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整形外科医が鍼治療を始めたキッカケ

もう20年以上も前の話です。整形外科医となり10年以上過ぎ、700床ほどの大病院に医長として勤務するようになりました。整形外科医師の中で年齢が上から2から3番手となると、若手医師から診療や診断の相談を受けたり、外来でも地位のある方や職場の医師の診察をするようになります。

 良い治療を提供できる疾患や外傷は増え、整形外科医としての技量は年々上がっていると思っていましたが、上手く治療できない分野は数多くあり、西洋医学での限界も分かるようになっていました。西洋医学の良い治療対象であれば、自信を持って治療を勧めることができるのですが、医学の治療が及ばない分野では治療結果は芳しくはありませんでした。

 特に腰痛や踵の痛み、テニス肘、肩こりなどの治療が、うまく行きませんでした。また、原因がよくわからない痛み・しびれも数多くありました。確立された治療法は教科書上あるのですが、手術療法などと比較すると、治療結果がスッキリしないのです。

 その際には素直に、これが西洋医学の限界ですと患者さんに説明してきました。 日々、何か良い突破口がないか、良い治療法を求めていました。
 新しい整形外科教科書のみならず、リハビリや理学療法、学会、様々な分野に目を光らせていました。新しい治療法は試しますが、まだまだ満足のいくものではありませんでした。

 当時は私自身が関わる手術は週に2〜3件ありました。麻酔科医の先生に麻酔をかけてもらい、手術を行います。その麻酔科医の中にとても上手に麻酔をかける先生がいたのです。画一的な麻酔ではなく、工夫がある。私は、腕のいい臨床医と見込んで、その先生に質問しました。

「先生、整形外科医になんか良いアドバイスはありますか?」
  するとその麻酔科の先生は
「鍼をやってみろ」
  と言ったのです。
「先生、鍼をやれって、どうすればいいんですか?」
  すると先生は
「俺のところ、来い」
  と言ったのでした。

 これが埼玉医大教授 松本勲先生との始めての会話でした。20年以上も前の話です。

 埼玉医大の松本先生のペインクリニック外来に週1回通いました。そこで、鍼の刺し方を教えてもらいました。今、実施している灸頭鍼法は、その時、先生から習ったもので、艾の種類も一緒です。いくつか種類を変えたのですが、先生に教わったものが、一番効きが良い。通電法なども試しましたが、灸頭鍼法は即効性もあり、臨床上優れた方法だと思っています。

 半年ほどして先生にうかがいました
「先生、これからどうすればいいですか?」
 先生
「あとは自分でやれ。」

これが鍼治療を始めたキッカケです。先生は昔、誰も直せなかった自身の膝の痛みを鍼治療で直してもらったことから、鍼治療を始めたのだそうです。

このあと、私は週2回の多忙な整形外科外来で鍼治療の試行錯誤を10年以上続けました。



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