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誰が主役か?映画『ジュリー&ジュリア』考察※ネタバレ有り

2009年に公開された映画『ジュリー&ジュリア』。
ニューヨークに夫と住んでいるジュリー。ある時ジュリーは、料理家ジュリア・チャイルドの524のレシピを1年ですべて作り、その様子をブログで発信する挑戦を始めました。
その実話を元に作られたのが本作です。
現代のジュリーと約50年前のジュリア、時代を超えて2人のエピソードを交互に挟みながら物語が進みます。性格も時代も違う2人が、同じように悩み乗り越えようとする、リンクするストーリー構成が見事な映画です!
そんな素敵な作品ですが、1つ気になる事が。それがジュリーとジュリアの対立です。なぜこんな対立が?本作はどちらを主人公としているのか?考察していきます。

【考察①】主役はジュリア

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画像出典:映画『ジュリー&ジュリア』公式Facebook

本作の主人公はジュリーとジュリア。しかし、本作の中心人物となっている主役はジュリアです。
エピソードの順番に注目してみてください。本作のオープニングは「ジュリア」の引っ越しシーンから始まり、最後は「ジュリア」のキッチンのシーンで締めくくられます。そう、本作は2人のエピソードが交互にあるのではなく、「ジュリア」の物語のあいだあいだに「ジュリー」のエピソードが挟まっている構成なのです。

【考察②】「完璧」なジュリア

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画像出典:映画『ジュリー&ジュリア』公式Facebook

ジュリアが「完璧」である理由のひとつは、「本作のジュリアはジュリーの想像」だからです。
ですが実際に小説の中の主人公のようにすごい人です。フランス料理のレシピをアメリカの一般家庭に広く広めた第一人者ジュリア・チャイルド。
戦略事務局(OSS)で多大な功績を残した女性です。そして結婚後は、料理に出会います。料理学校の校長に嫌われながらも、上級クラスを卒業してみせました。トラブルにも負けず、国を超えてレシピ本を完成させます。そして、出版社に「ダメだ」と言われても諦めませんでした。
料理の面以外でも、哀しい悔しい嫉妬の感情があっても相手を祝福し認めることができる人格者としての一面も描かれています。
まさにスーパーヒーローな完璧な人物です。普通だったらくじけて諦めてしまうようなことがあっても、ジュリアは立ち上がり続けました。
料理にも夫にも友人たちにも真剣で情熱的で前向きなジュリア。そんなジュリアを好きにならない人がいるでしょうか!

【考察③】「完璧じゃない」ジュリー

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画像出典:映画『ジュリー&ジュリア』公式Facebook

対して、ジュリーはどんな人物でしょうか?
ジュリアと同じく政府の職員です。ジュリーは電話の窓口で、市民の声を聞いています。しかし、ジュリアのようなプロフェッショナルとしては描かれていません。「感情的になるな」と言われているのに、電話口で怒ったり泣いたり……。ブログの話をしていて仕事に集中していなかったり、ブログのせいで仕事がおろそかになったり。
自分の一番の仕事を優先しない、さぼる、というのはジュリアが嫌うことです。「王道のフランス料理」の共同執筆者の1人ルイゼットがそんな人物で、あまり良い感情を持っていない描写がありました。

他にも、ジュリーの人との接し方。本作で描かれるジュリーは、ほとんどずっと自分の話ばかりです。夫と話していても、友人といても、友人たちを家に招いた時も。自分の仕事のこと、自分のブログのこと、自分の読んだ「ジュリアのゴシップ」のこと……果ては自分のトラブルを周りのせいにすることもありました。
自分のせいではないトラブルも「大丈夫」と明るく話す前向きなジュリアとは正反対です。ジュリアは嫌なことを話す時でも、最後は良い面を話して締めくくるのです。

ジュリーが「自分とジュリアには共通点がある」と話すセリフがありました。本作のストーリーも、ジュリアが料理をする時にジュリーも料理をし、ジュリアが落ち込む時にジュリーも落ち込み……と、リンクする構成になっています。
しかし、よくよく中身を見てみると2人が正反対であることが分かります。


【考察④】ジュリー=私たち

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画像出典:映画『ジュリー&ジュリア』公式Facebook

ではジュリーは悪役でしょうか?それも違います。ジュリーは私たちなのです。
「完璧」なジュリアに対して、ジュリーは欠点だらけ。
自分のことでいっぱいになる。誰もブログを見てくれないと、空虚な気持ちになる。有名になっていって有頂天になる。ゴシップを人と話す。ネットになんでも書きすぎてトラブルになる。市民の声を聞いて、思わず泣いて親身になる、素敵な人物と自分を重ねる。
なんだか他人事だと思えないと感じませんか?

ジュリアは物語の主人公として素敵です。しかし、素敵すぎて共感はあまりできないかもしれません。一方、ジュリーのことはとても身近に感じました。ジュリーのする失敗も感情も、まるで自分の事かのようにとても共感できます。本作におけるジュリーの役割は、私たち「観客」をこの物語の中に連れて行くことなのです!

【考察⑤】ジュリアはなぜジュリーを認めなかったのか

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画像出典:映画『ジュリー&ジュリア』公式Facebook

ジュリアはジュリーに対して良い感情は持っていないような発言がありました。それもそうでしょう。
本作を観て分かるように、ジュリアはこれまでの常識を変えるような挑戦をしています。偏見にも負けず、努力で周りを観返してきました。料理、学校の校長、執筆、出版社……どんなに打ちのめされても立ち上がります。そして出来上がったのが、その先50年経っても愛されるレシピ本です。

対して、ジュリーがやったことは、レシピ通りに料理を作ってブログを書くこと。作中で書かれているブログの内容も、料理のことよりも自分の話の方が多いように感じました。ジュリーにとっては大きな挑戦ですが、2人を比べると全然違います。

「大挑戦だ!」と言って有名になって……。ただ、ジュリアの功績の跡をなぞったにすぎないだけなのに。それはジュリアにとってはあまり愉快な話ではないでしょう。
そもそもジュリーは料理を真剣にやることが目的ではなく、料理をすることを踏み台にして作家になることが目的になっているよう。ジュリアがジュリーに「料理に対して真剣じゃない」と言ったのもこれが原因です。ジュリーは真面目に料理をやっていますが、料理よりもその先にあるブログや執筆の方に真剣。

ジュリーとジュリアの料理に対する姿勢も目指す場所も全然違います
分かり合えないのは仕方のないことなのではないでしょうか。

本作が「ジュリー=私たち」なのだとしたら、「人の功績をなぞって、それだけで同じ立場になったと思うな」という教訓や皮肉が、本作のメッセージのように感じます。

まとめ

映画『ジュリー&ジュリア』を考察しました。料理にしてもブログにしても、何かに挑戦しようと真剣になる2人の姿がとても魅力的です。

本作のメッセージは私にとっても耳の痛い話です。私も、苦労の末作られた映画作品を、安全な場所からああだこうだと喋っているにすぎません。そういった意味でもジュリーと自分を重ねてしまいました。
だから、その映画の悪い面ではなく、良い面を広められたら……と願っています。そして誰かが、この映画を観ようと思ってくれたら……。ジュリーがジュリアのことを大好きなのと同じように、私も映画が大好きです。例え、映画が私のことを嫌いでも……と、言い切れるほど私は強くないですが。でも、「ジュリアが私のことを好きでなくても、私はジュリアが大好き」と言い切れるジュリーに勇気がもらえます。

何かに真剣に取り組むすべての人のための映画です。

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