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「熱海五郎一座」でこぼこ覚え書き・2

「熱海五郎一座」の覚え書きの続きを書こうと思いつつ、何ともう一カ月半経ってしまった。「エニシング・ゴーズ」の初日を控え、ゲネプロ画像にタミがワクワクしている今夜。楽しかった熱海五郎一座のことを、でこぼこながら書き上げて、気持ちのまとめとしたいと思う。

 三宅座長さんはじめベテラン陣、横山由依さん、ESTの皆さんの演技も素晴らしくて、笑いに次ぐ笑い、劇中人物ひとりひとりに親しみを感じながら楽しく物語を追った。皆、人間味あふれる、愛すべき人たち。「なかの人」のイメージもだぶらせ、クスッと笑いを誘いながらも、人情味たっぷりの軽妙なやりとりが展開される。

 ゆずるさん演じる女性将校は、最初は「異質」な感じで登場する。かなり極端で、やや行き過ぎな言動にも見える。しかし、次第に人間らしい弱みや欠点、ちょっととぼけた可愛げがにじみ出てくる。端正な美貌と、そんな不器用な可愛げのブレンド具合がとてもチャーミング。コミカルさとのバランスがやはり絶妙だと思った。

 元星中佐がドイツの総統のもとへ向かおうと、密かに行動しているのが発覚するあたり、理想と現実のギャップに打ちのめされるところ。赤いコートに、ロングのレースアップブーツといういでたち。すらりとして凛々しい立ち姿には、かつてゆずるさんが宝塚で演じてきたたくさんの青年たちの面影を感じた。オーム・プラカーシュ君、パーシー・ブレイクニー、鎌足、カール、ジャン・ルイ……。
 もちろん、言葉遣いなどは女性のそれとして演じておられるけれど、抱いた理想が破られて傷つくナイーブな横顔には、どこか、そんな懐かしさを覚えた。これはある意味、とても失礼な言い方になるかもしれないが、女優さんになられたからもう見られないだろうと思っていた懐かしい面影に、思いがけずまた会えた気がした。そして、これがもう最後なんだろうな、お別れなんだろうなと思った。そんな予感を裏付けるかのように、元星中佐は赤いコートを翻し、ロングブーツのすらりとした脚で鮮やかな蹴りを入れ、追っ手の男たち相手に見事な大立ち回りを演じた末、松笠元帥の銃口を逃れて落ち延びていく……。
 三宅座長さんは本当によくゆずるさんの過去作品を観ておられ、その良さや特徴をしっかり踏まえて、元星中佐という女性キャラを造られたわけだけれど、それは、ゆずるさんのそれまでの集大成であり、同時に、演技者としてのひと区切りをつける意味合いも持たせてあったのではないかと思った。どこまでが三宅さんが意図されてのことなのかは分からないが、宝塚で男役一途にやってこられたゆずるさんが、これから女優さんとして一歩を踏み出すに当たって、本当に自然にステップを上がってゆける、これ以上ない巡り合わせだったのではないだろうか。
 とまれ、退団の少し前にファンになった私にとっては、舞台で間近に観ることが叶わなかった「彼ら」の面影、名残のようなものも感じられて、気持ちを掬われたような気がした。

 物語の進行につれて、元星久美さんはどんどん人間らしさ、女性らしさを見せ、またさらなる魅力を発揮していく。

 ※やはり、この稿では収まり切れず……「覚え書き・3」に続きます。 

 
 

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