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笹岡秀旭という人生最初で最後の推しに出会った話

これは私がPRODUCE 101 JAPAN SEASON 2 (以下日プ2)で笹岡秀旭(ささおか・ひであき)くんに出会ったという、それだけの話です。以下かなりの長文になりますが、よろしければおつき合いください。

(2022/04/23 追記あり)

人生最初の推しとの出会い以前

人生最後の推しになるかどうかは可能性は限りなく高いものの正直わからないところもあるけれども、最初の推しであることは間違いない。

ここで自分語りを少し。

私にとって音楽とはハマるというよりは聴くもので、これを言っては年代がかなりわかるが若い頃はいわゆる「渋谷系」の音楽が好きだった。BGMのように何かをしながら聴くか、流行っている歌はカラオケで歌ったり周囲の話題に乗り遅れないように聴いておく、まあそのようなものだった。

何事においてもそれほどに熱中するものがなく、そこそこ淡白な性格なので、誰かにどハマりするということもなく、コンサートに行くことも誰かの付き添いなどがほとんどで、数えるほどしかない。CDを買う、それだけが私の購買行動。誰かの記事が載ってるから雑誌を買うなんてことがあれば、それは余程なことだった。

それでもダンスを18年間続けていたので、アイドルのダンスを見るのは好きだった。ガールズグループを好んで見ていて、オーディション番組も好きである。TWICEならモモ、IZ*ONEならチェヨン、NiziUならマユカが好きだ。スキルが高く、仲間からの信頼が厚く、あまり目立つことなく、人一倍努力する人が好きなのだ。

ただしオーディション番組をリアルタイムで見ることは全くと言ってなかった。何故なら、自分が少しでも気になっていた子が途中で落ちた時、その涙に耐えられないだろうという気持ちがあるからである。結果が完全にわかってから、答え合わせというような形でしか見られない。それだって推しでもなんでもない誰かが落ちたら次の朝に目が腫れ上がるくらいビャービャーと泣くのだ。オーディション番組は私にとって楽しくもあり辛くもあるエンターテイメントだった。

そんな私なので、当然日プ2もリアルタイムで追いかけようなどという気持ちはさらさらなかった。ただし、今までと生活状況が変化したこととして、完全リモートワークが始まった、ということが大きい。会社とは違い自分の自宅なので、まとまった休憩時間が取れるようになった(私は社畜のワーママなので出社時の休憩時間はほぼないに等しかった)。休憩時間にYouTubeを見るのが楽しみの一つとなり、よく見ていた番組の一つがダンス解説の「ARATA DANCE SCHOOL」だった。

そこで日プ2の注目練習生として、木村柾哉くんや田島将吾くん、西洸人くん、テコエ勇聖くんなどの名前を知った。オンタクト評価のダンスを見にいくと確かに名前を挙げられるだけあって、皆しっかりとしたダンスをしている。ARATAさんのダンス解説はたまに放送に合わせてリアクションなども撮っているので、これは推しを決めずにリアルタイムで見ておくと楽しいかもしれないなと思った。女の子の涙には耐えられないが、男の子だったら大丈夫かもしれない、とも思った(根拠なし)。もう本放送が始まる直前になってしまうが、60人の名前だけでも知っておこうと思い、私にとっては運命の「レギュラー配信事前予習SP」を見ることになるのである。

アイドルぽくない男の子

日プ2の「事前予習SP」では、事前にアンケートなどを取っていたのか、練習生同士が投票しあった「歌が気になる練習生」「ダンスが気になる練習生」「ラップが気になる練習生」などがそれぞれ3位ずつ挙げられていた。私のような初心者にはなかなかありがたい番組である。

本人映像と共に、その子を推している練習生がその魅力についてコメントするのだが、皆当然カメラの前でコメントなどすることなかった子たちばかりなので、言葉の一つ一つが初々しく愛らしい。それでも皆よく話せているなと感心した。リモートワークの休憩中、昼食の準備をしながら横目で見ていると、低く穏やかな語り口が耳に飛び込んできて、それがあまりにもアイドルオーディション番組に似つかわしくなく、思わず画面を二度見した。

それが私の人生最初で最後の推しになると知らずに。

画面を見て更に固まった。彼の風貌にである。およそアイドルオーディションに出ている男の子とは思えないような、素朴で誠実そうな姿がそこにはあった。ノーセットに近いような髪型、一重で真面目そうな顔、極め付けは私がのちに「笹シャツ」と勝手に名付けてこよなく愛している白黒ストライプのシャツと、インナーの黒Tシャツである。アイドルの候補生として媒体に出るにしては、あまりにも無防備な姿に思えた。年頃の男の子らしくもう少し、格好つけるとか自分を引き立てるとか、そういうことは考えなかったのだろうかといささか心配にもなった。

画面はそれからオンタクトの結果発表に移り、その衝撃のままその日の休憩時間を終えようとしていた。合否発表の時点では彼の名前まではチェックをしていなかったが、番組内でコメントをしているくらいだからきっと60人に残っているのだろう。後ろ髪を引かれるようにしてその日は仕事に戻った。まだ仕事に普通に戻れるくらいに、彼にのめり込んでいなかった。

独特すぎて話してみたい練習生

次の日の休憩時間、白黒ストライプの男の子のことがどうしても気になり、昨日の続きから「事前予習SP」を再生した。

番組はそこから「ファッションが気になる練習生」「ビジュアルが気になる練習生」などが続き、残念ながら昨日の白黒シャツの彼は登場しないであろうことが容易に予測できた。お洒落な子はお洒落な子に注目し、ビジュアルが強い子は同じくビジュアルが強い子に注目するのである。彼はそのどちらにも属さないことが昨日のインタビューで既に見て取れた。

後半になると「キャラが良すぎて話してみたい」など内面の話が出てきて、もしかしたらまた期待できるような流れになってきた。しかしなかなか出てこない。出てこないまま「独特すぎて話してみたい練習生」のコーナーになった。

ここで初めて「猗窩座」に出会うのである。

「素晴らしい提案をしよう。お前も笹岡秀旭に投票しないか」

鬼滅の刃は私も好きで、猗窩座のこのセリフも当然知っていたが、サングラスを加工して青い目をリアルで再現するというトリッキーさに面食らった。と同時に、この子はなかなかの戦略家だなと思った。ダンスや歌はともかくとして、101人分の1分PRなんて、全員分見ている人の方が稀なんじゃないかと思う。サムネイルで猗窩座の格好が出てきたら間違いなく印象に残る。さらに声がいい。ホワホワした声で猗窩座の真似をしたら鬼滅ファンからお叱りを受けてしまうかもしれないが、彼の低音且つスッキリと通る声での猗窩座はなかなかの説得力があった。

この声は、と思った。彼の名前をまだ覚えてなかったので、笹岡秀旭と言われてもピンとこなかったのだが、この声は聞き覚えがある。趣味は作曲、MacBookを使っているところも同じくMacBookを使用している社会人にとってはなかなかの高ポイントである。この作曲している彼は前髪ふんわりでアヒル口、とっても可愛らしい顔をしているのだが、次の本人コメントタイムで「あっ」と声が出た。

白黒シャツの君じゃないか。

君の名前は「笹岡秀旭」っていうのか。

他の子を褒めている時はスラスラと雄弁に喋っているのに、自分のこととなると急に間が空いたりつっかえたりしているのがなんだか可笑しかった。あの猗窩座、きっと相当練習したんだろうな。聞けば1分PRで使用した曲も「本家様に似せて僕が作った」らしい。本家様に似せて、というワードチョイスがいいなと思った。

笹岡くん、君きっと、すごいいい子だよね。覚えておこう。

ちなみにこのコーナーで笹岡についてコメントをしている村松健太くんと小林大悟くんは、後に「笹松」「笹林」と呼ばれ、国プ(特にツイ廃界隈)ではそこそこ有名な愛されケミとなる。

笹岡秀旭に感電する

この時点で私はまだ彼の1分PRとインタビューしか見ておらず、肝心のダンスと歌のどちらもみていなかった。ダンス歴の長かった自分としてはまずダンスを見てみたかった。

ダンスはおそらく初心者なんだろうということは分かったが、要所要所で初心者らしからぬディテールが出てきたりして、ダンスの勘はあるように感じた。ただしどちらかというと、元の振りをしっかり理解してなぞっているというような、忠実さが見てとれた。一つ一つの振りの形が雑にならず綺麗で、細かく分析している様子がよくわかった。身体でリズムを表現するということができているのだが、曲の世界観を自分の身体を使って表現して第三者に見せるというところまではまだまだ至っていない。しかしレッスンが入る前の今の時点ではこれで十分だと感じたし、後に彼が太鼓の達人の達人(練習のあまり自宅の壁をボコボコにするほどの)であるということを聞き、あの素人らしからぬリズム感は太鼓の達人で培われたものなのかとかなり納得した。

続いて自由曲のボーカルを視聴する。

歌われたのは米津玄師さんの「感電」。「miu404」を欠かさず見ていた自分にとってはイントロだけでゾクゾクするような曲である。イントロの間、彼は真っ直ぐにカメラを見据えている。この曲の(というか米津玄師さんの全ての曲の)難しさは誰もが知るところだし、練習生の歌だから、少しくらい音を外したりするんだろうなあという気軽な気持ちでいた。

ところがいよいよ歌が始まった時、このような気持ちでいたことを申し訳なく思うくらい、彼の「感電」は完璧だった。

恵まれた声質なのは確かだが、正確に音を出す、リズムに乗るというのは当たり前のこととしてとうの昔にクリアしている。たくさん練習してきた自分の歌をどうか聴いてくださいという段階でもない。彼が見つめるカメラの向こうにはすでに聴衆がおり、聴衆と自分の歌で、自分の世界観でコミュニケーションを取っている。

笹岡の感電でよく言われるのはサビ直前の「hey!」とその後のグッグッとリズムに合わせて肩を入れるところである。米津玄師さんはもちろんそんなことはしていないのである。彼はこの曲をそういうグルーブとして理解し、表現している。彼はすでに、自分の歌を人に届ける準備ができている、そう感じた。あっという間の1分半。歴代のオーディション番組で、歌がすごいと言われていた練習生の歌でもここまでの衝撃を受けたことがなかった。何度も何度も、YouTubeを繰り返し再生した。「感電」が彼の代表曲であるかのように。

もっと、もっと聴かせて欲しい。この1分半だけでなく、この世界を彩る数多の歌を。まだこの世界に生まれ出ていない、君だけが歌う歌を。

こうして私は文字通り、笹岡秀旭の歌に「感電」したのである。

プロ集団が集うファンダム「笹プ」

笹岡秀旭の歌に感電してから本放送(初回投票日)まではまだ日があり、この溢れ出る思いをどうしたものかと思いあぐね、Twitterで「笹岡」と入力してはファンの皆さん(笹プ)のツイートを眺めるという生活を送っていた。笹プの皆さんは常に彼の素晴らしさを語らい、パブサ上では数少ない供給から生まれた産物を愛でるツイートで溢れかえっていて、どれだけのファンに彼が愛されているのか窺い知れた。

そして彼が多くの笹プから愛情を持って「笹岡」と呼び捨てにされていることを知った。

そのうちに数多くの美しく可愛いFA(ファンアート)や、布教記事布教シートを目にし、挙句の果てに近日中にアドトラック(通称笹トラ)を走らせるということを見聞きし、101人の中から笹岡を見つけ60位に残るまで投票するだけでなく、彼のためにどれだけ多くの労力が割かれているのかを知り先人の笹プたちに尊敬の念が込み上げてきた。

何日かツイートを眺めているとどうやら笹プの皆さんは稀に見るほどの優良ファンダムで、上記のような企画力行動力だけでなくコンプラ意識も高く新規にも優しいということが見えてきた。これならばド新規の私がちょっとツイートするくらいは大目に見てもらえるかもしれない....と思い、とはいえ本アカでは何かがあったら困るので、笹岡専用と決めて別アカを作りこわごわとツイートしてみた。以下がそのアカウントでのはじめての本格的なツイートである。

するとどうだろう。

ツイートしてからほぼ0秒(つまりツイート直後)に初のいいねがつく。それ以降、ピロンピロンと通知が止まない。

どうなってるんだ笹プ。SMS認証コードだってもっと遅い気がする。

そして数分のうちに優しい先輩笹プさんにリツイートしてもらい、コメントをもらい、ドドドッとフォロワーがつく。この誰ともわからぬド新規の拙いツイートに。嵐に巻き込まれたようなこの瞬間、私はもう笹プの一員となっていた。そしてこの先どれだけの切ない思いをしようとも、笹岡のために笹プの皆さんと共に笑い涙を流す覚悟ができたのである。

それからはもう、笹プのツイートと共に起き笹プのツイートと共に寝るというどっぷり笹プ生活である。ビビリの私はオープンチャットに入るのが躊躇われ本放送から1週間以上経ってから加入したが、運営の皆さんの高い意識と優しさのおかげで、何かを強要されることもなく適度な距離感で過ごせるこのファンダムは非常に居心地がいい。笹岡のファンダム「SH1 Entertainment」は今や400人超の巨大ファンダムになりつつある。

2022年4月23日追記

2021年4月25日に投稿した本noteは、ここまでの記載に笹岡を一緒に応援してくださいというメッセージを追加して締めくくっている。

それから約1年後の2022年4月23日、笹岡秀旭のオリジナル曲第四弾「purple」が21時に公開された。

笹岡が初めて取り組んだリリックビデオは、その名の通り紫色を基調とした、どこかクラシックな趣きのある空間で撮影されている。CDジャケットのような完成度のビジュアルを伴っていることに、今作にかける並々ならぬ思いが伝わってくる。

「カラーパープル」という古い書籍がある。まだ差別が根強かった時代の、アメリカ南部の黒人女性の生き方を描いた書籍である。スピルバーグ監督が映画化し、アカデミー賞候補に上がったことで有名になった。笹岡の新曲を聴いて、歌詞をじっと眺めていると、この映画のことが頭に浮かんだ。

古い映画である。笹岡がこの映画のことを知っているとまでは思わなかった。おそらく別の感情でこのタイトルをつけたのだとは思うが、それでも笹岡が「purple」で言いたかったこととこの映画で描かれている世界は、地続きで繋がっているように思えたのだ。

静寂と情熱の間に僕は生きる
愛も憎しみも溶かして混ざり合った purple
 

さまざまな多様性は、ひとときスポットライトを浴びて浮かび上がるように見えては、また意識の底へ沈んでいくその繰り返しである。ダイバーシティを謳う今日であっても、どうしても私たちは己の中にある善悪の価値基準をもって物事を見ている。当事者と傍観者、傷つき傷つけることの繰り返しで、この世の中を生きている。

誰もが善と悪を抱えてる
それでいい
そこから何か創り出せ

自分以外の何者にもなれないから、自分が感じたことからしか言葉を紡ぎだせないから。

落ちていく 
ただ、落ちていく中で切に願ってたんだ
ねえ神様 このメロディーは僕の声で歌わせて


赤か、青か。白か、黒か。
どちらかを切ったら爆発するような世界線ではなく、混沌としたこの美しい場所で、
全てを溶かして、全て自分自身として、この声と、歌で生きていく。

決意にみなぎる笹岡の歌声は、どこまでも美しい。
清濁を併せ呑む君の人柄を知っているからこそ、歌詞と絡み合いいつまでも胸に響く。
笹岡に出会った一年後、この歌声を届けてくれたことに心から感謝している。

まだこの世に生まれていなかった、君だけが歌う歌を
私たちに聴かせてくれてありがとう。


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