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笹岡秀旭と「さよなら青春」

PRODUCE 101 JAPAN SEASON2 のポジション評価で、現在30位、ボーカル志望の笹岡秀旭が選んだ楽曲はいきものがかりの「さよなら青春」であった。

ボーカル曲はそのほかに清水翔太さんの「花束のかわりにメロディーを」と、Official髭男dismの「Pretender」があり、当時33位の笹岡の曲選びのターンでは「さよなら青春」と「Pretender」のみが残されていた。直前に選んだ32位の四谷真佑くんが「さよなら青春」を選択したことを皮切りに、その後33位の笹岡、34位の小堀柊くん、35位の阪本航紀くん、36位の上田将人くんと「さよなら青春」のメンバーがあっという間に埋まっていった。

このメンバーが次に画面に映るのはリーダー決めが終わってからだった。笹岡の胸には既にリーダーマークが貼られている(この部分がチームにとって結構大事な箇所だと思うのだが、いつかどこかで見せてほしい)。皆同じような順位のメンバーの中、ラップが得意な小堀くん以外の4人が、少しでも爪痕を残したいとセンターに立候補する。チーム内投票の結果、笹岡3票、上田くん1票、四谷くん1票で、リーダー兼センターとして笹岡が選ばれることになった。

笹岡がその胸にリーダーマークとセンターマークをつけた時、きっと彼の心の内にはこれからリーダーとしてどうチームを率いていき、チーム内での対話を重んじ調和を図っていくか、そしてセンターとして自分の存在感を出し、歌の世界観をどう観客に伝えていくかなど、さまざまな明るい展望が芽生えたことだろう。チームメンバーからリーダーとセンターの2つを任されることで、自分の持つ力を信じる気持ちが増したに違いない。例えそれがわずかなひとときだったとしても、その高揚感は今までの人生では得られない喜びだった筈だ。

外されたセンターマーク

多数決で決まったはずのセンターだが、その後もう一度チャレンジしたいと上田くん、阪本くんに申し入れられる。笹岡はそれを「いいよ、やろう」と快諾する。同じくセンター志望だった四谷くんは、歌い出しを任せてほしいと辞退することとなった。「Overall」組に客観的に見てセンターを決めてほしいと依頼し、3人が同じフレーズを順番に歌っていった結果、センターは笹岡から阪本くんに移ることになった。

私は笹岡のファンなので、正直言うとセンターも笹岡にやって欲しかったと思ってしまうところも当然ある。だがこの再センター決めの際の3人の歌唱については、その場にいた「Overall」組がその目で見て、耳で聴いて彼らの感性で決めたものであろうから、そこに対する異論は全くない。

センターに阪本くんが決まった時、笹岡は一瞬驚いたような、そして悔しそうな表情を浮かべた。新センターとなった喜びと感謝に、笹岡を抱きしめる阪本くん。「最高の作品を作ってくれよ」「頼んだぞ」阪本くんをしっかり抱きしめながら伝える笹岡。この2人は元々「笹阪」と呼ばれるほど仲の良かった2人である。お互いの歌の実力、歌にかける想いは十分に知るところだろう。

皆がセンターを渇望する中、笹岡自身も冒頭のインタビューで「結構 後がないなっていうのと、やっぱりボーカルでは周りに負けたくないなって思ってましたし、絶対センターやりたいって思ってました」と語っている。笹岡の胸に去来したのは、リーダーとセンターを同時に任された時の高揚感との落差であっただろう。その笹岡の悲痛な思いを考えると胸が苦しい。それでも一瞬の葛藤の末に笹岡は笑顔で相手を称え、躊躇なくセンターマークを自分の胸から外した。20歳、まだまだ自分のことで手一杯になっていてもおかしくない年頃だ。笹岡の人間としての芯の強さと優しさ、自分を律する力の美しさに尊敬の念を抱かずにはいられない。

1番下手くそだけど1番伸びるチーム

続くボーカルトレーナー菅井先生のレッスンでは、この歌に込める思いについて阪本くんを中心に厳しい叱責を浴びてしまう。菅井先生の指摘は明白だ。

「お客さんのためではなく自分たちのカッコ良さをつくれないのか」
「人工的にするな」
「音楽は事務じゃない」

その後のボーカルレッスンでも力を出しきれない5人に対して菅井先生の指導は続く。

「今のが僕たちの精一杯の力でしょうか?いえいえあなたたちはもっとできます。ここ(のチーム)1番下手くそだけど、鍛えれば1番上手くなると私は思っているから言っているのよ」

5人はその後練習を重ね自分たちなりの答えを探す。ここからは阪本くんを中心にしたモノローグとなり、他の4人がどう考えて自分とチームの歌に向き合っていったのかはよくわからない。ここの部分はそれぞれの成長とチームビルディングのストーリーが伝わる重要な箇所だ。もう少し丁寧に追ってもらえなかったのだろうかとも思うが、場面はその3日後の菅井トレーナーのレッスンに移る。ここで菅井先生は再び「やっぱりソウルがないとだめだよ、魂が。早くLet me flyしてください」と伝える。形だけの優等生でなく、殻を破れと言っているのだ。

菅井先生は一貫して同じことを言っているような気がするが、なかなか殻を破れない5人。しかしその後の伴奏付きのレッスンで、菅井先生がどんどん伴奏の勢いをつける中、5人も必死で食らいついていく。通しが終了すると菅井先生の表情がかわり、優しく5人を諭す。
「今だとやかましくて雑だって言われるかもしれないけど、このぐらいでいいんだよ。ただ綺麗な音楽だけやろうと思わないでよ」

菅井先生がその場を去ってから、上田くんが「最後めちゃくちゃ良かったな」とメンバーに声をかける。笹岡は「なんか飛び抜けた感じがした」阪本くんは「なんかめっちゃ声出た」と口々に話す。頬を紅潮させる5人。

笹岡「言葉じゃ表せないですけど、本番僕らが出すべきものが今みたいなモノなのかなって。やっと僕らの中で何かが足りないっていうのが見つかった気がしたので」

さよなら青春

本番直前の5人はスクラムを組んでいる。
「頑張るぞ」「頑張ってきた」「いける」
「せーの!」「オオー!」
舞台に上がった5人は椅子に腰掛けている。それぞれの覚悟が伝わる美しい表情がカメラに映し出される。

悲しみを抱きしめて それでも冬を超えて
春を待つ人にこそ 幸せは来るんだと
君は信じてたんだ そして僕も信じた

四谷くんの歌い出しが心を打つ。センターを降りて歌い出しを担当したいと言った四谷くん。その中には最初のレベル分けテストで一緒になり40人の中に残らなかった「リベンジャーズ」の古瀬くん、三佐々川くん、安江くんへの想いがある。
「チームとしてこの曲を、少しでも過去のことだったりを糧に今を明るく生きてほしいっていう意味で、僕たちはこれから歌います」
パフォーマンスが始まる前にそう語った四谷くん。その気持ちのままの優しい眼差しと高い歌唱力で一気に私たちを歌の世界に連れて行ってくれた。

上田くんはこれまでの挫折経験からか、恐らく自分自身への順位への焦り、周囲へのライバル意識がチーム内で最も顕著に出ていた1人であろう。上田くんのボーカルは他のチームメンバーにない独特の厚みがある。それがチームの歌声に深さや力強さを与えてくれていた。笹岡と向かい合い、目と目を合わせて歌い上げた後半のハーモニーは、2人の歌にかける真摯な思いが伝わり、思わず涙がこぼれた。どうか自分の持つ力に自信を持ってほしい。

小堀くん。いつも控えめで一歩後ろに下がってしまう君が、自分は皆よりまだまだ目指してるところが低いんだなと思ってしまう君が、得意のラップではなくて歌でどれだけ苦労し、努力したかは多くの国プに伝わっている。青春真っ只中の君の優しい歌声と表情が、ステージ上で柔らかく温かく広がる様子は、穏やかな青空のもと蕾から花開く桜を思い起こさせた。この曲に挑戦してくれて、歌声を聴かせてくれたことに感謝している。

阪本くんは文字通りこの曲のセンターに相応しい振る舞いと歌声だった。曲の世界観を自分の中に落とし込んで練習を重ねた結果が現れた素晴らしいステージだった。舞台の中央に立ちメンバーや観客とアイコンタクトをする。確かな歌唱力を保ちつつ、時には寂しげな、時には前向きな表情で青春の儚さを歌い上げる姿は現場でも多くの人の胸を打ったことだろう。ボーカル部門1位、11万ベネフィット獲得本当におめでとう。

そして笹岡。

私たち笹プは笹岡秀旭の歌が大好きだ。センターパートを歌っていればそれはベネフィットに繋がったのかもしれないが、今回笹岡が歌ったパートは聴けなかったことになる。今回の笹岡のパート、笹岡にしかできない歌い方で歌ってくれたその場所を、私たちは本当に大事に愛おしく思っている。

君が心からこの曲を愛しチームを愛したことが現場観覧の皆様にも伝わり、ボーカル部門4位となる110票をいただけたことは、私たちファンにとってもこの上ない誇りだ。センターこそ逃してしまったが、リーダーとして他のメンバーを技術面精神面ともに支えてくれたことだろう。その過程が少ししか見られなかったことが寂しくもあるけれど、君がこの先のステージでこの経験から得たことを全て私たちに見せてくれると信じている。

君と出会えたことを 君を愛したことを
忘れはしないだろう 忘れられないだろう

青春とは必ずしも美しく整った綺麗なものばかりではない。若さゆえの傲慢さ、自信のなさや卑屈な思い、どうしようもなく無様で惨めで、思い返すと消えていなくなってしまいたくなるような胸の痛みを誰もが抱えている。それでも大人になるにつれて、そんなことがあったなと朧げな記憶になりながらも、時折胸を刺すような情熱と激しさに戻りたくなる瞬間がある。

チームメンバーにとって、そして5人のファンにとっても、「さよなら青春」は、思い返すとそんな青春の瞬きや胸の痛みを思い出させるような一曲になった。この曲を思い浮かべる時、この歌の美しく調和の取れたハーモニーと共に、自分の胸に沸き起こった様々な思いが鮮明に蘇り、時に苦しくなることもあるだろう。

それでもこの5人の少年たちにとってこの「さよなら青春」が美しい傷の一つとなることを願ってやまない。たくさんの傷を負いたくさんの困難を乗り越えて、人生が豊かになり歌が磨かれる。そんな君たちのパフォーマンスを通して、見る人の人生に光が当たり輝きはじめる。

どうか傷がつくことを恐れないでほしい。
その傷ごと自分と過去を愛してほしい。

それは間違いなくこれからの音楽人生における糧となるはずだ。

笹岡、君は光り輝くダイヤモンドの原石だ。




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