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石川慎吾の7年を振り返る

 巨人の石川慎吾外野手と千葉ロッテマリーンズの小沼健太投手のトレードが発表されました。手薄なリリーフを補強したい巨人と主力の故障で手薄になった外野を補強したいロッテの思惑が一致した王道のトレードと言えそうです。

 石川は2016年のオフに大田泰示公文克彦とのトレードで北海道日本ハムファイターズから吉川光夫と共に移籍した選手です。当時は23歳でしたが、今年で移籍7年目のシーズンを迎えて既に30歳となっています。

 正直ここ数年の石川は戦力外候補のイメージが強く、二軍で結果を残しても一軍で居場所を作れずフェードアウトしていった加治前竜一や隠善智也の系譜と思っていたので、彼をトレードで獲得する球団があったことは少し意外に感じました。

 そんな石川ですが、かつて彼に期待した場面も存在したような記憶があります。そこで巨人に移籍してからの彼を振り返り、期待の若手から戦力外候補となった印象の変遷を見てみたいと思います。

2017年
 移籍1年目。当時の巨人は直近5年のドラフトで指名した(育成ドラフトを除く)29人中17人が投手で、若手野手はほとんどいませんでした。そのためトレードで加入した石川や柿澤貴裕に大きな期待がかけられます。今思えば誰に期待してんだって話ですが、当時の巨人は阿部慎之助、村田修一、ケーシー・マギー、亀井善行、長野久義と野手の高齢化が進んでいて、当時の高橋由伸監督もなんとか若い戦力を台頭させようと中井大介に打席を与え続けるくらいの状況でした。高卒10年目で特別若いわけでもない中井が重用されるから同じ右打者で若い石川が期待された側面もあるのですが。

 野手の高齢化も影響してこの年の巨人は低迷します。特に5月下旬からは球団ワースト記録の13連敗がありました。

 その中で石川は気を吐きました。この13連敗の間に出場を続けた石川は、3試合連続マルチヒットを放つなど13試合中10試合でヒットを記録してチームの数少ない希望となっていました。さらに連敗脱出を決めた6月9日の試合では古巣の日本ハムから先制タイムリーを放って勝利に貢献しています。

 その後も6月25日の中日戦で田島慎二からサヨナラタイムリーを放つなどの活躍を見せ、この年は99試合に出場しました。日本ハム時代は5年間で一軍出場103試合でしたから、トレードによって得たチャンスを生かしたことになります。結果的にはこの年が巨人時代で最も出番を得たシーズンとなるのですが。

2017年一軍成績
99試合 打率.242(236-57) 5本塁打20打点2盗塁 OPS.668

2018年
 前年の活躍から飛躍が期待されましたが、アレックス・ゲレーロの加入や9年ぶりに規定打席に到達した亀井の復活もあり出番が激減しました。まあ冷静に考えてレフトかライトの選手がOPS.700を切るようでは厳しいでしょう。二軍では首位打者と最高出塁率のタイトルを獲得しますが、一軍では17試合の出場に終わりました。

2018年一軍成績
17試合 打率.192(26-5) 0本塁打0打点 OPS.558

2019年
 この年は原辰徳監督がチームに復帰し、多くの選手を競争させる方針もあって石川の出場機会が増加します。

 4月20日の阪神戦では吉村禎章コーチの推薦でスタメン起用され2年ぶりの本塁打を記録しました。

 この年はやたら阪神戦に強く、打率.474を記録したうえ本塁打もシーズンで放った4本のうち3本を放っています。

 そして唯一の阪神戦以外の本塁打が巨人時代最大の活躍と言える8月24日のDeNA戦でした。延長11回に代打で登場した石川はエドウィン・エスコバーからサヨナラホームランを放ったのです。

 打撃で局所的なアピールを見せ、この年はプロ入り以来初めてOPS.700を超えました。しかし守備走塁の弱さもあって出場機会は限定され、この年で26歳と若手感も薄れてきたため2017年ほどは期待されなくなってきました。

2019年一軍成績
55試合 打率.257(70-18) 4本塁打10打点 OPS.773

2020年
 この年はシーズン開幕が延期となりましたが、6月になってようやく迎えた開幕戦で阪神の岩崎から代打でヒットを記録しました。

 さらに6月28日のヤクルト戦では中澤から代打でスリーランを放ちます。この時点で石川の代打成績は5打数3安打。3安打はすべて左投手から記録しており、右の代打として存在感を示していました。

 それで原監督も矢野謙次の幻影が見えたかのように代打で重用するようになるのですが、得点圏打率.222とチャンスで活躍できません。さらに石川の難点は右投手への弱さで、この年は対戦打率.153に留まっています。そして相変わらず質の低い守備走塁。

 このあたりで石川は打撃が武器の割に打てる相手が限定されすぎていて打撃以外は計算できないので非常に使い勝手が悪いという印象を完全なものにしたように思います。

 さらに言えば、前年に加入したものの打率.148と不振だった中島宏之がこの年は打率.297で7本塁打を放つなど復活を果たし、かつて中島に向いていたヘイトが石川へ向けられた印象もあります。チームにはヘイト枠がいるもので、中井、中島と続いてきたものを石川が受け継いだかなと。かつては中井の代わりに石川使えって言ってたのになあ。

2020年一軍成績
43試合 打率.244(45-11) 2本塁打7打点 OPS.677

2021年
 もう信頼が薄れてきたので出場26試合と出番が減っていますが、打席数は前年とそれほど代わっていません。つまり代打中心だった前年と違ってスタメン起用が増えたことになります。というのも、この時期の巨人には右打ちの外野手がいなかったのです。外野手登録されていた選手のうち、右打者は石川以外に陽岱鋼と途中加入の助っ人スコット・ハイネマンのみです。

 加えてこの年のドラフトも投手偏重となり、右打ち外野手は補強できませんでした。そんなわけで全く活躍できなかったプロ10年目の石川は戦力外候補と見られながらも生き残ります。

2021年一軍成績
26試合 打率.189(37-7) 0本塁打0打点 OPS.512

2022年
 この年は32打席ながら3年ぶりにOPS.700を超えました。まあそのラインを少し超えたからどうしたって選手なんですけど。

 秋のドラフトで浅野翔吾萩尾匡也といった右打ちの外野手を獲得したことでいよいよ戦力外かと思いましたが、無事に生き残りに成功します。中井はプロ11年目で戦力外通告を受けているので、トレード移籍を経たとはいえ一応そこは超えたと言うこともできます。

 これは個人的な推測ですが、この年に石川が戦力外通告を受けなかったのは、新しく導入された現役ドラフト対策のためと思います。現役ドラフトは各球団ふたり以上の選手を出すこととなっており、巨人で他球団に移籍してもあまりデメリットがない選手と言えば戸根千明と石川でした。実際に戸根が現役ドラフトで移籍しており、石川も現役ドラフトの対象になっていた可能性は高いでしょう。

2022年一軍成績
22試合 打率.276(29-8) 0本塁打2打点 OPS.723

2023年
 前年までセンターを守っていた丸佳浩が右翼で起用されるようになり、若手の秋広優人も台頭。前年までわずかながらに存在した石川をスタメン起用する余地は失われました。

 代打にしても一軍にはアダム・ウォーカーがいて、中島、長野、松田宣浩とネームバリューあるベテランも揃っています。内野4ポジションを守る北村拓己や現役ドラフトで加入したオコエ瑠偉のような守備面での使い勝手はなく、萩尾や菊田拡和のように若くもありません。もはや現役ドラフトで指名されずチームに残ってしまった石川に居場所はありませんでした。

 結局トレードされるまで一軍の出番はなかったのですが、二軍で打率.358を記録する活躍を見せていたのは彼のえらいところと言えるように思います。一軍で出番が見込めないことは本人も察していたでしょうが、そこで腐らなかったことで外野が手薄になったロッテに移籍するチャンスを得られました。

 巨人へ移籍する際のトレード相手だった大田や現役ドラフトでDeNAから中日へ移籍した細川成也のように、環境が変わることで活躍する選手もいます。特に指名打者制のパ・リーグなら打力を発揮する機会が増えるかもしれません。二軍で成績を残した石川が移籍して活躍できれば今後の巨人二軍の選手たちのモチベーションにも好影響を与えられますし、せっかくなら活躍してほしいと思います。

総括
 そんなわけで石川が移籍してからの7シーズンを振り返りましたが、振り返った感想としてはなんで石川のためにこんな時間使ってんだろうと思いました。

 彼への印象の変遷を見ることが目的だったので年ごとの印象を一言でまとめてみます。

2017 期待の若手
2018 来年がんばれ
2019 エスコバーから打ってすごい
2020 矢野謙次になりそこねた
2021 右打ち外野手が少なすぎて生き残れた
2022 現役ドラフトで移籍しそこねた
2023 戦力外待ったなしの巨人から脱出成功

 成績で言えば2017年の時点で既にレフトかライトでレギュラーになるには打力の物足りなさがありましたが、2020年に序盤の活躍を持続させられなかったことで苦しくなってしまいました。そこで結果を残せていれば3年連続戦力外候補とはまた違っていた気がします。

 両翼や指名打者でフルシーズン出場するほどの打力があるかと言えばやはり厳しく、ロッテに移籍したから安泰というわけでもありません。しかし二軍で結果を残し続けた集中力が一軍で発揮されれば、今度こそ代打を中心に勝負強い活躍を見せる可能性はあるでしょう。

 6年前に13連敗の中で見た希望が幕張で花開くことを願っています。

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