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小説 確認男 らじらー

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らじらーでハマった即興劇を文章化してます。
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#コミックエッセイ大賞

確認男 本屋さん編

 書店で本をとろうとした時にお互いの手と手が触れ合った瞬間。まるで、電流が走ったように、君に恋をした。  時が止まったように、お互いを見つめたまま、「運命の出会いだ」と脳内の言葉がハモる。  けど現実はそんな甘くない。  そんな出会いなんて、物語の中だけで存在すると思っていた。  そう思っていた。  薄汚れた現代で、こんな妄想をしている人なんて、温室育ちの純粋無垢な人でもいないんじゃないだろうか。  だから、そんな期待は一切せずに、俺は純粋にただ面白い小説を探しに書店に来た

確認男 バスの手紙編

「あ、樋口さん?」  バスに乗ってきた樋口さんを見つけて、俺は呟いた。 「あ!」  樋口さんも俺を見つけては、飼い主と久しぶりの再会した犬のように、笑顔をはじけさせた。  街外れの海岸線を通る路線バス。  俺はいつもこのバスに乗って、高校に行く。田舎というほど田舎ではないが、この辺りでバスに乗る学生は数人。あとは病院に行くおじいちゃんおばあちゃんくらいしか乗っていない。だから、乗客とは自然と顔見知りくらいの仲になる。  ある日、絶対に落とせない再試のために、俺はいつもより

確認男 卒業式の教室編

「卒業おめでとうー」 「おめでとうー」  高校最後の学び舎の教室で、みなみとお互いの卒業を祝いあった。  さっきまで校内を練り歩いて、ひたすら写真を撮りまくっていたが、教室に財布を忘れたことに気づき、1人さびしく教室に取りに来た。  3階の校舎の端の教室。  階段を上がるのが面倒で仕方なかったが、もうそのしんどい思いをしなくなると考えると、寂しい気もする。  窓から校庭を眺めて、もうこの景色を見るのも最後かと思ったら、いつもと変わらない景色でもセンチメンタルになった。  教

確認男 お見舞い編

 ピンポーン  今となっては珍しい、音だけが鳴るインターフォンで慎吾は目を覚ました。  熱のせいで全身に汗をかいていた。昼からずっと寝ていたから、今が何時かもすぐには把握できていない。窓の外はすでに真っ暗。夜であることは間違いなかった。  慎吾は起き上がると、ゴホ、ゴホッと咳もこみ上げてきた。寝ている間は忘れることができた喉の痛みも、思い出したように喉を手で擦る。 「はい」  慎吾がしゃがれた声でドアを開けると、大学で同じゼミのまあやが、心配そうにドアの隙間から顔を覗かせ

確認男 夜桜の下の男女編

「今日、楽しかったですねー」  会社の後輩のみなみちゃんは、公園の街頭に照らされている夜桜を眺めている。  桜を見上げているみなみちゃんの目も街頭に照らせれていて、初めて夜桜を見たみたいに輝いていた。  桜なんか目もくれず、みなみちゃんの顔に見とれていたら、不意に目が合って焦った。「いやー、楽しかったね」なんて、ありきたりな相づちを打った。 「そうねぇー」  みなみちゃんは、会社の花見という名の飲み会の後で酔っ払っているのか、先輩の俺に対して何のためらいもなく言った。普段聞

カニを食べに来た男女

「さゆりんごー」 「ふじもりんごー」  20代後半にもなって、彼女とこんな呼び合いをするなんて思ってもいなかった。  彼女の名前の”さゆり”と、彼女の好物りんごを合わせて、あだ名が”さゆりんご”らしい。付き合って一週間で、彼女に「さゆりんごって呼んでね!」なんて言われたら、断れるわけがない。それどころか、俺の名字の”藤森”から、「わたしはふじもりんごって呼ぶからね」と宣言されたら、俺だけあだ名を呼ばずないわけにはいかなかった。 「じゃあ、今ね。目的地着いたから」 「うん。

確認男 花粉症の男女編

「桜キレイだねー」  隣で女友達の蘭世が目を潤々とさせながら言った。  桜並木の想像以上の美しさに、感極まって、涙を浮かべているわけじゃないと、僕には分かった。  蘭世は、今日会ったときから、目を赤くしながらマスクをつけていた。  僕も、おそろコーデと言わんばかりに、マスクをつけて、目は赤くなっていたと思う。  この時期の風物詩。  花粉症。  そう、2人とも花粉症を患っている。  目も鼻も、取り外して家に置いたまま外出したいくらいだ。花粉の時期は、目と鼻を外に連れていきた

確認男 試合の帰り編

「はぁ」  試合が終わってから、何度目のため息だろうか。  帰り道、幼馴染のみなみと二人っきりになっても、俺からため息は漏れていた。 「試合お疲れ様ー」  みなみは改めて労ってくれた。わざわざ休みに応援に来てくれた。なのに、ダサいところしか見せられなかったのが余計に悔しい。 「最悪だよ……。あんなに練習したのに」  今日の試合で、今までの努力を全否定された気がした。俺の努力に対しての見返りがゼロだ。あんなに頑張ったのに、なにがダメだったんだというんだ。 「そうだね……。練

確認される女 観覧車編

「結構高いね」  目の前の彼が苦し紛れに言った。 「そうだね。私、結構高いところダメなんだよね」  私はそう答えたが、実際はダメなことはない。高所恐怖症なのに、観覧車に乗ろうと誘うことはしない。そこまでバカじゃない。  なのに、平常心を失って支離滅裂な返答をしてしまった。  でも、今の私の状態は、高いところが怖いんじゃなくて、この空間が怖い。  観覧車のゴンドラという空間は、大抵の人は幸せになる空間のはず。  高いところかつ、密室で景色を楽しむことができる空間で、こんなにも

確認男 観覧車編

「結構高いね」  目の前の彼女との会話が続かず、俺は観覧車のゴンドラから見える光景に、ありきたりな感想を言った。 「そうだね。私、結構高いところダメなんだよね」  そう答えた彼女を見ると、どこかそわそわしている様子だった。  言われてみれば、ゴンドラに乗ってからの梅ちゃんの様子はいつもと比べると変だった。どんな時でも、クールで落ち着いている彼女が、今は動揺を隠せていない。  それに女子にしては身長が高い彼女は、外の景色を見ることもなく体を縮ませている。  だけど、観覧車に乗ろ

確認男 公園編

 冬の足音が聞こえ始めた頃。幼馴染のみなみと、学校の帰りが一緒になった。  みなみは家が近所で、小学校からの幼馴染だ。  高3になった今でも、俺とみなみは同じ高校で同じクラス。とはいえ、中学校に入ってからは2人で遊ぶことはなくなって、学校でも自然と話さなくなっていた  別に喧嘩をしたわけでもないし、どちらかが告白して気まずくなったわけでもない。ただただ、自然に話す機会が減って、話さなくなっただけだし、お互い部活で帰る時間も被ることはなかったからだ。  だが、先週の文化祭で俺は