのことで注目しています。またもミナレのようなマシンガントークが見られるのか、それとも違った演技を楽しめるのか、期待が膨らみます。

最後に『焼くならマグカップも』。実在の土地を舞台に独特の題材を描く作品とあり上位予想しようかとも思ったのですが、どうやらアニメだけでなく実写パート込みの作品らしいので過度な期待はせず。実写と言っても『ギャルと恐竜』とはまた違うんでしょうけど、やっぱり「形式」が変わると斬新さはあっても「コンテンツ」として素直に楽しみにくくなる部分はあるかなと。田中美海さんや芹澤優さんたちのアイドル性は実写パートでも映えるでしょうけど、彼女たちは演技もしっかりしているだけに、実写部分は別で動画配信とかしてアニメはアニメとして骨のあるコンテンツを目指してほしかった気がします。マーケティングも絡む話だろうなあとか、なんだかんだ言って実写パート込みでハマるかもなあとか、そんなことも思いますが、それはまた春アニメを見てどこかに書けたらということで。

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