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クリシュナの老獪なゲーム:アシュワッターマンの運命を操る

第一巻第七話 アシュワッターマンへの懲罰

※※※ 吟誦詩人ウグラシュラヴァスと聖仙シャウナカは、互いに敬意を示すため、謙譲語や丁寧語を使って会話しています。しかし、これからは会話の文末を「です」「ます」の敬体から「だ」「である」の常体に変更します。バーガヴァタの三重入子構造の複雑さから、内容が混乱しやすく冗長になる点を改善するため、悩んだ末の決断です。この変更によって、対話にスピード感が生まれ、物語全体のテンポが向上すると考えます。

ナイミシャの森の聖仙シャウナカは言った。「ナーラダ仙が去り、その神仙の思いを知ったヴィヤーサはどうしたのか?」
吟誦詩人ウグラシュラヴァスは答えた。「ヴィヤーサはブラフマー神が支配するサラスワティー河西岸の隠棲所シャミャープラーサにある自らの庵に座し、心を集中させた。するとプルシャ(意識)とそのプルシャに依存するマーヤー(幻想,錯覚)が顕れるのを眼にした。
ジーヴァ(個の魂)は、このマーヤーによって、トリグナ(サットヴァ,ラジャス,タマス)を超えた存在である自分を、自分はトリグナで形成されていると考える様になり、この同一視によって悪い事態に陥るのだ。聖仙ヴィヤーサはクリシュナへのバクティ(献身)こそが、この問題に対処する直接の方法であると悟り、これを知らない人々のためにバーガヴァタ・プラーナを編纂した。物語りを聞くことで、クリシュナへのバクティが生まれ、このバクティこそが悲しみや迷い、恐れなど全てを消し去るのだ。編纂後、彼は隠棲者の生き方を愛する息子、聖シュカにその教えを伝えた。」

シャウナカは言った。「聖者シュカは静寂を愛し、この世の事物には一切関心を持たず、ただアートマン(自己)のみを喜びとする者だ。それにもかかわらず、なぜ彼はこの壮大な物語を学んだのか?」
スータ(吟誦詩人)は答えた。「たとえアートマンのみに喜びを見出し、世俗の束縛を断ち切った聖仙であっても、クリシュナへの揺るぎない献身を行うものだ。ましてや、ヴィシュヌの従者たちに愛されるシュカであるならば、なおさらのことだ。彼はこの年代記を学ぶにつれ、クリシュナの素晴らしさにますます魅了されていった。」
これから、王仙パリークシットの誕生とその生涯、魂の解放、そしてパーンドゥの息子たちの天国への旅立ちについて語る。これらはすべて、クリシュナの物語の導入部だからだ。マハーバーラタ戦争では、カウラヴァとパーンダヴァが戦い、ビーマ(パーンダヴァ兄弟の次男)はドゥルヨーダナの腿を槌矛(ガダ)で打ち砕いた。アシュワッターマンはドゥルヨーダナを喜ばせようと、眠るドラウパディー(パーンダヴァ兄弟の妻)の息子たちを惨殺し、その首を差し出したが、ドゥルヨーダナはこの卑劣な行為に不快感を覚えた。
嘆き悲しむ妻を慰めるため、アルジュナ(パーンダヴァ兄弟の三男)は「堕落したブラーフマナの首をガーンディーヴァ(弓)の矢で切り落とし、その頭をあなたが足で踏みつけた後に、この手であなたの涙を拭おう」と誓った。クリシュナを友であり戦車の御者とするアルジュナは、優しく魅惑的な言葉で妻を慰め、猿の紋章の旗を掲げた戦車に飛び乗り、自分の師であったドローナの息子アシュワッターマンを追いかた。

アシュワッターマンは子どもたちを殺害したことを後悔し始めたが、自分の命を惜しんで逃げ出した。しかし、追い詰められると、ブラフマー神から与えられた武器ブラフマーストラを、引戻す術(取消し方)を知らないまま放ってしまった。武器からは恐ろしい炎が放たれ、周囲一体を覆い尽くした。アルジュナは身の危険を感じクリシュナに問いかけた。「クリシュナ、クリシュナ、四方を覆う恐ろしい炎は一体何ですか?どこから来たのでしょうか?」クリシュナは答えた。「これはブラフマー神が管理する炎で、追い詰められたアシュワッターマンが放ったものです。しかし、彼はその取り消し方を知らない。この武器に対抗できるものは存在しないが、この凄まじい炎を消し去るには、同じ力を用いるしかないのです!」

アルジュナはブラフマーストラを撃退するため、ガーンディーヴァにそれをつがえ、空中で二つの矢が激突した。その炎は膨張し、まるで宇宙崩壊時に顕れる太陽のようだった。クリシュナの了承を得て、アルジュナは両方の武器を引き戻した。そしてアシュワッターマンを力ずくで縛り、自陣に連れ帰ろうとするが、クリシュナは激怒して言った。「アルジュナ、この堕落したブラーフマナをただちに殺さねばならない。真夜中に熟睡する子どもを殺した者を生かしておけば、同じ罪を繰り返し地獄に落ちるだろう。あなたはドラウパディーに、首を持ち帰ると約束したはずだ。主人のドゥルヨーダナでさえ忌まわしく思う無慈悲な罪を犯した者を始末しなければならない」
クリシュナからダルマを試されても、アルジュナはアシュワッターマンを陣営に連れ帰った。
ドラウパディーは、恥じてうなだれるドローナの息子アシュワッターマンを見て、まるで祭祀の犠牲獣のように縛られている彼を憐れんだ。「彼を自由にしてください。目の前にいるのは、ご子息という姿のドローナ様その人です。師の奥様クリピーはまだ存命であり、敬うべき教師の家族をあなたの手で処刑すべきではありません」

憐れみ深く誠実で、偏見のない王妃の言葉に、ユディシュティラ王(パーンダヴァ兄弟の長男)は心から賛同した。その場にいた全員が彼女の意見を支持したが、ビーマ(次男)だけは怒りに震え、「この男は、何の理由もなく眠っていた若者たちを殺した。そんな者が祝福されるとは!」と言った。
クリシュナはビーマとドラウパディーの言葉を聞き、アルジュナに微笑みかけて言った。「堕落したとしてもブラーフマナは殺すべきではないが、悪人は死に値する。だからこそ、あなたは聖典の教えに従いながらも、妻と約束したことを果たし、ビーマとドラウパディー、そして私を納得させなければならない」

アルジュナはクリシュナの意を汲み取り、剣でアシュワッターマンの頭に飾られた宝石と共に、チューダーマニ(髷)を切り落とした。子どもを殺したことに怯え、宝石と威厳を失ったアシュワッターマンは追放された。頭を剃られ財産を没収され、追放されることは、堕落したブラーフマナに対する最も重い処罰とされる。
その後、パーンドゥの息子たちとドラウパディーは、亡くなった親族の火葬と告別の儀式を執り行った。

※※※
七話を読んで、忘れかけていた「マハーバーラタ」の細部が鮮やかに蘇ってきました!まず、パーンダヴァ兄弟が五人もいて、その全員とドラウパディーが結婚しているってこと、覚えてました?これって、もう一度説明しておかないと。
ドラウパディーはパンチャーラ国の王女で、火の儀式から生まれたとか。スヴァヤムヴァラ(婿選び)でアルジュナにゲットされたのに、母クンティーのひと言で一気に五人の妻に!ええ、そういうこともあるんですね。そんなドラウパディー、カウラヴァたちに宮廷で屈辱を受けて、特にドゥルヨーダナとドゥフシャーサナには怒り爆発。復讐を誓って、それがマハーバーラタ戦争の引き金に。これだけ聞くと、なんだかすごく恐ろしい女性に思えるけど、実は彼女、知恵と勇気、そして正義感の塊で、兄弟たちを勝利に導く女神のような存在だったのよね。
そういえば、昔の私は、五兄弟を感覚器官と行為器官に対応させて考えてたんだけど、そうするとドラウパディーはチッタ、つまり意識の中心ということ。そんな風に読んでたから、物語の本来の楽しさを見逃してたかも?もう少し感情移入して楽しむべきだったかな、なーんてね。

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