【オーケストラを書く】音楽、どうやって作ってんの?vol.2

という話のおいしいところは世間でさんざんされてるので置いておきます。
学生時代の専攻はジャズサックス、ジャズセオリーとビッグバンドライティングから作編曲の世界に飛び込んで、いつの間にか作編曲家が本業になり今はいわゆる普通の諸ポピュラーミュージックを作りながらオーケストラや合唱も書くという雑多な音楽活動をしている身で語るべきテーマはコレでしょう。

『オーケストラコンサートにリズムセクションを組み込む』

セオリーもメソッドも無い領分の話なので、経験と独自研究の塊みたいな文章になると思います。
こんな事考えたやつもいたんだな、程度に読んでください。

1.知っておきたいこと

これは書き手だけじゃなくてそういうシチュエーションで演奏する人たち(オケもリズムセクションも双方)、ステージ周りを整えてくれるスタッフさんたちも”こうあってくれたら”と思うこと。
異文化コミュニケーションすることになるので、相手の文化を知る努力をすること。そこまでできないことも多々あると思うので、知らずに素っ頓狂なことを言ってしまう覚悟をすること、言われても「ウチのシマじゃこう」と突っぱねず真摯に向き合うこと、間違ってもバカにしたりしないこと。
コレめっちゃ重要です。
できないならクラシカルな編成を固持し続けたほうがいい音楽できると思います。

オーケストラは音が小さい

オーケストラが気持ちよくプレイできる音量とバンドマンが気持ちよくプレイできる音量は1.7倍くらい差があります(当社調べ
ロック畑とジャズ畑でも結構違います。
その認識差とオーケストラをやったことがない人の一般的な認識「壮大な音楽やってるんだからさぞ音がでかいんだろう」が組み合わさってしまうと大事故が起きます。
コンダクター・オーケストラプレイヤーは「バンドマンって音量落とすの大変なんだな」といたわってあげてください。
バンドマンは「いうてみんなアンプラグドだもんね」といたわってあげてください。

ちなみに、しばしばバンドマンは「ツマミ下げるだけで音量下がるんで~」なんて冗談っぽく言いますけど、入出力下げれば挙動が不安定になるのは電気機器の宿命なのであんまり真に受けないでください。彼らは彼らなりに腕前でそのへん補ってるんです。

コンダクターに知っておいてほしいこと

リズムセクションを組み込んだ以上、ドラマーとコンダクターのテンポ決定権は同程度だと考えてください。
テンポに関してのみ言えば彼らは普段指揮者と同じ仕事を彼らのフィールドでやっています。
同業だと尊重し、よく話をし、信頼関係を築くことを強くおすすめします。
とはいえオーケストラを演るわけですから、その上でイニシアチブはコンダクターがとり、その責任でことと次第によってはテンポチェンジをドラマーに任せるという選択ができる関係性が良いでしょう。
そうなれればほぼ”勝ち確”です。ステージの上に優秀な副指揮を得るような安心感が得られるでしょう。

ドラマーに知っておいてほしいこと

オーケストラは基本的に指揮者→コンサートマスター→各首席→各団員と指示系統が整えられています。
あの人数ですからね、いちいちバンドのようにディスカッションしながら進めていっては時間がいくらあっても足りません。
リハ中の発言は少なめに、かつ効果的な言葉選びができると最高です。

選択できるのであれば、小口径のキットの使用をおすすめします。
オーケストラはさほど音量が大きくないのもそうですが、コンサートホールで演奏する以上常時ローカット・ゲート処理なしのリバーブがかかりっぱなしになります。
胴鳴りの厳ついキットを持ち込むととんでもなく音量落としたプレイをするとかミュートマシマシするとかアクリル立てるとかすることになるので、多分気持ちよくないです。
シンバル類もそんな感じで整えていくと、パーカションプレイヤーたちが出してくる超リッチなワンショットサウンドとのコンビネーションも楽しいよ、と思います。

ギタリスト・ベーシストに知っておいてほしいこと

大体ひな壇の上で弾くことになると思うんですけど、ひな壇は設営・バラシがしやすいように中が空洞になってます。足元にバカデカイ空洞があります。
めっちゃローが回るのでコンクリートブロック等インシュレーションの用意をしておくといいです。はこうまじゃあんまり意味ないです。
オーケストラのステマネさんはそういう世話をしてくれる方なので、相談してみましょう。事情をご理解いただければいい感じにしてくれると思います。
アンプ、キャビについても音量落としたときに挙動が不安定にならないようなものがおすすめです。先述の通り音量大きくないので。

電源の確保も重要です。
オーケストラは電気を使わない演奏形態なので、現場に基本的な機材がなかったりします。これもステマネさんご相談案件です。
また、ホールによってはステージ中央に奈落があるんですけど、それの昇降機のインバータが床面すぐ下にあって、その真上に電源系を引き回しちゃってめちゃくちゃノイズが出るみたいな状況もたまに出会います。

あと、重要なことなんですけど、楽譜におたまじゃくしが並んでてもびっくりしないでください(懇願

ピアニスト・キーボーディストに知っておいてほしいこと

アンプについてはギタリストベーシストと同様です。
制作陣次第ではあるんですけど、あんまりバッキングしっぱなしって状況はないと思います。
ことと次第によってはほとんどクラシックのピアニストみたいなプレイになることも視野に入れていただけると驚かなくて済むと思います。

ステージ配置的に他の3人とめちゃくちゃ遠くなることがほとんどなので、モニター環境などステマネさんPAさんとよく相談しましょう。
PAなしだったらもうどうしようもないので・・・無事切り抜けられることをお祈りします・・・

ステージマネージャーに知っておいてほしいこと

上記のとおりです。
諸問題の解決、ステマネさんの腕にほとんどかかってます。
お取り計らいよろしくお願いいたします(五体投地

2.PAについて

個人の意見の範疇を出ないのですが、プロデューサーがオーケストラにリズムセクションを組み込むと決めた時点でPAも組み込むのが理想だと思います。
マイク適当に数本立ててお茶を濁すやつじゃなくて、64chとかあるようなコンソール持ち込んで譜面台の数だけマイク立てるみたいなバチバチのやつです。
コレができれば1.のようなことはあんまり気にしなくていいですね。双方ストレスフリーに演奏できるでしょう。
ハープ音量問題とかも解決できるし現代に至るまでに主流でなくなってしまった対向配置をまた採用する意義とかも出てくるしでワンチャンあるんだけどなーなどと思ってます。

とはいえあくまで技術的な理想のお話。まずそもそもお高かったり、PA使わずやるのがオーケストラプレイヤーの矜持であるみたいな価値観も理解できます。そうなったらプレイヤー・アレンジャー/オーケストレーター・ステージマネージャーの腕に頼りましょう。

3.編曲について

やっと我々アレンジャーの領分に来ました。前置きが長くてすいません・・・
PAは無いと思って書きます。
今回はリズムセクションの話なので他のセクションの話は最小限にします。

心構え

まずそもそもなんですけど常にリズムセクションを使わないアレンジを念頭においてください。
いやわかります、リズムセクション組み込む話ししてるんですよね、わかります。ちゃんと説明します。

作ってるのはオーケストラのコンサートです。ポピュラー音楽のライブじゃありません。
リズムセクションをガッチリ決めてその上にオーケストラを乗せるサウンドメイクも無いわけじゃないですがそれは後者です。水○奈々さんのライブとかそんな感じで作ってますよね。あれめっちゃかっこいいですよね。
そんなわけでリズムセクションを取り払う場面が挿入されても違和感ないバランス感覚(オーケストラサウンドにリズムセクションが埋め込まれているような)でいるのがよいです。

アレンジャーが陥りがちな問題を紹介

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すごくよくある失敗例です。
打ち込み音源耳コピするとだいたいこんな感じで音並んでるのでとりあえずそのとおりに書くとこうなりますね。

重要なことなんですが耳コピしてそのまま書くとだいたい失敗します

とはいえ「原曲準拠でお願いします」とか「リズムセクション使っていただいて大丈夫です」とかキラキラした目で担当さんに言われちゃうとよーしおじさんがんばっちゃうぞーみたいなキモチになっちゃってその結果こうなりがちです(自戒

まずドラマーはこんな感想を持つでしょう。
「ppのツインペダル/ツーバスは基本的にできない。努力はするしできる人はいるかもしれないけど・・・」
個人的にはトランペットにppでHigh-F書いて「フルートとユニゾンだから泣ける感じでよろしく」って言うくらい難しいと思ってます。

次にギタリスト。
「パワーコードがほしいことはわかった。けどこう刻んでもあんまりサウンドしない・・・できなくはないけど・・・あとコード書いてくれ」
ドカドカやってるところの歪みギターって意外と白玉でジャーンってやってたりパームミュートでザクザク刻んでたりするんです。

次ベーシスト。
「なんかボワボワすんな~・・・まぁホールでツーバス踏んでるし仕方ない・・・えっコントラバスとチェロもおんなじことやってんの?マジで?あとコード書いてくれ」
立ち上がりの差が致命的なもたつきを産むんですね。
ドラマーがキックを小口径なモノ持ち込んで対応してくれてたらまだいくらかなんとかなるんですけど、それでも低域過多です。

なんやかんやで整えてシェイプアップすると

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こんな感じが落第しないんじゃないですかね。
ドラムはクレッシェンドしやすいよくやるフレーズに置き換え。ツーバスのとこのスネアの位置は8分裏でもいいかなぁ。
ギターは「いーかんじによろしくおねがいします」。
2ndとVlaは1stにオープンでいー感じに追従して刻んじゃいましょうね。
チェロが2オクターブ下でユニゾンしてるのは趣味です。ボワ付きも軽減できます。
コントラバスはあえて音数へらして拍子感出す方に集中してもらいましょう。ボワ付きも軽減できます。状況次第ではオクターブ上でもいいですよ。

ここにホルンの白玉で奥行き出して、木管合奏もフルートでおかず入れつついー感じにかぶせて、クレッシェンドを金管とパーカッションでいーかんじにアシストする”いつものオーケストレーション”をしたらあっという間にリズムセクションとのコンビネーションが気持ちいいフルオケの出来上がりです。ここまで来ちゃえば合唱付きも余裕です。

画像3

ちなみにこんな事もできます。リズムセクションを取り払うような場面を挿入しました。
ツーバスがバッサリされ改変度合いが大きいので、2周目やるみたいなときに便利ですね。
うまくスキマを作っていければ本来のオーケストラサウンドとオーケストラ-リズムセクションのコンビネーションサウンドの対比も作れます。おいしいですね。

4.そんな楽器の都合わからんわ!

いやもうそのとおりでして。
楽器法だけ勉強してもクラシック音楽の文脈を理解していなければオーケストラが書けないように、リズムセクションの楽器都合だけ理解してもポピュラーミュージックの文脈(今回の譜例はメタル系の文脈です)を理解していなければここまで挙げてきた判断は難しいと思います。
普段からポピュラーを追いかけてるオケ書きってかなりレアキャラだと思うんですよね。その上コピーして楽器用法まで理解してるとなると輪をかけて。
なのでとにかく聴くことをおすすめします。そろそろグラミー賞がにぎやかになる時期ですから、ノミネート作品なんかは聴いてみたら損しないと思いますよ。
韓国初のノミネートBTSとかいい音出してますよ。最多ノミネートのBeyonceもいいですね。2016年に主要部門を独占したBruno Marsのアルバム3枚はマストだと思います。
Amazon musicのジャンルごとのランキングTOP100を上から全部聴いてしまうというのもかなり即効性のあるトレーニングだと思うのでおすすめです。自分も月イチくらいでやります。

5.まとめ

ツラツラと書いてきましたがオーケストラにリズムセクションを組み込む試みがうまくいくかというのは編曲どうこうの話の前に、アレンジャーも含めて全員が異文化コミュニケーションをする準備があるかにかかっているところがあります。
その際に起きるであろう齟齬をうまーいこと汲み取って翻訳して意思の疎通がしやすいように配慮し楽譜に落とし込んでいくのがいいアレンジャーなんじゃないかなって思います。

アレンジャーって本来”手配師”って意味ですからね。手配していきましょ。

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