【やっつけ試訳】「バレス裁判」抄訳1(2021)

パリダダ末期の1921年5月、ダダ運動界隈はアンドレ・ブルトンの主導で革命法廷と称し、かつて尊敬した作家モーリス・バレスの右派転向を告発する模擬/欠席「裁判」を開くが、「証人」役で呼ばれたトリスタン・ツァラがこの「被告有罪」の予め定められた催しをまぜっ返した。この「バレス裁判」公演の「証言」と、かつての「ダダ宣言」とがツァラの最高の仕事だ(暫定的私見)。
ブルトンによる「起訴状」や、他の証言者の発言を含む「裁判記録」全訳は1981年5月『ユリイカ』臨時増刊号ダダ・シュルレアリスム特集掲載に朝吹亮二氏の記事がある。ちょうど外山恒一が『全共闘以前』として公開したアバンギャルド史でバレス裁判に触れているのでついでに一部拙訳をやっつけた。

底本:『リテラチュール』20号(1921)

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(前略)
ブルトン(裁判長):モーリス・バレスについて何を知っていますか。
ツァラ(証人):何も。
ブルトン:証言することはないのですか。
ツァラ:あります。
ブルトン:何ですか。
ツァラ:モーリス・バレスは私にとって、文学のキャリアを通じて出会った最高に不快な男であり、詩のキャリアを通じて出会った最低の悪党であり、政治のキャリアを通じて出会った最悪のブタ野郎であり、私がヨーロッパで出会った、ナポレオン以来最大のクソ野郎であります。私は、たとえダダによって行われるものだとしても、正義の裁きに信を置きません。あなたは同意してくださるでしょうが、裁判長どの、我々は皆ただのクズ野郎の集まりですので、でっかいクズ野郎かちっちゃいクズ野郎かのわずかな違いは、どのみちたいして重要ではありません。
ブルトン:同時代人、または他の時代の誰かの中にあなたの尊敬する人はいますか。
ツァラ:いいえ、私は皆クズ野郎だと申し上げました。もちろん我々は、共感あるいは反感によってわずかな差を設けることに慣れていますが、それはそれ以上でも以下でもありません。
ブルトン:その差をどうやって説明するつもりですか。
ツァラ:何も説明しません。さらに申せば、私は周りのことを何ひとつ理解しておりません。
ブルトン:そのような状況におけるあなたの判断をどうして重要だと断じるのですか。
ツァラ:私の強い嫌悪と強い反感において。
ブルトン:社会的な関係に自らを置こうとしないなら、あなたの証言に何の価値があるのですか。
ツァラ:あなたにとっての社会的な関係とは政府ですか、国家ですか、国民ですか、それとも軍ですか。でしたら、この私自身が政府であり、国家であり、国民であり、そして軍ですので、私の答えに裁判長どのは大喜びすること請け合いです。

(以下これの六倍続く。とりあえず2につづく)

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