巨人と絆創膏

美味しいお酒になるかどうかは、誰と飲むかで決まってくると思う。
あの日、当時まだ彼氏だった夫と2人で近所の居酒屋へ行った。夜風が冷たい時期だった気がする。

彼は身長190センチ近くありガタイが良く、育ちが良いためか営業マンという仕事柄か、背筋がピンとしている。

その見た目からか酒豪に見られがちなのだが、全くお酒を飲まない。好きじゃないんだそうだ。
それなのに、酒呑み家系の私に付き合ってくれ、さらにグダグダに酔っ払っても呆れもせず、ぬ大きな背中を丸めてお世話をしてくれる。寛大という言葉はこの人の為にあると言っても過言ではない。

彼は、とても聞き上手である。仕事の愚痴や家族の話をウンウンと気持ちよく相槌を打ってくれるので、この日の私はつい調子に乗ってしまったのだろう。

お会計を済ませて外に出た瞬間、ずっこけた。

しかも、正座で。

そして面倒なことにとても酔っぱらっていた。そのままケタケタ笑いだした私。今思い返しても意味がわからない。馬鹿すぎる。
彼は慌てて車に乗せてくれ、車内で怪我の具合をみてくれた。やさしい。
タイツの膝のあたりが嫌な感じにベタっとした。案の定、両膝がひどく傷だらけになって血が出ていた。
大丈夫?!と聞かれたが、さほど痛くなかった気がする。それよりも、徐々に酔いが覚めてきていた。いい歳して(20代後半)酔って転んで両膝を擦りむくとかありえない。タイツに穴まであいとる。
これは流石の彼もドン引きしたことだろう。
大丈夫だよ、あはは私バカだねぇー!と返すので精一杯だった。帰宅後、自己嫌悪にさいなまれる。これは大きなマイナスだわ…嫌われてもおかしくないわ…。
その次の日。
会う予定はなく仕事終わりに家で寛いでいると、彼から連絡がきた。一瞬だけ会えない?すぐ帰るから、と。
玄関先で彼がくれたのは、薬局の袋に入った大判の絆創膏だった。それも何箱も。
何がいいのかわからなかったけど、よかったら使ってね。これだけ渡したかったから。
玄関先で母に上がるよう勧められたのを優しく断って、彼は本当にすぐ帰っていった。
しばらく絆創膏の箱から目が離せなかった。
迷惑かけたのは私なのに。
あんな酷い姿みせたのに。
仕事で疲労困憊なはずなのに。
この人のそばで呑むのは、きっと世界でいちばん幸せに違いない。
それから色々、本当に色々あったけれど、結婚した。
もう絶対転ばないぞ。

#ここで飲むしあわせ

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