雑記:高校時代大好きだったたこ焼き屋が新店になり嬉しいような悲しいような気持ちになった話。

先週の日曜日、ふとたこ焼きが食べたくなった。
とってもおいしいたこ焼きが。

そこでふと思い出した。高校時代放課後に通っていたたこ焼き屋が、最近屋台から店舗になったということを。
どんなお店になったのだろうか。あのときのたこ焼きは今もおいしいのだろうか。もう15年も前の話だから、ぜんぜん違う味になっていないか。期待と少しの不安を抱えて、数年ぶりにそのたこ焼き屋に向かうことにした。

私とそのたこ焼き屋との出会いはたしか、高校1年のときだった。スクールバス乗り場のそばに、ある日そのたこ焼き屋がオープンした。
部活終わりの男子高校生だった私は、当然そのソースの匂いにつられ、週に何度も足を運んだ。
たこ焼き屋のおじさんは(記憶が正しければ)脱サラしてたこ焼き屋を始めたと言っていた。こだわりの銅板のプレートで焼いたたこ焼きは、ふわふわで、熱々で、タコも大きく、食べざかりの高校生の胃袋を一瞬で鷲掴みにした。
特に好きだったのは「たこせん」だった。関西以外の人に説明すると、たこせんというのは、たこ焼きをたこせんべいでサンドしたものである。当時は100円でたこ焼きが1個挟まっていたと思う。200円だと3個挟まったり、50円だとたこ焼きなしでソースとかマヨネーズだけのたこせんもあった。金額は少し曖昧だが、お金のない男子高校生のおやつとしてはこの上ない存在だった。
ちゃんと船に乗ったたこ焼きもたまに食べた。自慢の銅板は、一般的なお店のたこ焼きよりも少し大きかった。お小遣いを両親からもらうとたこ焼きを、残高が減ってくるとたこせんを食べていた。

部活の、クラスの、友達とよく食べに行った。たこせんはたまに、おじさんの好意でたこ焼きが2つ入ったりした。それが嬉しくてまた通った。

高校を卒業する頃、おじさんは近くの駅前に店舗を移動するつもりだと言った。たったの2年で最初のお店から移転するというのだ。
私も大学への進学を機に地元を離れ、移転先にはなかなか訪れることはできなかった。

大学生の間にもたこ焼き屋に行くチャンスはあったが、なかなか行くことができなかった。数年ぶりにおじさんに会うのがなんとなく恥ずかしかったのかもしれない。実家に帰る途中の駅にあったのに。
多分初めて新しい店に行ったのは5回生の頃だった。なに留年しとんねんという話はさておき。
新しい店はそれこそ夏祭りの屋台のようだった。駅前のスーパーの外、自転車置き場のそばだった。店にいたのはおじさんではなかった。おじさんの奥さんだった。最初の店でも何度か会ったことがあった。奥さんも私のことを覚えていてくれた。聞くと、新店舗を数駅離れたところに出店するので、その準備に奔走しているとのことだった。
アルバイトのお兄さんもいた。お兄さんの焼いたたこ焼きもあのときの味だった。

それからまた疎遠になってしまった。社会人になり、実家に帰る頻度も減り、その駅に降りることもなくなってしまった。
その間にもおじさんは店舗を増やしていた。ホームページなどないので、何店あるのか細かくは知らないが、今では数店展開されているらしい。

さらに時が経ち、転職して地元(らへん)に戻ってきた私は、しかしながら行っていない期間が空きすぎてまた行けずにいた。
そうこうしているうちに、おじさんはスーパーの外の屋台を畳み、飲食スペース付きの店舗を屋台が会った場所の近くにオープンさせていた。

そして現在。ついにたこ焼き食べたい衝動が抑えられなくなり、1時間かけて移転した店舗に向かうことにしたのであった。
電車に乗り、最寄り駅まで向かう。その間で地図もスマホで確認して駅からの道順も予習した。

そうしてやっと、目的のたこ焼き屋についた。店員さんに持ち帰りか店内飲食か聞かれ、店内を選択した。持ち帰りにしたら駅のベンチで食べることになるからだ。
案内された席から周りを見渡すと、草野球帰りのおじさんが3人でビールと焼きそばを食べていた。たこ焼きも注文したところだった。
そう、店内飲食ができるようになったのでお酒も一品物も提供できるようになっていた。私は戸惑っていた。たこ焼き屋で酒を飲む文化を知らなかったからだ。

少し間を置いて、たこ焼きを頼んだ。酒は頼まなかった。一品物も頼まなかった。
瞬く間にたこ焼きが出てきた。あのときと同じたこ焼きだった。あのときと同じ、おいしいとろふわたこ焼きだった。

しかしながら、あまり長居しようとは思わなかった。焼酎の瓶が何本か並び、ビールサーバも見える。私はたこ焼きを食べにきたのであって、居酒屋に来たわけではない。気にしなければいいだけなのに、なんとなくそう思ってしまった。

そうして折角1時間かけて来たたこ焼き屋なのに、10分ほどで出てしまった。たこ焼きは確かにおいしい。とろふわであつあつで、何度だって食べたい。だけども私が高校生のときに通ったあのお店ではなかった。立地や需要に合わせて最適化された新しい店舗だった。頭ではわかっていても、少しためらってしまう。

けれども、そのエリアで一番美味しいたこ焼き屋を聞かれたらきっとこのお店を推すだろう。
自分で勝手に思い込んで、そのギャップで勝手に悲しんでいるだけのオチのない話であった。

おわり。


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