読書記録8
アンデルセンの(僕的には)名作短編集です。久々に書いたよ読書記録!お月さまがその晩、或いは前の晩に見たことを、画家の「わたし」に語ってくれたという体で記される全33編。
どれも数ページほどなので、ちょっと読みたいな、なんてときによいです。何より薄いのでポイポイ持ち運べます。なんだったら大きめの手帳に挟めるぐらいの軽快さ。持ち運んでてかったるさ皆無。文庫本の正統派ハイエンド(僕的には)が新潮文庫だと宣いたくなります、はい。
個人的には第16夜のプルチネッラと第25夜の老婦人のお話が好きです。
役者として優れた才能と素晴らしい心を持ちながら、その外見から喜劇以外を演じられないプルチネッラ。観客は彼の舞台に常に喜び、万雷の拍手。
彼の絶望さえもが、観客の楽しみ。愛した人を失った悲しみに打ち震える姿すら、面白おかしい喜劇です。張り裂けそうな胸の内を抱えるほどに冴え渡る演技。成功と喜びの声に迎え入れられているのに、彼の心に慰めを与えてくれるものは誰も居ない。数ページでこれだけ深い憂鬱を描くあたりがハンス・クリスチャン・アンデルセン。
老婦人のお話は母親の愛情を描いた作品です。みすぼらしい平民の家に住む老婦人。傍らには彼女にうやうやしいキスをささげる立派な紳士。彼は彼女の息子なのです。のぞみさえすれば豪華な家に住めるのに、老婦人は決して、そのみすぼらしい家から離れません。息子たちの幸福が始まったこの家から自分が離れてしまったら、幸福が息子たちを見捨ててしまうのではないかしら。そんな思いから、ずうっとこの家を離れない老婦人。
愚かな迷信だと笑ってしまうのはたやすいのですが、それが母親の深い愛情から来ているものだと思うと、愛おしい思慕の念がこみ上げてきてしまうのは不思議なもので、ついつい、なんども読み返してしまいます。
一番の魅力は、丁寧でやわらかな文体の翻訳です。昭和の翻訳なのですが、読んでいて硬すぎず、読み聞かせをするのに向いた文章。少し難し目の文章が、子供さんの眠気を程よく誘ってくれそう。
良い翻訳とは最も慎み深い感想である、といったらおおげさでしょうが、言葉選びの一つ一つにお話への愛がこもっているので、ついつい愛用しがちな一作です。お気に召したら、ぜひ読んでいただきたいな、なぁんて言葉で結びとしましょう。
ところでいろんな翻訳が出てるので、本棚の同じタイトルの本が増える病にかかってるお人います!?僕がそれなんですけども!!!
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