新解釈・三國志 ~全力のスベリ芸?~

先日、金曜ロードショーで放映された映画作品についての感想記事である。妻が気になる、見たいと言っていたのもあり、自分も三國志好きの端くれとして見たいと思っていた作品である。公開当時は(以降、現在に至るまで)コロナウイルス感染症の拡大が問題となり、外出への自粛ムードが高く、映画館での視聴は断念せざるを得ない状況ではあった。しかし、当時のネットの評判はあまり芳しいものではなく、一抹の、いや一山の不安を抱えた状態で視聴に望むこととなった。

まずは作品について。タイトルにある通り、『新解釈・三國志』。2020年公開の作品である。監督は福田雄一。『勇者ヨシヒコ』シリーズや『今日から俺は!!』、『銀魂』などのギャグ作品を多く手掛けたコメディの鬼才である。主演・劉備役は大泉洋、その他にも福田作品でおなじみの豪華なキャストで製作されている。中国史でも特に人気の高い三國志を大胆に解釈した意欲作である。

まず、結論から言おう。好き嫌いは正直分かれる。賛否両論、否多めというのが私の見立てである。以前の私(戦国BASARAにブチ切れた)ならまず間違いなく封印指定をかける代物であろう。今の私はだいぶ心が穏やかになった(というかFGO沼にハマって鍛えられた)ので、「まあ、こういうのもあるよね」くらいで大根を握りつぶすくらいで済んだ。

主人公・劉備はやる気ゼロ、ヘタレ、面倒くさがりで酒を飲むと気が大きくなるタイプの人間。酒の勢いで言ったことから戦乱に巻き込まれていく、といった扱いだが、史実を考えると流石に無理がある。ほっとけない気質で人望が集まる(いわゆる劉邦タイプ)かもしれないが、少なくとも皇帝にはなれない。演義はともかく、史実の劉備は侠客の性質を持ち合わせており、都督を縛り付けて殴り飛ばすようなヤツである。
それに和をかけて問題なのは諸葛亮である。何しろ、この劉備がツッコミに回るのである。自称・天才軍師なのだが取り敢えず安請け合いして置きながら中身は空っぽ、妻の黄月英に知恵を出してもらう。ただ、個人的にはこれはアリだと思っている。諸葛亮は妻の頭脳明晰に惚れ込んだとも言われており、知恵袋の可能性はありうる。
その他のメンバーについてだが、常識人枠の関羽はイロモノ勢のせいで地味に。張飛は酒乱というネタ要素を全く活かせず関羽と同様モブ扱い。趙雲はなぜかイケメンナルシストと化し(そのせいで糜夫人死んでるし)ている。総評としては、劉備、諸葛亮、趙雲ファンはキレるし、関羽、張飛ファンは安堵しつつもがっかりする、というところであろう。
他勢力についてもイマイチ掘り下げが甘い。曹操が割と女に弱い(英雄共通の資質だが)のは別にまぁあんなもんかな、と思うし意外とヘイトは溜まりにくい。というかギャグにするならもっと悪の総統っぽくしても良いと思う(赤壁で話を終わらせるんならなおさら)。夏侯惇、荀彧も常識人枠のため地味に。というかその人選でいいのか。孫権がアホ、というのはまぁどうかと思うがこれも許容範囲内である(何しろ史実でも有能時と無能時の差が激しいし)。周瑜は小喬大好きで短期で挑発に乗せられやすい…まさかの大体史実通りのイロモノである。魯粛、黄蓋はいるだけ地味モブ枠である。
董卓、呂布は史実通り。

上記のように挙げると意図的に歪められすぎたキャラクターと、個性を活かしきれずモブに埋もれたキャラクターの差が激しい。ストーリーもかいつまみ過ぎて展開が早すぎる。そもそも「赤壁の戦い」単独ですら1本の映画の予定が5時間になり2本になったのだ。あの壮大なストーリーを2時間で語るのには相当な技量が要求される。そして何より問題なのがギャグが人を選ぶつまらなさである。身内ネタのような、なんとも言えないギャグセンスには苦笑するしかなかった。福田氏はむしろスベリ芸を狙っているのではないか、とも考えたくらいである。

評価点も少なくはない。曲がりなりにも三國志前半のクライマックスである赤壁の戦いまでを一連の解説を交えつつ分かりやすく構成した点は少なくとも三國志入門者に一定の理解を与えることに寄与していると思われる。霊帝以降の権力争いや袁紹と曹操との戦い、荊州問題などの面倒な話をあえて捨てることで曹操と劉備・孫権という対立軸を明確化している。また、不必要とも思われる地味モブの存在も、赤壁を語る上で決して外せない黄蓋を残したままという点に三國志への愛がみられる。

結果的に作品としては不完全燃焼になってしまったが、これについては尺の問題と思われる。あえて一作で無理に前半全てをやるのではなく、赤壁の戦い前後に的を絞り、「長坂坡」や「三顧の礼」などのエピソードは回想の形で挟む、という扱いにする。そして曹操をもうちょっと悪役ムーブ(だけどどこか憎めない)なキャラ付けにすれば、続編に期待が持てたであろうし、キャラクターの掘り下げももう少しできたのではないだろうか。

結論としては「劉備、諸葛亮、趙雲のファンはキレる。福田作品のファンならそれなりに楽しめるかもしれない。三國志ファンは寛大な心で見るべきで、初心者がここから三國志の世界に入ってくる可能性は低い」といったところではないでしょうか。

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