【大河ドラマ連動企画 第15話】どうする元綱(朽木元綱)

前回の盛り上がりから一転、ナレーションで終了してしまった金ケ崎の戦い。激戦にも関わらず秀吉も家康も無傷なのは嘘くさい…と思っていたら秀吉がメタりだす。ちょっとほっこりパートが挟まったかと思えば、また姉川の戦いでは同盟相手に問鉄砲(実弾)をかますやべー主従とか浅井からの調略とかに尺を取りつつ肝心の戦闘シーンは全カット。今年の演出、脚本は合戦シーンを書くのが苦手なのだろうか。アラブの石油王は金をばらまいて調略を始めるし、虎松は女装して襲撃…。最後に浜松の命名まで瀬名にやらせて瀬名ロスの準備だけは着々と進めている模様。情報量のバランスも視聴者の情緒もめちゃくちゃである。あ、浜松城はやっぱりいつもの間取りでした(笑)。ええ加減城のセットに個性をつけろ、あほたわけ。

ということで今回も新キャラは登場せず(虎松たんは出てきたが)なので史実にのっとって金ケ崎の裏で活躍した人物を取り上げようと思う。朽木元綱。フライングで登場の関ケ原裏切り四銃士である。
※関ヶ原裏切り四銃士…関ヶ原の戦いで小早川秀秋に便乗裏切りをかました4人の大名。脇坂安治、朽木元綱、小川祐忠、赤座直保。いずれ全員扱いたい。

朽木氏

朽木氏は近江源氏佐々木氏の分家の一つである。近江源氏の宗家として栄えた佐々木氏は多くの名門の家柄を輩出する。近江で言えば六角氏、京極氏、高島氏などがこれに当たる。特に京極氏は室町幕府において侍所長官を多く務めた四つの名門の家柄「四職」の一つに数えられる。
(ちなみに四職は京極氏・山名氏・赤松氏・一色氏である。「京の山は赤一色」で覚えるとよい。)
朽木氏は佐々木氏の祖・秀義の曾孫・高信が起こした高島氏からの分家で高信の孫・朽木義綱から始まる。(ちなみに読みは「くつき」であり、某漫画に登場する名門「くちき」氏とはおそらく何の関係もない。)
高島郡の朽木荘を領有したことが名前の由来であるが、この朽木荘は山間にあり、朽木谷と呼ばれることもある。高島氏の有力家臣として高島七党に数えられた朽木氏は室町時代には足利氏の側近として室町幕府の政権運営に大いに活躍する。元綱の曽祖父・材秀の代には永正の錯乱で京を追われた足利義澄を、祖父・稙綱の代には政変で京を脱出した足利義晴・義輝親子を保護するなど、京からほど近く、また北陸への脱出経路となる朽木谷は足利将軍家の避難壕としての役割を果たしていた。

朽木元綱 波乱の前半生、決断の時

足利義晴を保護したことに加え、敵対勢力との戦いも激化し、元綱の父・晴綱は天文19年(1550年)に33歳の若さで戦死。元綱はわずか2歳で朽木谷の主となる。その3年後には第13代将軍となった足利義輝を再度朽木谷で保護する(『麒麟がくる』でも描かれた)がこの時はわずか5歳であり、保護を決定したのも朽木家の重臣たちであろう。君臣共に幕府への忠節が篤い。
六角氏への従属から独立し戦国大名化を試みる浅井氏への従属と離反を繰り返す国人衆的な動きを見せながらなんとか命脈を保っていた朽木元綱に転機が訪れるのは元亀元年(1570年)。朝倉氏討伐に向かった織田信長の軍勢が浅井氏の造反を受け、窮地に陥る。美濃への撤退路は浅井氏に塞がれ、琵琶湖西岸が唯一の退路となっていた。朽木元綱は松永久秀の説得を受け、信長の護衛を担当。朽木越と呼ばれる撤退を支援し信長は窮地を脱した。

再びの決断の時

信長の最大の危機の一つを救ったのにも関わらず、残念ながら信長からの評価は芳しくなかったようである。元綱は信長の麾下として浅井氏の旧臣・磯野員昌の配下となるが、員昌は追放、その後津田信澄の配下となるが、後に罷免されている。ただし、ここで信澄の配下のままだった場合、本能寺の変直後の混乱で信澄と共に誅殺されてしまうと思うので人生何がどう転ぶかはわからない。琵琶湖西岸、元室町幕府関係者という立場にも関わらず明智光秀にはつかず本能寺の変を生き延びると豊臣秀吉に仕え、本領安堵を勝ち取っている。しかし、彼に再びの決断の時が訪れる。
秀吉の死去に伴う関ヶ原の戦いである。当初、西軍に属していた元綱だったが、同じ近江出身の藤堂高虎により説得され離反を決意。本戦では小早川秀秋の寝返りに同調して西軍・大谷吉継の陣に攻めかかり、壊滅に追い込む。
徳川家康からの覚えはよろしくなく、2万石あった所領を9550石に減封された…と伝わるが、この減封分は豊臣家の蔵入地(直轄領)であり、彼自身の所領は安堵されたとする説もあり、改易と比べると穏当な処分となったといえよう。ここで改易を受けなかったのはやはり、朽木谷で時流にうまく乗り続ける決断のノウハウが継承されたと考えてよいだろう。その後、朽木谷で隠居生活を楽しんだ元綱は寛永9年(1632年)に84歳で大往生を遂げる。死後、3人の息子に領地を分割相続したため宗家は6300石あまりとなったが、時流にのるノウハウが分家に継承されていたのか、分家筋が家光に気に入られ大名に取り立てられ主家より石高が高くなるという面白い事態になる。そのまま無事に両家とも幕末まで家名を保つことに成功する。

歴史を動かす何気ない人々にフォーカスを当てる、というコンセプトがあるらしい本作だが、武士に関しては逆にメジャーどころしか出てこない。だが、こうした地方の小さな領主にも決断の瞬間は何度となく押し寄せる。成功したものもあれば、失敗したものもある。そうしたドラマで描かれない「決断」をこのシリーズの登場人物から感じていただけると幸いである。

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