旧D郡役所殺人事件
198x年、世はバブル景気の前夜。雪のちらつく年の瀬、東北のF県D市。JR東北本線D駅のホームに、よれよれのセルの着物に袴姿の男があらわれた。
袴姿の男は金田一耕助。彼は、友人の風間からの依頼でこの地に降り立ったのだった。
F県D市はかつての近隣のD郡にあった六つの町、D町・K町・Y町・H町・R町・T町が、合併してできたF県の北側に位置する都市である。
”とにかくD市へ向かって欲しい。そこに迎えの者がいるはずだから“
風間からそう言われた金田一はそれ以外の一切、具体的な内容を聞かされずにやって来たのである。
昼下がりのD駅に降り立ったのは金田一ひとりきり。辺りを見回してみても迎えの者の姿は見えない。
「さて困ったものだ…。とりあえず、街中を逍遥してみようか。」
風間から十分な前金を預かっていたため金田一はさほどの焦りも感じないで、ふらふらと町中を徘徊しはじめた。
D駅から西の方角には山があった。東北とはいえ南に位置するF県の冬山には雪の白地がちらちらと見えるほかに杉の木の色を残していた。
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