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キモチマン(読切作品)【ジャンププラス原作大賞】

○どこかの場所
 人々の住んでいる街からそう遠くない場所。そこで、突如爆発が起きる。ドゴーン
怪人「我はデスウルミーゴ。愚かな人間どもをこの世界ごと滅ぼす者なり…」
 奇怪な姿を現す怪人。その姿は異星人にも悪魔にも見える異形。
怪人「さあ。殺戮の始まりだ」
人々A「うわあああああっ!!」
人々B「ぎゃああああああっ!!!」
 逃げ惑う人々。巻き起こるパニック。
キモチ「そこまでだ!」
キモチ「キモチマン 参上!!」
 ヒーロースーツに身を包み、キモチマンが参上する。
キモチ「私が来たからにはもう安心だ!」
 ヒーローの登場に安堵する様子の人々。
怪人「なんだ貴様は」
キモチ「私の名前はキモチマン。人々のキモチを力に変えて戦うヒーローだ!」
 人々の中に居合わせたテレビクルーがキモチマンの撮影を始める。

○居酒屋店内
 店の隅、天井近くに設置されたテレビにキモチマンが映っている。
キモチ「ということでみんな!」

○リビング
 一家団欒しているリビング。若い夫婦が少女と共にキモチマンの映ったテレビを見ている。
キモチ「私に力を貸してくれ!!」

○電車内
 乗客達がキモチマンの映ったスマホを見ている。
キモチ「この世界を救いたいというキモチを私に送ってくれ!!」

○世界各地
 人々が目をつぶって手を組んで祈ったり、手を空にかざしたりしている。元気玉状態。
人々(がんばれ…)
人々(負けるな キモチマン)

○どこかの場所
キモチ「うおおおおおおおおおおおっっっ!!!」
 パワーが流れ込んでくるキモチマン。
キモチ「これが…、世界を救おうとする人々のキモチだ……! くらえっ」
キモチ「キモチフラーッシュ!!!!!!」
 エネルギー波を放つキモチマン。その攻撃は怪人に向かって飛んでいく。
怪人「はあっ!」
 口からエネルギー波を放つ怪人。その攻撃はキモチフラッシュを掻き消し、さらに余波がキモチマンを襲う。
キモチ「ぐはあああああっ!」
 倒れているキモチマン。そこに、足音を立てながら歩いて近付いてくる怪人。
怪人「この程度のキモチでは俺を倒せんぞ」
キモチマン「な……なぜッ…!」
怪人「実際に危機に瀕しているわけでもない人間が思う世界を救いたいというキモチなど、本当のキモチではないからな」
キモチ「くっ…」
怪人「そんなもの、いくら数を集めようとちっぽけなものだ。俺の、(感情が表情に出る)人間を滅ぼしたいというキモチに比べればな!!」

○回想・アパート
 若い頃の怪人。20代半ばくらいの普通の人間男性の姿をしている。
 (↓若い頃のデスウルミーゴ)と矢印付きの解説有り。
 ややチャラい見た目でのんきな表情で部屋の中を歩いている。
 「ガッ」と足元で音。
怪人(若)「痛っ! タンスの角に小指ぶつけた!!!」
 うずくまる怪人(若)。
怪人(若)「クソー。痛ぇー!!」
怪人(若)「…………」
 まだ痛みが続いている様子の怪人(若)。
怪人(若)(なんでこんなに痛いんだよぉ…)
 ぷるぷる震える怪人(若)。
怪人(若)(ちきしょおおおおお!!!!)
 物凄い形相になる怪人(若)
怪人(若)「人間滅べぇぇぇぇええええ!!!!!」

○どこかの場所
キモチマン(小ぃせぇぇぇぇえええ!!!)
キモチマン(しかし、話の規模は小さいけどキモチが大きいのはわかる…!)
キモチマン(キモチマンとして、なんて戦い難い相手なんだ………!!)
キモチマン「くそっ……どうしたら…」
軋轢男「キモチマーーーーン!!」
キモチマン「!!」
軋轢男「俺のキモチを使ってくれーーーっ!!!」
 人垣の中から、キモチマンに声をかける男が一人。30代半ばくらいの社会と軋轢を抱えてそうな見た目の男。

○回想・コンビニ前
店員「アリヤトゴザイヤシター」
 レシート片手にコンビニから出てきた軋轢男。その背後では店員の声が響いている。
 そのまま住宅地を歩いていく軋轢男。
軋轢男(あれっ……おつり間違ってる。二十円足りない…?)
 方向転換して
軋轢男「ちょっと行ってくるか…」
 と言う軋轢男。しかしその足が止まる。
軋轢男「まてよ」
店員A「あいつ二十円のためにわざわざ来たよ」
店員B「アハハハハハ」
 いやらしい表情を浮かべそう笑うイメージの中の若いコンビニ店員達。
軋轢男「って言われるのもやだしなぁ」
軋轢男「まあいいか…」
 そう言ってまた方向転換して住宅地の中へと歩いていく。

○回想・軋轢男の家(夜)
 電気を消して、床に着いている軋轢男。眠れないのか目は開いている。
軋轢男(……でも、何も悪いことしてないのに自分が損したままってのもなぁ)
軋轢男「……」
軋轢男(ああ…なんかすっきりしないなぁ)
 寝返りをうつ軋轢男。
軋轢男(でも行くのもなぁ……)
 悶える軋轢男。
軋轢男「だああああああっ!!なんで二十円でこんなにもやもやしなくちゃいけないんだよっ!!!」
 布団から起き上がり絶叫。

○どこかの場所
軋轢男「っていう、俺のキモチだああぁぁーーーっ!!!」
 エネルギー波を放つ軋轢男。その攻撃が怪人に向かって飛んでいく。
 あわてて口からエネルギー波を放ち相殺しようとするが、消しきれず攻撃を食らう怪人。
怪人「ぐわあああああああっ!!!」
 立ち込める土煙。
キモチ「やったか!?」
 煙が晴れていくと怪人がうずくまっている。ダメージを受けている。
怪人「………いかんのだ…… こんなところで… 負けるわけにはいかんのだ……」
 ゆっくりと立ち上がる怪人。
キモチ「!?」
怪人「……必ずこの世界を滅ぼすと、そう誓ったのだっ!!!」
怪人「あの日……」

○回想・田舎
怪人(子)「やった! 当たった!」
 アイスの当たり棒のアップ。棒の先端に「当たり」の文字。
怪人(子)「よ~し これでもう一本食べられるぞ~」
 子供の頃の怪人。小学生くらいの人間の男の子の姿をしている。わりあいかわいらしいショタ。
 (↓子供の頃のデスウルミーゴ)と矢印付きの解説有り。
 駄菓子屋にて。
怪人(子)「おばちゃ~~ん アイス交換してー」
駄菓子屋「終わったよ」
怪人(子)「えっ!?」
 物凄いショックそうな表情の怪人(子)。
駄菓子屋「ふくろに書いてあるだろ。交換するのはもうなし」
 アイスの袋の端に(当たりが出たらもう一本!! キャンペーン期間 ~8/31)とある。
怪人(子)「………」
 アイスの棒とアイスの袋を手に、固まっている怪人(子)の後姿。
怪人(子)(世界よ滅べぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!)
 物凄い形相の怪人(子)。

○どこかの場所
 ドバアアアアアッ
 怪人から全方位に物凄いエネルギーが放出されている。周囲はさながら暴風域のよう。
キモチ「くっ…」
 風を腕で防ぎながら立っているのがやっとのキモチマン。
怪人「ギギッ……ギッ」
 白目を剥き、自我がない状態で立っている怪人。
キモチ「このままでは 地球が……っ」
 強い風にどうすることもできないキモチマン。そこへ
 謎の人影がキモチマンの前に立ちはだかる。メガネをかけた陰キャっぽい学ランを着た学生。
キモチ「!! キミは…?」
たかのぶ「おいおい 他人行儀だな」
たかのぶ「クラスメイトに向かって『キミは?』なんて」
 振り向き微笑むたかのぶ。
キモチ「たかのぶくん!」
 ヒーローヘルメットが透けて中の顔が少し見えるキモチマン。高校生主人公らしいさわやかな顔立ち。
たかのぶ「気付いてたんだ。たかし。お前が実はヒーローで、人知れずクラスのみんなを守っていてくれたこと」
キモチ「……」
 ヘルメット半透けで話を聞くキモチマン。
たかのぶ「だから今度は、俺がお前を守る番だ」
 駆け出すたかのぶ。
キモチ「たかのぶくんっ!」
 怪人に向かってつっこんで行くたかのぶ。
キモチ(友を思い自らを犠牲にする)
キモチ(これ以上に強いキモチは)
キモチ(ない)
たかのぶ「うおおおおおおおおお」
 怪人に近付き白く擦れていくたかのぶの姿。

○回想・校門
たかのぶ(一緒に帰ろうって言ったのに たかしのやつ遅いな~)
 校門で人を待っているたかのぶ。
たかのぶ「あっ」
 歩いて来るたかしが見える。
たかのぶ「おーい たかっ……」
 手を上げて呼ぼうとするが固まるたかのぶ。
たかし「しゅげぇえーーー! しゅげぇえーーー!」
 手を奇妙な風に動かしてそう言っておどけるたかし。お笑い芸人が一発ギャグでやっていることを真似している感じ。
友達「アハハハハハハ」
 それで笑ってる友達達。陽キャっぽい感じの子達。
たかし「しゅげぇえって! しゅげぇえーーーー!」
友達「ギャハハハハ」
 楽しそうにしているたかし達と、それ越しに見える微妙な表情で立ち尽くすたかのぶ。

○どこかの場所
 怪人に向かって走っているたかのぶ。
たかのぶ「友達だと思ってた奴が、別の友達と、俺の前では見せたことのないノリで話しているのを見た時の…」
たかのぶ「その時のキモチだあああああっ!!!」
 怪人に突っ込むたかのぶ。
 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン 大爆発
 土煙が晴れると大きなクレーターができており、それ以外何も残っていない。
 怪人の姿も。たかのぶの姿も。
 夕日に照らされ影の濃くなった顔で
キモチ「か……勝った」
N「こうして世界は救われた」

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