ばかまじめ

「でさー、うちの旦那がさー…」
『へぇー、そうなんですね…。』

 嗚呼、つまらない。何が面白くてそんなくだらない話を延々と続けられるのか。ウザったい。押し付けがましい。いつもの事だ、日常茶飯事だと分かっていても、怠いが溢れ出してくる。

 こんな得もない話を聞いているだけで時間が過ぎるていく。お陰様で昼休憩なのに飯もまともに食えやしないし、仕事も全く片付かない。その所為か出世の話など届いたことも無い。

『真面目に働いてるのになぁ…。』

 今日も心にも無い溜息が出る。

 歩けばド派手に転び、洗いたてのシャツにコーヒーをこぼす。せめて火傷だけはしまいと前のめりのになる。よし、その姿勢だけは褒めてやろう。そんな強引なプラス思考も虚しく、気分は上がらない。いつもの並木通りで肩を落とす。

『あのシャツお気に入りだったのにな…。』

 白いシャツには柄と差し色が増えた。ファッションに気をつかっていないとはいえ、ここまで上手くいかないことが続くと流石に落ち込む。

『ほんと、嫌んなる毎日だ。』

 やりたくないことをやったり、嫌々早起きしたって、その分素敵な何かが訪れる訳でもない。つまらない日常だが、なんだかんだ頑張ってしまう。自分の体はガムシャラ以外知らないのだろう。

 不器用で意地っ張りでばかまじめ。そんな自分にも幸があって欲しいものだ。

 今日は久々の休日。重くなってきたストレスという名の荷物を置いて、昨日まであった嫌な事は全て忘れて太陽の陽を浴びる。羽根を伸ばすとはまさにこの事だ。それでも抜けない嫌な気持ちは、月夜に向かって吐き出そう。

 でもその為にまずはアレとコレの話を先に…その為にまずソレを片付けて…ってあれ?今何時?いやその前に、なんだかんだ忙しくて騒がしい今日に感謝だ。

 休日になると決まって思うことがある。

『1ヶ月くらい何にも考えずダラダラしていたいな。』『ゆっくり休んで遊んで眠っていたいな。』

 それでも、ふと冷静になって考えると、やはり考えることは日々のことである。

『やっとここまで来たんだ。』『ここじゃ終われないんだ。』

 もしかすると今は辛いしキツイかもしれない。でもいつかは笑い話にできると信じている。そうして今日も頑張ってみる。そしてお得意のガムシャラで愛を謳う。太陽に向かって目一杯空気を吸い込む。

『ほんと、素晴らしい毎日だ。』

 やりたくないことをやったり、嫌々早起きしたって、ほんの少しの幸せに触れるだけで、その苦労が全部がありに思える。

『よし、明日もまた頑張ってみよう。』

 そうして今日もガムシャラに生きる。自分の仕事をして、他人のくだらない話を聞く。いや、肩の力を抜いて柔軟に考えよう。あと1ミリ背伸びして、大人になってみよう。

「それでさー、うちの旦那がさー…」
『なるほど、でも…』
 
 嫌になる毎日でも、今を生きている。
 
 不器用で意地っ張りでばかまじめ。そんな自分にも幸があるとすれば、そんな日常を送ることが出来る「今」なのだろう。
 
『ほんと、嫌んなっちゃうよな。』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?