河野家四国統一記 第6話【完】

 一条房基、死す。その早馬を、通直は湯築城の馬場で聞いた。嘘であろう、と思った。房基はまだ20台である。病死するような様子もないし、今は三好家との戦の後、態勢を整える時期で戦もない。しかし、続報が入るに従って、通直も事実を受け入れざるを得なかった。
 房基は、鷹狩の最中を襲われたらしい。近習5人も共に惨殺されていたという。不思議だったのは、房基の刀には明らかな応戦の傷があったにも関わらず、現場に襲撃者と思しき死体はなかったという。明らかに骨を切ったと思われる刃こぼれ、脂の巻いた脇差。先に斃された近習たちの刀を使ったのだろう。折れた刀も、房基の近くに転がっていたという。
 房基は中条流の手ほどきを受けた剣の達人だ。それ程の反撃をして、一人の死人も出さずにいた訳がない。それが無い、というのならば恐らく敵に片付けられたのだ。その正体を隠匿するために。おそらく、そうしたことに慣れている集団だ。
 そこまで考えて、通直は瞠目する。かくなる上は、房基に託された夢-四国統一を成し遂げるほかは無い。通直は、家臣たちを大広間に集めた。

 意外にも、房基の死を最も悲しんだのは、彼の股肱の臣だった土居宗珊を除けば、忽那通著だった。どうやら、細川攻めの後に仲良くなった矢先の出来事だったらしい。他のものも一様に暗い表情である。家臣達の前で、通直は宣言する。
「房基の死は痛手だ。彼の想いも共に、私は戦う。長宗我部家を倒し、四国を統一する!」
今回は三好義賢に阿波南部の奪還を指示し、中村城を起点に朝倉城を経由し、全軍で西側から進軍した。家臣に加わった本山茂宗が本山城を、そして三好義賢が阿波・桑野城を回復した。本軍は全軍をもって岡豊城を包囲。香宗城・安芸城からの援軍は幼い君主・兼定を盛り立てる宗珊ら一条家旧臣らが抑え、義賢・十河存春の水軍がその隙に乗じて二城を陥れると大勢は決した。天文22年11月、長宗我部国親は通直に降伏した。

湯築城の大広間で通直は国親に面会した。彫りの深い顔には歳よりも遥かに多くの皺が刻まれている。一度は一族を殺され、一条家の庇護下で失地を回復した苦労人。その着物は白。合わせを丁寧に左前にしている。死を覚悟した姿である。
「斬れ。新右衛門と嫡男の弥三郎も連れてきている。ただ、他の子らは仏門に入れることで許してほしい。」
国親は堂々とした態度である。その清々しいまでの態度に、心が動かぬ通直ではない。もとより、殺すつもりなど無いのだ。
「某は、国親殿に遺恨があったわけではない。多くのものが力を貸してくれた故に、こうしておりますが天運が変われば立場は逆だったと思う。」
通直は国親を見据えながら続ける。
「故に、東土佐の統治を引き続き国親殿にお願いしたい。それと…当主が急死した一条家を支えてほしい。恩返しのようなものだと思ってな。」
「…」
「一条家を立て直せるのはお主しかおらん。頼む。」
長い沈黙の後…国親はこれを受け入れた。両家が今後も相争うことが無いよう、通直は娘を国親の嫡子・元親と縁組させた。
かくして、四国統一は成った。

夕暮れの青海波の間に訪れたのは土居宗珊であった。通直は、彼を招き入れると人払いをした。
「…わかったのか。」
「少しですが。どうやら、房基様を襲った者共は闇の者と思われます。」
予想通りであった。やはり、並々ならぬものでなければ房基を討ち取れない。
「誰の命令かは、わかったか。」
「そこまでは。ただ、恐らく御側衆か、柳生一族かと。」
「…」
通直は、顔をしかめる。柳生一族は南北朝の世から続くという、大和の隠れ里に住む剣豪集団だ。当然、剣術以外の暗闘にも慣れている。これに手を借りた、となれば細川・三好の復讐、ということになる。しかし、もう一方も問題だった。
 御側衆。つまり、帝や公家の身辺警護にあたる組織だ。かねてより独立した動きをする土佐一条家を一条本家が警戒している、という知らせは入っていた。しかし、暗殺という強硬手段に訴えるとは、通直も宗珊も予想していない。

「…上洛するしか、ないか。」
通直は夕日が沈む瀬戸内海を眺めながら、つぶやく。房基の仇を取る。それが、彼にできる精一杯の事であった。

九州では、古くから誼を通じてきた大友家が島津家によって追い上げられている。毛利家は大内家と同盟を組み、尼子家討伐を目指しているが、大内家の政変後、密かに何かを策謀しているという噂もある。三好の一党は四国から撤退したとは言え、淡路島から捲土重来の機を伺っている。遥か東国では北条家、織田家という新興勢力がそれぞれ武田家、今川家を滅ぼす下剋上が起きているという。
麻のごとく乱れた天下。四国統一の先に見えた、新たな目標。通直の戦いは、次の局面を迎えた。

ということで、11年かかってようやっと四国を統一することが出来ました。正直、4大名(河野、一条、長宗我部、三好)の中で初期だと最弱なんですよね河野家。一条房基と土居宗珊のコンビの活躍で三好を四国からは追い出せたんですけど、支配領域の割に武将が増えない。さらに房基の寿命が来て大変でしたが、なんとか元親に代替わりする前に統一できました。ひとまずこれで完結としますが、今後外伝でその後の流れを書くかもしれません。

正直、このゲーム実況の全盛に文章でのリプレイ記なんか流行らないと思います。かつて私がとっても好きなリプレイ記を書いていたサイトさんも10年ほど前にサイトを畳んでしまいました。

でも、ゲームの解説だけだとどこまで言っても「ゲーム」だなぁ、という感情が湧いてしまいます。そこに生きる武将たちのドラマ、ドタバタを文章で表現する「リプレイ記」というのは「ゲーム実況」とは違う枠で存続してほしい。そう思うのです。(もちろん編集を使って紙芝居を入れたりされている方もいて、そういった方のはとても面白いと思っています。)
初めてで拙い作品でしたが、なんとか完結できました。FacebookのCEO・マーク・ザッカーバーグの言葉ですが、「完璧を目指すよりまず終わらせろ」というのがあります。今まで自分は色々なところで書き散らしては来たのですが、正直完結できていませんでした。これから色々やってみようと思っています。遅筆ですが、お付き合いいただければと思います。

最後になりますが、このような駄文に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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