渡辺綱捕物帖 ~Epilogue~

※このnoteの内容は、『Fate/Gramd Order』のイベント『聖杯怪盗天草四郎』内のネタバレを含みます。また、Pixivでのほんちゅ(https://www.pixiv.net/users/58519)様のイラストシリーズ『Profile:1.27』から着想を得た妄想小説であり、前作「渡辺綱捕物帖~FGOイベ妄想~」の続編(というかエピローグ)になります。先方から指摘があった場合、予告なく削除する場合がございます。ご了承ください。


渡辺は一人、スーツケースを引きながら空港へ向かう。あの後、林梓雨を名乗るブローカーは確保され、正倉院から盗み出された御物も概ね回収できた。ただし、あの盗まれた聖杯の行方だけは杳として知れなかった。
その後の館長への聞き取りで判明したことだが、どうやらあの聖杯もどこかから盗まれたものであったらしい。館長はそれを知りつつ、故買を行った。元より、真作の多くは所在が掴めているものだ。新規に手に入るものなど限られている。それでもあの館長は「英雄の真実」に拘った。それ故、悪事と知りつつ手を染めた。今後、彼のコレクションの一部は元の持ち主に返され、残りもまた手放さざるを得ないだろう。

聖杯。あの時、渡辺の心に迷いはなかった。なかった、はずだった。しかし、どうしても。かつての出来事が頭をよぎる。炎、少女、血。ゆらぐ。
加えて、あの時、あの男からは悪意を感じなかった。むしろ、善意だけがあった。それ故ためらった。
そのゆらぎを見透かすかのように、怪盗は斬られた、そして斬られなかった。

解決した自分の事件と、解決されなかったもう一つの事件。渡辺は静かに、考えにふけっていた。だが、それほど深く潜るがゆえに、違和感にも気づく。
「何のようだ。」振り向かずに、尋ねる。
「あ~らら、気づかれちゃいました?」軽薄な声に振り返れば、背広姿の男が一人。先刻、あの美術館に居た用心棒。腰に二刀をぶら下げながら、自身をサラリーマンと言っていた男である。
「二度も撒かれてんですよ?」
「いや、一度は自分から離れただろう。そして、二度目に撒かれた後に、ここにいるのはおかしいんだよ。」
「…へえ、人払い、か。」
そう。いくら夕方とは言え、欧州の大通りである。渡辺と男、それ以外に人影一つないなど、おかしな話なのである。男を撒いた後、渡辺は人払いの術を使っている。それを突破してここにいるのだ。
「ただのサラリーマンでは、ないだろう。」言いながら、刀に手をかける。同時に、男も二刀に、そう、両手で一刀ずつ、手をかける。そのままにらみ合う。緊張が流れる。だが、
「まぁいい。用があるのだろう。」
馬鹿馬鹿しくなり、渡辺は手を離す。
「良いんですかい?相手の前で構えないなんて。」
「そんな殺気もない構えをしている奴にかかずらうだけ無駄だろう。」
「ですか。」男もふっと、力を抜く。そして、懐から手帳を出す。
「一応、こういうものなんで。ご挨拶を、と。」
手帳には桜の紋章。ただし、その周りに更に五芒星があるように見える。一般人には見えない、魔術刻印。
「五課の人間か。」
警視庁五課。渡辺同様、魔術事案に対応する警視庁の秘密部署だ。おそらく、例の美術館の案件で内偵を行っていたのであろう。
「ま、そういうことです。んで、渡辺さんに一言。またいずれ、お会いすると思います。何しろ。」
一瞬で男は間合いを詰め渡辺の耳元に達する。いや違う。気づかない内に、話しながら懐に踏み込まれた。そして、続きの言葉、
「同じ聖杯を、探していると思いますので。」

「待て!」振り向くが、既に男はかき消えるように居なくなっていた。
「同じ、聖杯、か。」
渡辺は小さく呟くと、再び歩き出す。そう、こんなところで立ち止まっているわけには行かない。あの事件の犯人を、捕まえなければ。


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