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影山多栄子《1》|月光菓子ケーキセット

 都会の街で、屋根裏部屋に暮らす若く貧しい画家の青年。でも、子どもの頃からの友達である月が、世界中で見た光景を夜ごとに語ってくれるから孤独ではありません。ディケンズとも深い親交のあった作家アンデルセンが紡いだ『絵のない絵本』は、そんな美しく不思議な物語。

 第七夜、月が自然に囲まれた石の塚を見下ろしていると、たくさんの人が通りかかります。しかし、本当にその美しさを理解しているのは貧しく祈りに満ちた少女だけでした。

わたしの光は、暁の光が女の子のひたいにキスをするまで、この子の後について行きました!

アンデルセン『絵のない絵本』(青空文庫)より

 第九夜、月はグリーンランドに光を伸ばし、人と自然の営みを見守っていました。尽きる命のそばで、動物たちはその生を煌めかせています。

北極光の冠が、もえさかっていました。その光の輪は広くて、光の線は渦巻く火柱のように大空ぜんたいにひろがって、緑と紅とにきらめいていました。

同前より

 第八夜、雲に覆われた空に月は姿を見せてくれません。しかし、月ははるか昔から世界を優しく見つめていました。

そうです、月にとって話せないようなことが何かあるでしょうか! この世界の生活は、月にとっては一つのおとぎばなしなのです。

同前より

 アンデルセンの「絵のない絵本」は月がみてきた世界のお話がひとつひとつ美しく並べられ、私たちの前に置かれます。それはショーケースに並ぶ色とりどりのお菓子を目の前にした時のような、ときめき。儚い、けれども確かにそこにある煌めきのよう。

 今回この作品をテーマに選んだのは昨年末《最終幕~菫色の小部屋》展にて初めて熊谷めぐみ様とお目にかかった時、ディケンズとアンデルセンについて少しお伺いしたことが切っ掛けとなっています。接点があるとは思ってもみなかった2人には、実はとても面白い交流があったと知り、この時代が更に生き生きと身近に感じられ、お茶の香りや食器のふれあう音、明るい会話が聞こえるような気がしたのでした。

 「絵のない絵本」のそれぞれの夜をケーキのような人形として制作した、以下の3点です。今回は親しげな柔らかさが欲しくて、素材は布が中心となりました。首にジョイントが入っているので、2つの顔をもつ頭はぐるりと動かすことができます。

 この第七夜は森の樹々、鳥たち、巨人の墓、色を変えていく空、祈る少女などのイメージ。 瞳を閉じているお顔は少女、反対側はお月さまでしょうか。

わたしの光は、暁の光が女の子のひたいにキスをするまで、この子の後について行きました!

アンデルセン『絵のない絵本』(青空文庫)より

 氷河と深くどこまでも広がる海、オーロラの空、イヌイットの舞踏、あざらし達などを思い浮かべながら。丸く黒い目はイヌイットの子供やアザラシを。裏側は月の顔のように。

北極光の冠が、もえさかっていました。その光の輪は広くて、光の線は渦巻く火柱のように大空ぜんたいにひろがって、緑と紅とにきらめいていました。

同前より

 姿のみえない夜にも、月は何処かにいて、人間には及びも付かないほど長い長い時間を旅している。それを舟に乗っているお月さまとして作りました。かたちを変え、消えたり現われたりする、黒と白の回転する頭を持っています。

そうです、月にとって話せないようなことが何かあるでしょうか! この世界の生活は、月にとっては一つのおとぎばなしなのです。

同前より

 月に照らされた大地と海原、生き物たちの機微を何層にも重ねてこしらえた空想の創作人形菓子です。どうぞゆっくりと見つめ、ふれて、味わってみてください。

影山多栄子|人形作家 →Blog  

山吉由利子(球体関節人形)、宮崎優人(市松人形)に人形制作を学ぶ。石粉粘土と布を中心に様々な素材を使い、ひとりひとり違うお話を感じさせるような可愛らしさと不思議さを持った人形作りを心がけています。[個展]2003年 「うきわ」ギャラリー古桑庵、2004年 「まくら」ギャラリーNonc Platz。以後数年おきに個展を開催。ほか企画展、グループ展など多数。2007年創作人形専門誌「Doll Forum Japan 49号」表紙掲載。2018年 作品集「遠くをみている」発行。

熊谷めぐみ|ヴィクトリア朝文学研究者 →Blog
子供の頃『名探偵コナン』からシャーロック・ホームズにたどり着き、大学でチャールズ・ディケンズの『互いの友』と運命の出会い。ヴィクトリア朝文学を中心としたイギリス文学の面白さに魅了される。会社員を経て大学院へ進み、現在はディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。モーヴ街5番地、チャールズ・ディケンズ&ヴィクトリア朝文化研究室「サティス荘」の管理人の一人。
Twitter|@lond_me



作家名|影山多栄子
作品名|月光菓子 第七夜

リネン・ミニチュアファー・ポリエステル綿・ビーズなど・布えのぐ着彩
首にジョイント入り
作品サイズ|H15cm × W8cm × D8cm 
制作年|2024年(新作)

作家名|影山多栄子
作品名|月光菓子 第九夜

リネン・ミニチュアファー・ポリエステル綿・ビーズなど・布えのぐ着彩
首にジョイント入り
作品サイズ|H15.5cm × W8.5cm × D8.5cm 
制作年|2024年(新作)

作家名|影山多栄子
作品名|月光菓子 第八夜

リネン・ショートウール・ポリエステル綿・ビーズ・ヴィンテージボタンなど・布えのぐ着彩
首にジョイント入り
作品サイズ| H10cm × W12cm × D4cm
制作年|2024年(新作)

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