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パリ五輪ボクシング女子66kg級、想いが揺れる準々決勝。イマネ・ヘリフ選手をめぐる、競技・組織・社会は・・

8月3日に行われたパリオリンピック、ボクシング女子66kg級の準々決勝で、アルジェリアのイマネ・ヘリフ選手がハンガリーのアンナ・ルカ・ハモリ選手に勝利した。しかし、この試合結果を巡り、ヘリフ選手の出場資格に関する議論が再燃している。この問題は、パラリンピックのクラス分けや多様な障害の選手でどう競技の公平性を保とうとしているかを、多くの人で考えるうえでもぜひ議論したい問題だ。

ヘリフ選手は、2023年の世界選手権で性に関する検査に不合格となり失格となったが、国際オリンピック委員会(IOC)は彼女のパリオリンピック出場を許可した。
これに対し、ハンガリーボクシング協会やハンガリーオリンピック委員会はIOCに決定の再考を求める声明を発表している。

そんな戦いを終えた、ハモリ選手は試合後、「厳しい試合だったが、いい試合だったと思うし、自分を誇りに思う」とコメントし、試合結果を受け入れる姿勢を示していたが、ハンガリーオリンピック委員会は同日「女性競技者の平等な機会と公正な競争の権利」を守るためにIOCと協議を続けている。

ヘリフ選手の出場資格を巡る議論は、IOCと国際ボクシング協会(IBA)の対立が背景にある。IOCはIBAの運営や財政問題を理由に、2023年6月にボクシング競技の運営からIBAを排除し、今大会のボクシング競技はIOCが独自に運営している。

IBAはヘリフ選手を「失格」としたが、IOCはIBAの検査を「恣意的」と批判し、ヘリフ選手が「女性として生活し、女子ボクシング選手として競技している」ことを強調している。

一方、ヘリフ選手は1回戦で対戦したイタリアのアンジェラ・カリニ選手が46秒で棄権した試合後、SNS上で誹謗中傷にさらされた。一部の政治家や著名人からもヘリフ選手への批判の声が上がり、イタリアのメローニ首相までも「平等な試合ではなかった」と発言するなど、議論はスポーツ界を超えて広がりを見せている。スポーツにおける「公平性」「多様性」について改めて考える機会になっている。

ボクシングや柔道などの「階級」は、パラリンピックでいう「クラス分け」と同じだ*。パラリンピックはクラス分けのスポーツと言われ、多数のクラスに分かれて競い合う。そして、1つのクラスには幅がある。その幅の良い側にあるか不利になるのかが勝敗を左右する可能性はないとは言えない。ルールで決められた一つのクラスの中で、これが公平なのか?と悩むことも時にあるだろう。また、ヘリフ選手の場合は性の関係が絡んでいるためさらに複雑である。どう考えるべきか。ヘリフ選手の今後の活躍とともに、これらの問題についての議論が深まることを期待したい。

ちなみに、IBAが2023年の世界選手権で失格としたのは、ヘリフ選手と57kg級の林郁婷(台湾)の2名で、2名ともがIOCによる判定で出場が決まった。

ヘリフ選手はこのあと、8月7日にタイのスワンナペン・ジャンジャエム選手との準決勝に臨む。決勝進出、そして金メダル獲得に向けて、彼女のパフォーマンスに注目が集まる。一方で、出場資格に関する議論は今後も続くことが予想される。会場は、パリ西部のテニスで有名なローランギャロス。

*注;パラリンピックのクラス分けについては、視覚障害の一番重いクラス=全盲の水泳・陸上・ブラインドサッカー・ゴールボールなどにおいては、ブラックゴーグルやアイマスクを装着し光を通さない状態で競技の公平性をつくり出して行なっている。


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