笹岡秀旭と「purple」
2022年4月29日、笹岡秀旭初めてのDigital EP「purple」が公開された。
先行してYoutubeにてリリックビデオを公開していた表題曲、「UFO」「乗せて」を含む3曲と、それぞれのインストゥルメンタルで構成されたミニアルバムである。
深夜0時に各配信サイトから順次配信開始されるや否や、公開初日はiTunes Store Jpopアルバムのデイリーチャート最高位9位、総合18位まで上り詰めた。
笹岡が自作曲を発表するのは2021年10月23日にYoutubeにて発表した「Tell me why」から実に半年ぶりである。歌声も音作りも着実に技術を磨いてきた笹岡が、途中カバー曲の発表なども挟みながらも満を辞して発表したのが今作「purple」である。
今までの発表曲も素晴らしかったが、それでも今回のEPとそれまでの楽曲とは明確に一線を画しているのが伝わるほど、今作の3曲はずば抜けて高い完成度を誇っていた。耳に届く音の重なり、重厚感、メロディー、歌唱、どこをとってもメジャーデビューするに足るクオリティに達している。
自分が好きで作る曲が、配信サービスを利用した際にファンだけではなく一般ユーザーまで浸透するかどうかはまた別の大きな課題である。今回の曲を聴いてまず頭に浮かんだことは、「これはもしかしたら今まで笹岡を知らなかった層にもリーチするのかもしれないな」というものだった。
自分が笹岡のことを全く知らなかったとして、この曲が街角のカフェで、本屋で、美容院でかかっていたらどうだろう。
それでもきっと、この曲のことを、笹岡の声を好きになる気がした。この曲が流れていたら、その場でふと耳に集中してしまうだろう。歌詞を覚えて、検索して、きっと笹岡にたどり着く。
一般ユーザーにも広く親しまれる曲というのは、つまりはそういうことだ。公開してしばらく、繰り返し再生する手が止められなかった。
笹岡秀旭が選んだ唯一無二の道
笹岡が出演していた日プ2終了後、メジャーデビューしたINIに続き、セカンドグループOCTPATH、練習生ユニットグループLAPONE BOYS、渡韓が明らかになったpeche、デビューを目指して活動する「僕デビュ」組など何人かの練習生の進む道が明らかになった。その他にも表立って姿を見ることができなくても、舞台に出たり他のオーディションに参加するなど、SNSを通じてその活動のいくつかを窺い知ることができる練習生もいた。
かつての仲間たちが光を身に纏うかの如く、美しくスタイリングされて微笑んでいる。笹岡がどこかのグループに所属してデビューするならそれはそれで喜ばしいことだった。ただそのような未来を思い描いた時に、どこか違和感のようなものを感じたのも確かだった。しっくりこない、という感覚である。
笹岡が番組終了後しばらくの沈黙期間を経て、初めての自作曲「I LOVE YOU TOO」を発表したとき、SoundCloudという音声ファイル共有サービスを利用していた。SoundCloudは元々は音楽制作を行う者同士が互いのデータを交換することを目的にドイツで設立されたサービスである。
その再登場の仕方、使用しているプラットフォーム、さらに言うならその先のカバー曲「カブトムシ」自作曲「夏だね」と徹底して自分の音を追求する姿を見て、笹プと呼ばれる彼のファンの大半はきっと、「良い機材に恵まれた環境で好きな音楽をとことん作って欲しい」と感じたはずだ。
笹岡の曲によく見られるモチーフに、行くべき道を見失って失意の中にいる「僕」が、「君」に出会えてまた決意と共に進んでいく、というものがある。
絵に描いたようなstoryとは程遠い現在地点
本気になれそうもない でもまだ諦めない
「purple」
Only one 今も探してる
僕だけの my dream
ただ祈ってた宇宙へと漕ぎ出して
「UFO」
可能性と未来抱えながら
乗り込んだはずのこの車両は
今じゃ終点もなく彷徨った
流れる時の中 君と出会ったんだ
「乗せて」
恐らくこれは、番組が終了してそれまでの自分の人生とこれからの将来を考えた時の深い戸惑い、そして音楽を続けていくきっかけとなったファンの存在を表しているのだろう。
ねえ神様このメロディーは
僕の声で歌わせて
新曲purpleで歌われるこの一節は、笹岡の心の奥の叫びであると同時に、笹プの切なる願いでもある。
誰かが作った、既に歌われている歌ではなく、笹岡が自分とその先の聴衆のために作った歌を聴きたいのだ。
であるからこそ、彼が一曲また一曲と作品を発表するにつれて、それが彼にしか奏でることのできない唯一無二の音楽であることに対してファンの多くは喜びを深めていったのである。
配信デビューに際し、このファンの姿勢が笹岡の目指す道に少しでも影響を与えていたのであれば、この上ない喜びだ。
絵に描いたようなstoryから離れた今の景色は、君の目にはどんなふうに映っているだろう。
誰もが羨むような光り輝く楽園ではないのかもしれない。それでも笹岡が全て自分の努力で、ひたむきに音楽を続けていたからこそ見える、笹岡だけの特別な景色だ。
楽曲配信サイトデビューに寄せて
今回笹岡の楽曲配信サイトデビューに際し、他の笹プの方々の後押しもあり、本noteを再公開することとなった。
もともと番組の間、投票数に少しでも貢献したいと言う思いで書き留めていたnoteである。それが思いのほか、とりわけ直近まで閉じずに残していた記事「弁当少年団」のファンダムの皆さんに大変多くの反響を頂けた。
笹岡がもしデビューをしたら、もう一度公開する機会があるかもしれないと思い、その他の記事は削除せずに非公開にしていた。
私の、そして多くの笹プの皆さんの願いは、笹岡秀旭の音楽が広く愛されて欲しいということである。
「purple」をどこかで耳にし、笹岡秀旭というアーティストだと知り、そうして笹岡にたどり着いてくれた誰かに。
今はもう非公開になってしまった日プ2の本放送を知らない誰かに、この曲の生まれる前の笹岡の姿を知って欲しい。
笹岡が夢見るように思い描いていた場所。
私たちと笹岡の夢が近づき始めた最初の地点。
個人的な思いもたくさん記してしまっているけれど、かつても今も笹岡を取り巻く静かな熱狂を綴ったこのnoteが、動画サイトに散りばめられている情報の断片を繋ぐことができるような存在になれれば本望である。
最後に、配信サイトデビューを果たした笹岡に。
私たちが望む最高の景色、最高の音楽を聴かせてくれて本当にありがとう。
この愛すべき曲たちを、笹岡を愛する人たちといつか同じ場所で共に歌うことができますように。